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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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077.国境

「あー、敵意はないから攻撃しないでくれるかな? そっちの大将アービン公爵だっけ? 呼んでくれない?」

 ロウエルが来たと伝えて欲しいと、銀の髪をなびかせながらロウエル公爵は微笑んだ。


 熊族ミドヴェ国との国境。

 ここはよく熊族と狼族が小競り合いを起こす地域。

 この街は共通街と位置づけられておりどちらの種族も売買ができる。

 商人はこの街で物資を交換するというのが暗黙の了解だ。


 カフェのテラスで優雅に紅茶を飲むロウエル公爵。


 本当に敵意はなく、穏やかな顔で紅茶の香りを楽しんでいた。


「……待たせてすまない」

 熊族らしい大きく硬そうな身体のアービン公爵がテラスに現れ、紅茶を注文する。

 ドカッと大きな音を立てながら座ると、暑いのか扇で顔をあおぎだした。


「急いでもらったみたいですまないね」

 約束すればよかったのだが、警戒されると困ると笑うロウエル公爵。


「奇襲かと思った」

 アービン公爵はテラスで優雅に紅茶を飲むロウエル公爵を見るまでは、狼族が攻めてきたのだと思っていたと苦笑した。


「敵意はないと伝えたけどね」

「なかなか信用もできなくてな」

「確かに」

 逆の立場だったら自分もそうだとロウエル公爵は笑う。


 アービン公爵の紅茶が運ばれ、ウェイターが去る。

 アービン公爵もゆっくりと紅茶を飲むと、ようやく一息ついた。

 扇は閉じて胸ポケットに。


 大将同士がカフェで一緒に紅茶を飲むというあり得ない状況に熊族も狼族も釘付けだ。

 どちらの武官も2人の大将を離れた場所から見続けた。


「争うのやめないか?」

 突然のロウエル公爵の言葉にアービン公爵は目を見開いた。


「一体どれだけやられたと」

「お互い様だ」

 狼族だって熊族の爪の引っ掻き傷が致命傷となり、まだ20歳にもならない若い命がつい数ヶ月前に消えたばかり。

 熊族もオオカミの牙で何人も噛み殺された。


 話にならないと立ち上がるアービン公爵にロウエル公爵はニヤッと笑った。


「聖女のウワサは届いているか?」


 振り返り立ち止まるアービン公爵。

 少し悩み、また席へと戻った。


「聖女は戦いを望まない。国同士の小競り合いで怪我した人よりも、病気で苦しむ人を助けたいそうだ」

 ロウエル公爵はヒナから預かった5枚のクッキー入りの袋をテーブルに置いた。


「それは?」

「聖女が作った治癒クッキーだ」

 食べると病気も怪我も治るとロウエル公爵が言うとアービン公爵の眉毛が片方上がった。


「証拠は?」

「銀狼の背中を見た事があるか?」

「あぁ、大きな引っ掻き傷がある」

 お前の背中だろう? とアービン公爵はロウエル公爵を見る。


 ロウエル公爵は上着を脱ぐと隣の椅子に放り、シャツのボタンを外した。


「おい、ここで脱ぐのか?」

「見せた方が早い」

 人前だろうが関係ないとロウエル公爵はシャツを脱いだ。

 後ろを向き、背中を見せる。


 背中だけでなく、肩にも腕にも傷は一切ない。

 すぐにシャツのボタンを適当に止めロウエル公爵は椅子に座りなおした。


「……これで治るのか?」

 信じられないと驚くアービン公爵。


「すでにプチィツァ国とは友好国になり、このクッキーの出荷を始めている。貴国も興味があれば夜会で王子殿下から聖女に話をするといい」

 ロウエル公爵は隣の椅子に置いた上着を手に取り立ち上がった。


 何かが光を反射する。

 気づいた時にはもう矢は目の前。


「避けろ!」

 ロウエル公爵はアービン公爵を押した。

 矢はアービン公爵の左腕を擦り店の壁に突き刺さる。


「おい、大丈夫か?」

 ロウエル公爵がアービン公爵に声をかけると、腕を押さえたアービン公爵は立ち上がった。


 壁に刺さった矢は熊族ミドヴェ国で使用される鹿狩用。

 つまり矢を放ったのはミドヴェ国だ。


 光った場所もミドヴェの武官達がいる所。

 自分の国の大将に怪我をさせるとはヘタクソにもほどがある。


「……すまんな、部下の躾がなっていなくて」

 アービン公爵は自分の部下達を睨むと、指を差し犯人を捕まえろと指示を出した。


 飛び道具を使用するなど熊族ではあってはならない。

 自分の爪で戦えないのなら戦う資格はない。

 飛び道具は卑怯者が使う物。


 しかも今は戦いの最中ではない。

 ただカフェで茶を飲んでいる相手を攻撃しようとしたのだ。


「本当にすまない」

 アービン公爵は腕を押さえながら何度もロウエル公爵に謝罪する。

 椅子にドカッと座ると、血が垂れてくる腕をテーブルの上に置いた。


 ロウエル公爵は胸ポケットから予備のヒナのクッキーを取り出すとアービン公爵に1枚差し出す。


「毒は入っていない」

 パキッと割り、破片を食べ安全だと証明するロウエル公爵。


 アービン公爵は割れたクッキーを受け取ると口に入れた。


 普通のサクサククッキーだ。

 味も普通。


 だがすぐに普通のクッキーではない事はわかった。

 ジンジンしていた腕は痛くない。

 あり得ないと思いつつ、腕を確認し驚くアービン公爵。


「すごいだろ」

 信じたか? と笑うロウエル公爵にアービン公爵は「すごいな」と呟いた。


「どうして新しいクッキーをくれた?」

 テーブルの上には手付かずの5枚のクッキー。

 ロウエル公爵はわざわざ新しい袋からクッキーを出した。

 新しい袋を開けずにテーブルの上のこれを使えと言えば良いのに。


「献上品に手はつけられないだろう?」

 宮仕は辛いよなとロウエル公爵は笑う。


 クッキーはこのまま国王陛下へ献上しなくてはならない。

 封が開いている状態で渡せるはずがないのだ。


「先ほど矢を放った者は厳正に処分する。危険な目に合わせてすまなかった」

「痛い思いをしたのはそっちだけどな」

 矢が下手なやつだなとロウエル公爵が言うと、だから負けるんだとアービン公爵は苦笑した。


「聖女の想いと貴国の想いは理解した。これは有り難く頂く。夜会で実りある話ができるように微力ながら尽力しよう」

 血のついた手をハンカチで出来るだけ拭くとアービン公爵は立ち上がり、ロウエル公爵へ手を差し出した。

 握手を交わす公爵2人に周りが驚く。


「何かあればロウエルまで。『鳥』を使ってもらってもかまわない」

「あぁ、友好国と言っていたか。急に『鳥』が消えた理由はそれか」

 アービン公爵は急に情報が入らなくなったと肩をすくめた。


「個人的に仲良くなれた記念に。チェロヴェの大臣と通じている奴が貴国にいるよ。気をつけた方がいい」

 

 ロウエル公爵が銀の髪をなびかせながら微笑むと、アービン公爵は「それはとんでもない情報だ」と苦笑した。

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