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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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80/100

080.本

 ヒナのベッドの横のテーブルにはランディからもらったバンダナが敷いてある。


 その上にはアレクサンドロが贈ったバレッタ。

 ランディと買った手帳とペンと花瓶。

 ディーンからもらったブラウニーの箱と本。


 そして3連のブレスレットが増えた。


 今日はフィリップと街へ行ったと聞いた。

 そのあとなぜかランディと街でお昼ご飯を食べたと。


 ブレスレットはどっちからの贈り物だ?

 狼のアレクサンドロはヒナのベッドの上で溜息をついた。


 そういえばブレスレット以外に本が増えている。

 数日前からだ。


 他の本はそのままなのにこの本だけ布でブックカバーがかけられている。

 そんなに大事な本なのか?


 狼のアレクサンドロは手で器用に本を引き寄せた。

 ベッドの上に落とし、鼻でふんふんとページを捲る。


 あり得ないタイトルにアレクサンドロは固まった。


『異類婚の夜生活』


 誰と?


 人族のヒナが人族以外と結婚すれば異類婚だ。

 でも誰と?

 こんな本を読むくらい何かを悩んでいるのか?


「お待たせアレク」

 乾かした髪を後ろで縛りながら歩いてくるヒナはベッドの上でアレクサンドロが見ている本に気づき慌てふためいた。


「えっ? 見た? アレク、見た?」

 真っ赤になりながら本を奪い、胸に抱えるヒナ。


「えっと、これは、この本しかなくて、調べたい事があって、別にそういうことじゃなくて」

 もう何を言っているかよくわからないヒナは真っ赤な顔で本を元の場所に戻す。


 狼のアレクサンドロはベッドを降りると隣の部屋に消えた。


「えっ? アレク?」

 いつもと違うアレクサンドロの行動に焦るヒナ。


 こんな本を持っているなんて信じられないと軽蔑されたのだろうか?

 ヒナは困った顔で置いた本の方を見ると、盛大に溜息をついた。


 チェロヴェの人族は最弱。

 女性は強い男性に憧れ、異類婚を望む人が時々いるのだと本には書いてあった。

 逆に人族の男性は弱く魅力がないため、人族の男性の異類婚は滅多にない。


 イワライはお父さんが人族。

 かなり珍しいケースなのだとわかった。


 異類婚で生まれた子は男性の種族の特徴を持つと書かれていた。


 イワライが茶色の狼のような気がするのに狼の姿が想像できないのは、父親の人族が優勢だからのようだ。

 だから結界を超えても姿が変わらない。


 プチィツァ国がイワライを人族だと思ったのは結界の中でも姿が変わらなかったからだろう。


「……ヒナ」

 服を着たアレクサンドロがヒナの部屋の前に立つ。

 狼の姿の時はベッドまで平気で来るくせに、人の姿の時は入るのを遠慮しているようだ。


「……話がしたい」

「変な本を持っているから?」

 ヒナが肩をすくめるとアレクサンドロは困った顔で微笑んだ。


「アレクの部屋? 紅茶淹れる?」

「そうだな」

 時計は夜10時。

 当然もうユリウスはいない。


 ユリウスがいつも使っているティーセットを出し、最近アレクサンドロが気に入っているルクリリを手に取った。


「ミルクティー?」

「そのままでいい」

 ソファーに座るアレクサンドロは少しそっけない。


 ヒナが紅茶をゆっくり注ぐと濃い目の透き通ったオレンジ色がカップに広がった。


 ティーカップをテーブルに置き、アレクサンドロの正面に座ると、食事の場所であるアレクサンドロの隣をボンボンされる。


 ヒナは紅茶をずらし、アレクサンドロの隣に回った。


「何を調べている?」

 ヒナが淹れた紅茶を飲みながらアレクサンドロが尋ねるとヒナは困った顔をした。


 イワライの事はアレクサンドロに言わない方が良いだろう。

 でもイワライの事を言わずに調べている内容をうまく話せない。


「言えないのか?」

 ヒナが目を伏せると、アレクサンドロは悲しそうな顔でティーカップをソーサーに戻した。


「頼りないか? 何もできない俺には話せないか?」

「違っ、」

 ヒナはグッと手を握る。


 アレクサンドロは固く閉じたヒナの手の上に自分の手を重ねた。


「最近何をしている? 夕飯もランディと食べる日が増えた。ダンスの練習はしなくなった。あの本は何のためだ? ……最近のヒナは変だ」

 アレクサンドロはグッとヒナの手を上から握るとヒナの顔を覗き込んだ。


 アレクサンドロには自分からは何も伝えていない。


 ダンスは無理だとイケオジ3人に言われた事も聞いていないようだ。

 夜会までの作戦も宰相から何も聞いていないのだろう。


 それなのに急にあんな本を持っているのを見てしまったら驚くのは当然。

 変だと言われても仕方がない。


「ダンス……はね、お父様とコヴァック公爵とロウエル公爵が無理だって。今回はやめようって」

 センスがなくて踊れなかったとヒナが苦笑すると、アレクサンドロは驚いた顔をした。


 確かにダンスは貴族の子ならば子供の頃からずっと当たり前のように練習している。

 ヒナに限らず、踊った事がない者にいきなり2ヶ月で踊れと言うのは過酷だ。


 頑張ってたくさん練習していたが無理だと言われたとは知らなかった。

 アレクサンドロはヒナの肩をグッと引き寄せた。


「たくさん、足が痛くなるまで練習したのにな」

「どうして」

「寝る前、何度か(かかと)が痛そうだった」

 靴擦れもあったし、足の親指の横がヒールで赤くなっている日もあったとアレクサンドロが言うと、ヒナは恥ずかしくてアレクサンドロの胸に顔を埋めた。


 まさか見られていたとは。

 治癒でサッと治してしまえばよかった。


「あの本はディーンに頼んで手に入れてもらったチェロヴェの本」

「チェロヴェ?」

「熊族とか豹族とか仲が悪いでしょ? それでも結婚した人がいるのかなって」

 ヒナが顔を埋めたまま話すと、アレクサンドロは首を傾げた。


「種族が違うからって争うのは変だと思って……」


 昔からずっと争ってきた国同士の戦いをヒナは変だと言う。

 そういうものだと思っていたがヒナにとっては違うのか。


 アレクサンドロはヒナの肩を抱いたまま天井を見上げた。

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