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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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85/100

085.交渉

「ごめんなさい」

 武官の個室でしゅんとするヒナにランディは溜息をついた。


 イワライと人族が食堂に居たとして、わざわざ自分からそこへ歩いていくなんて。

 しかもリッキーは重い荷物を持っていたので戦えなかった。

 何かあったらどうするのか。


 さらに今日の17時からイワライと会う約束までしてきている。


「……困った子だね」

 ランディはグレーの眼を細めながらヒナの頬を両手でそっと包み込んだ。


「すぐにディーンに連絡して文官を休憩スペースに配置しよう。仕事のあとでは狼の姿で同行できないから、俺が一緒に行こうか」

 他の男と二人っきりで会わせるわけがないだろう? と微笑むランディにヒナは苦笑した。


「一人で行ったら……ダメかな」

 ランディが居るとイワライは交渉できない。

 あざとい上目遣いでヒナがダメ? と尋ねると、ランディはまた溜息をついた。


 そう言うだろうと思っていたが、本当に困った子だ。

 ランディは右手をそっとヒナの頬からずらすと、お仕置きと言いながらチュッと頬に口づけした。


 一気に真っ赤になるヒナ。

 ブワッと甘い魔力が部屋に広がる。


「一人で行かせたくないのだけれど」

 仕方がないねとランディはヒナを解放した。


「もしイワライから爵位の相談があったら宰相室に行くから」

「わかった。宰相にも連絡を入れておく。あと、逃げた人族の服装は?」

 ヒナは近くにあったテーブルを指差し、こんな感じの焦げ茶色の髪が肩よりも長かったと言った。

 白いシャツに黒いズボン。

 手には何も持っていなかった。

 人族と狼族の区別がつくヒナでなかったら見つけることはできなかっただろう。


 ヒナの仕事は15時まで。

 1度部屋に帰ってから17時に合わせて出発だ。

 ランディは武官達に人族を見かけたら捕まえるように指示を出し、各所へ連絡を行った。


 イワライとの待ち合わせ場所まで送っていくというランディを説得し、環境局の手前の廊下で別れ、ヒナは休憩スペースに。

 売店のお姉さんは今日もライラとディーン。

 何度見てもエプロン姿のディーンは面白い。


 狭い休憩スペースで待つイワライの隣にヒナは座った。


「こんな時間に、怒られなかった?」

「誰に?」

「彼に」

 彼とは誰を差しているのだろうか?

 ヒナが首を傾げるとイワライは困った顔をした。


「君の本心がわからないよ。表情が見えないからかな?」

 こっちが主導権を握るはずがいつの間にか聖女に主導権を握られている。

 困ったなぁとイワライは笑った。


「この前さ、この国の王太子に君をおススメしておいたよ」

「何て言ってた?」

「顔も見たことがないからわからないってさ」

 まぁ、そうだよねと二人で納得する。


「……聖女の資料はチェロヴェから持ち出せないけれど、その資料を読んだ人をこの国に保護してもらうのはダメかな」

 資料の内容はかなり覚えているので知りたいことをその人に聞いてはどうかとイワライが言う。


「人族? 昼に会ってた人?」

 絶対違うとわかっていながらヒナは昼間の人かと聞いた。


「あ、いや、彼はただの知り合いで。保護してほしい人はまだチェロヴェにいる」

「人族でしょう? 勝手にこの国にくればいい」

 自分みたいにとヒナが言うと、イワライは困った顔をした。


 彼は聖女の事を知りすぎて監視がついている。

 国外に出られないのだとイワライは溜息をついた。


「そんな人をどうやって保護するの?」

「国境まで逃げてくるから、そこから助けてほしい」


 それは国境で狼族に人族と戦えという事だ。

 ヒナは眉間にシワを寄せた。

 その人物はおそらくイワライの父。

 

「……この国の人を危険にさらしてまで手に入れるほど重要な人物なのかな」

 それほど価値があるのかと尋ねると、イワライはそのまま黙ってしまった。


 2週間経ってもイワライがヒナに近づいてこなかった理由は、ヒナを納得させるだけの材料が集められなかったから。

 自分でもこんな内容では交渉できないとわかっていたのだろう。


 今日ヒナがイワライに話しかけなければ、きっと夜会を過ぎてもイワライはヒナと会わなかった。

 なんとなくそんな気がしたヒナは溜息をついた。


「ねぇ、ちょっとついてきてもらっていい?」

 時間ある? とヒナが聞くとイワライは驚いた顔でヒナを見た。


 立ち上がったヒナに続き、イワライも立ち上がる。


「道、知らないから遠回りだけど文句言わないでね」

 ヒナは環境局から武官の第5棟へ行き、そこから中庭を通って階段を上がりキラキラの廊下を進んでいく。

 ユリウスに入ってはいけないと言われていた扉の前には護衛2人が立っていた。


「ねぇ、ここ、まずいんじゃ……」

 あまりにも場違いな所へ案内されたイワライがヒナを止めるが、ヒナは気にせず護衛の前に立った。

 ポケットから紙を取り出し護衛に見せると、護衛は大きな扉を開けお辞儀する。


 宰相である養父が準備してくれた許可証。

 いつでもこの紙を見せて入ってきていいと言ってくれたものだ。


「……嘘だろ?」

 信じられないとイワライが目を見開く。

 ヒナは気にせずに豪華な赤絨毯の廊下を進んだ。

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