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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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076.騙されている

 夜会まであと1ヶ月。

 どこまで準備ができるだろうか。


 宰相である養父にイワライの報告書を渡し、コヴァック公爵・ロウエル公爵に協力をお願いしたら、自分が考えた案よりも遥かに良い案を提案してくれた。


 さすが国を相手に戦っている人たち。

 知識も経験もない自分では思いつかないような作戦にヒナは圧倒された。


 成功すればもう周辺国と争わなくて済む。


 ヒナは子供の厩舎から大人の厩舎へ移動するオオカミ達を見送りながら眼鏡の隙間から涙を拭った。


「そんな顔しないでおくれ」

 またすぐに次の子が産まれるから。とヒナの顔を両手で包み込むランディ。

 頬と耳に口づけするとグレーの眼で優しく微笑んだ。


「さぁ、ジョシュ達と食事をしておいで」

「一緒に行かないの?」

「俺はリッキーたちと後半。先にここの掃除をするよ」

 ヒナの頭を撫で行っておいでと送り出してくれるランディ。

 ヒナは行ってきますと微笑んだ。


 ジョシュとノックス、ヒナがいなくなったオオカミ厩舎。


「ねぇ、ランディ。本気?」

 リッキーがどうしても気になっていた事をランディに尋ねた。


「うん? あの子は治癒が使えるんだよ。 ロウエル一族としてはあの子が欲しいよ」

 ロウエル一族は武官の中でも戦いの中で中心となり纏める役割を持つ。

 怪我など日常茶飯事だ。


「そうじゃなくって。本当にあの子と結婚するの?」

「あぁ。妻と遊び相手は別だろう? 治癒が使える妻を持ったっていいじゃないか」

 自分は次男。

 子供も作らなくて構わない。

 だったら役に立つ妻をもらう事が一族のためだとランディはリッキーに説明した。


「いや、でもさ、可哀想だよ」

「どうしてかな? 優しくしているよ」

 あの子だって嫌がっていないとランディは笑う。


 オオカミ厩舎の入口から離れる白衣を確認すると、ランディは溜息をついた。


「……いなくなったよ」

 白衣のイワライが離れた事を確認したライルがオオカミ厩舎に入ってくる。


「ホント、悪い男だよねぇ」

「似合いすぎてね」

 リッキーとライルがランディを笑う。


 見た目も良く優しいランディに一夜でいいからお相手してほしいという女性達は絶えない。

 そんなランディが眼鏡にズボンのヒナを口説いている。

 本当に本気で口説いているのだが、今はヒナを騙している演技中だ。


 武官達にも協力してもらい、悪い男に騙されるヒナは可哀想という印象をイワライにつける作戦だ。

 今のところうまく行っていると思う。


 だが、演技だとしても心が痛い。

 本当にヒナが好きなのに。


 食堂ではジョシュが大皿2枚の肉を平らげ、足りないと追加の肉を取りに行った。

 ノックスはデザートを見てくると席を立つ。

 ヒナは笑いながらスープに手を伸ばした。


「ねぇ、あいつやめた方が良いよ」

 急に話しかけられたヒナの身体がビクッと揺れる。


「脅かさないでよ、毎回、毎回」

 後ろに座るイワライにヒナは苦笑した。


 お互い相手を見ないまま会話をする。

 ジョシュとノックスは会話をしている事に気が付かないはずだ。


「騙されてるよ、君」

「……どうして? 優しいよ」

 騙されていないとヒナが言うと、イワライは溜息をついた。


「他の女と遊んでるよ」

 君の力が目的で別に君の事は好きじゃないとイワライが言うと、ヒナは飲んでいたスープをテーブルに置いた。


「どの国の王子だって一緒でしょ。誰も私を好きにならない。優しいかもわからない。だったら見た目も良くて優しくしてくれる彼と一緒にいたい」

 この世界でこんな喪女に優しくしてくれたのは彼だけだとヒナが言うと、イワライは手をグッと握った。


 そのまま会話がなくなる。

 ヒナはサラダに手を伸ばすとシャクシャクと良い音を立てながら食べた。


「ライルが戻ってくる」

 フルーツの盛り合わせを持ったライルが上機嫌で戻る姿を確認したヒナが声をかけると、イワライはスッと立ち上がり消えた。


「ひーくん見て、すっごくない?」

 メロンも入ってるんだよと笑うライル。

 イワライには気づいていないフリだ。


「えぇ? 待って、なんで2皿?」

 ジョシュが左右の手に大皿を持つ姿にヒナは笑った。


「ちょっとジョシュ食べ過ぎ!」

「決められんかった」

 どっちもうまそうだと笑うジョシュ。

 あっという間にペロリと食べてしまい、さっき2皿食べたはずなのに追加の2皿も平らげてしまったジョシュにヒナは驚いた。


 武官の後はランディと仲良くカフェテリアで食事をする。

 個室へ入り、隣同士で食事だ。

 個室のガラスは半透明。

 店内からはギリギリ見えるかどうか。


 食べさせ合い、笑い合う姿を見たイワライはカフェテリアを引き返した。


 廊下ですれ違うディーン。

 眉間にシワを寄せたイワライの顔にディーンは驚いた。

 そのままイチャイチャの2人がいる個室へ。

 ディーンは個室へ入ると半透明のガラスを店内から見えないように真っ白に変えた。


「……彼はもっと手段を選ばない人かと思いましたが、悩んでしまったようですね」

「もともと優しいんですよ」

 最初からアレクサンドロのためを思って行動していたので、根は悪い人ではないと思っていたとヒナが笑う。


「騙されているからやめた方が良いって」

 作戦成功だと笑うヒナの顔をランディは両手で包み込み、引き上げた。


「騙していないよ?」

 本気で口説いているけれど。

 グレーの眼で見つめるランディ。

 ヒナは真っ赤な顔でワタワタと慌てた。


「本がやっと手に入ったので、ユリウスに渡しておきました」

 ただ、あの本しかなくて申し訳ないのですがと目を伏せるディーン。


「えっ? 待って、あの本をお兄様に渡したの?」

「はい、相当驚いていました」

「あの本?」

「『異類婚の夜生活』です」

 過激なタイトルにランディが驚く。


「一緒に読んで実践しようか」

 グイッとヒナの腰を引き寄せ、首に口づけるランディ。

 ヒナは遠慮しますと首を全力で左右に振った。


 ランディがアレクサンドロの部屋までヒナを送ると、難しい顔のユリウスが待ち構えていた。


「ヒナ? この本ですが」

「あぁ、ユリウス。ディーンから預かってくれたのかい? 頼んだものが届いてよかったよ」

 ユリウスの手からヒョイと奪うランディ。


「さぁ、ヒナ。部屋へ行こうか」

 ヒナの腰を抱き、耳元でランディが囁くとヒナは真っ赤になった。


「帰りは向こうから出るから、ここは通らないよ」

 じゃぁねと手を振るランディにユリウスは溜息をついた。


 向こうから出たら何時に帰ったかわからないではないですか。

 ランディが欲しい本をヒナがディーンに頼んだのだろうか。

 もしかしてヒナの貞操の危機なのだろうか?


 止める? 止めない?

 ユリウスは額を押さえて悩みだす。


「ユリウス? どうした?」

 シャワーを浴びたアレクサンドロが難しい顔のユリウスに声をかけると、ユリウスは溜息をついた。


「今、ランディとヒナが帰ってきましたが、2人で部屋へ行きましたので、すぐに行かない方がよろしいかと」

「はぁ? こんな時間にランディと2人きり?」

 時計は夜の8時。

 部屋に入るには遅い時間だ。


「ヒナはランディが好きなのか?」

 眉間にシワを寄せるアレクサンドロ。

 ユリウスは答えることなく困った顔で微笑んだ。

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