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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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083.悪女

「すごいねランディ」

 あっという間に新しいドアノブに交換してくれたランディにヒナはありがとうと微笑んだ。


 鍵が壊れたのは昨日の夕方。

 ランディは朝から鍵を直しに来てくれたのだ。


「ねぇ、ヒナ。昨日はどこで寝たのかな?」

 ランディがヒナの頬を両手で掴みながらニッコリ微笑む。


 あ、これは機嫌が良くないランディだ。


「……アレクの部屋」


 普段もシングルベッドで狼のアレクサンドロと一緒に寝ているので気にしていなかったが、一緒に寝ているなんて普通に変だ。


 部屋を作ってもらった時から別々で寝ているとユリウス以外は思っているだろう。

 ヒナはぎこちなく笑った。


「まさか一緒に?」

「狼のアレクと」

 ふかふかのキングベッドで、もふもふのアレクサンドロと一緒に寝たとヒナが言うと、ランディは溜息をついた。


「アレクと何もなかった?」

「な、ない、ない。もふもふで暖かかっただけ」


 つまりくっついて寝たということか。

 昨晩、父のロウエル公爵から聞くまで使用人の事も、鍵が壊された事も知らなかった。

 ランディは困った顔をしながらゆっくりヒナの頬を解放した。


 護衛の前で鍵が掛かるか確認し、扉の前の待機を終わりにする。


 彼らは騎士の中でもアレクサンドロ付きの護衛騎士。

 機密もあるため少数精鋭。

 今回のように警備場所が1ヶ所でも増えると大変だ。


 それがわかっているロウエル公爵はあんな夕方にも関わらず、すぐに新しいドアノブを手配し早朝からランディに交換させたのだ。


「イワライばっかり気にしていたけれど、他にも危険な人がいたんだね」

 全然周りが見えていなかったと落ち込むヒナ。


「まだ見つかっていないそうだから気をつけるんだよ」

 ランディはヒナに新しい鍵を差し出した。

 古い鍵は壊れたドアノブと一緒に袋へ。


「この後は? 街に食事でも行くかい?」

「水曜日はアレクの手伝いなんです」

 だから街には行けないとヒナが言うと、ランディはヒナの腰を引き寄せた。


「ほあっ?」

「じゃ、しばらくイチャイチャだね」

 耳元で囁かれる言葉にヒナは真っ赤になった。


 アレクサンドロとユリウスは会議中。

 あと2時間は帰ってこない。


「あ、えっと今日はパンを焼こうかと」

「一緒に作ろうか」

 ヒナのパンは美味しいからねと微笑むランディ。


 No.1ホストがパン作り。

 想像したヒナは似合わないと吹き出した。


 密着した腕の中で可愛く笑うヒナ。

 今この部屋には2人きりだと気づいているだろうか?


 護衛も下がらせてしまった。

 アレクサンドロとユリウスもいない。

 押し倒しても誰も助けに来ないとわかっているだろうか?


「ヒナ」

 ランディのグレーの眼が優しく微笑む。

 なんとなく感じる甘い雰囲気にヒナは顔を上げた。


 あ。

 これはキスの流れだ。


 目を逸らさないといけないのに、グレーの眼から目が離せない。


 跳ね上がる心臓。

 熱くなる身体。


 ヒナから甘い魔力が溢れ出すとランディは嬉しそうに微笑んだ。


「嬉しいよ。俺を意識してくれたんだね」

 耳元で囁くランディの声は低く優しく、のぼせそうになる。


 コレがNo.1ホストの手口!

 

 キスされると思ったのにされなかった。

 ヒナは真っ赤になった顔を両手で隠した。


「どうして隠すの?」

 ランディが笑う。


 一瞬キスされてもいいと、キスされたいと思ってしまった。

 無茶苦茶恥ずかしい。

 ヒナは顔を隠したまま首を左右に振った。


 少し気持ちが落ち着くまで待った後、やっとパン作りの準備をする。

 今日も天気が良いのでよく膨らむはず。

 ヒナはサーモンピンクのカーテンと窓を開けた。


「混ぜる?」

「えっ? 本当に一緒に作るの?」

 冗談だと思っていたヒナはランディがボウルを持っていることに驚いた。


「見ていたからなんとなくわかるよ」

 フィリップがオオカミを攻撃した日、ランディは銀狼の姿でずっと見ていた。


 優雅に部屋の真ん中でくつろいでいると思ったが、作っている姿をずっと見られていたとは。


 ランディは手際が良いし、手先が器用だ。

 恐るべしNo.1ホスト。

 ドアノブも直せるし、パンも作れる。


「良い匂いだね」

 膨らんでいるし大丈夫そうだとオーブンを覗き込むランディの姿が似合わなさすぎてヒナは笑った。


 パンを焼いている間にシチューを煮込み、2人分のチキンを焼く。

 もうすぐ完成しそうな頃、バサッと音を立て窓際にフィリップが止まった。


「こんにちは、フィル」

 ヒナが挨拶するとイーグルのフィリップはペコッと頭を下げる。

 フィリップはジッとランディを見つめた。


 アレクサンドロではなく、兄でもない男。

 初めての茶会でオオカミを並ばせていた男だ。


「今ね、アレクが会議中でね、ランディと留守番中。パンがもうすぐ焼けるけれど食べる?」

 切ってよければ窓から出せるとヒナが微笑むとイーグルのフィリップは頷いた。


 今日のパンは具が入っていないシンプルなロールパン。


「熱いからちょっと待ってね」

 パンを手で割るヒナの手首を握ると、ランディはパンを自分の口に入れた。


「うん、美味しいよ」

 味見はしないとねとヒナに微笑んだ後、ランディはフィリップの方を見つめた。


「俺も求婚中」

 ただの武官だけれど。と付け加え宣戦布告する。

 イーグルのフィリップはランディをジッと見つめた。


「はい、フィル」

 ヒナが割り込むように窓の前に立ち、隙間からパンを出すと、フィリップはパンをかじる。


 鳥なので1回に口に入る量は多くない。

 ヒナがパンの端を持った状態でフィリップは少しずつパンを食べた。


「どう?」

 うんうんと頷くフィリップ。


「良かった」

 ヒナが微笑むとフィリップの目が揺れた。


 ヒナが持っていたパンは鳥には大きすぎた。

 フィリップは残りのパンを咥えると頭を下げてから飛び立つ。

 ヒナは手を振ってフィリップを見送った。


「……いつもこんな感じ?」

「えっ? 何か変だった?」

 ランディの問いにまた常識がないことをしていただろうかと焦るヒナ。


「……悪女だね」

 はぁと溜息をつくランディにヒナは首を傾げた。


 アレクサンドロが会議から戻り、ランディも昼ご飯に誘う。


「は? なんでランディはヒナの作った食事だ? ユリウス! 俺も!」

「ダメです」

 ぐぬぬと唸るアレクサンドロ。


「はい、アレク。チキン」

 あーんとフォークを差し出すヒナ。


 嬉しそうに食べるアレクサンドロと、見守るユリウス。


 やっぱり悪女だね。

 ランディは天然鈍感なヒナを見ながら溜息をついた。

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