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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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007.手当て

「ヒナ、ごめん。仕事が入ってしまったからディーンと回ってくれるかな?」

「今の……合図?」

「そうだよ。30人手伝ってって」

 ヒナと繋いでいた手を離し、行ってくるねとランディはヒナの頭を撫でた。


 そのまま急いで走って行ってしまうランディ。

 他の人達も廊下をどんどん走って行く。

 走って行く人の邪魔にならないように、ヒナは廊下の端っ子でディーンと止まった。


「……何があったのですか?」

 ランディは今日お休みだと言っていた。

 それでも走って行くということは緊急事態。

 見上げるヒナに負けたディーンは怪我人ですと正直に教えた。


「ディーン様は行かなくて良いのですか?」

「私は文官なので」

「でも30人も行っていないのに?」

 ヒナはみんなが入って行った建物を指差す。


 指差された建物は確かに第五棟。

 ヒナには『武官の建物』だと教えた建物だ。

 建物の数字は教えていない。


「何人くらい入って行きましたか?」

「18人くらい……かな」

 ランディも入って行ったと言うヒナにディーンは驚いた。 


 キョロキョロしていると思ったが、周りを観察していたのか。

 『行かなくて良いのですか?』は、『30人より少ないけれど行かないのか?』という意味だろう。


「私、建物の前でも、ここでも一人で待てますよ?」

 この子は賢い。

 こちらの状況を把握し、こちらが望む答えを先に言う。

 こんな女性は初めてだ。

 普通の令嬢はランディが仕事だと言った時点で怒るだろう。


「一緒に来てもらえますか?」

 ヒナが頷くと、ディーンは手を繋ぎ第五棟へ移動を始めた。


「怪我人は奥が重傷、手前が軽傷です。重傷者も軽傷者もどちらも多いと思います」

 血は平気ですか?

 包帯は巻けますか?

 塗り薬の匂いは平気ですか?

 ディーンのいくつかの質問にヒナは答える。

 建物の直前でディーンは止まると、ディーンはヒナの顔を両手で包み込んだ。


「ヒナ嬢はユリウスの親戚。今日はランディと私と三人で探険中に偶然居合わせた」

 ディーンの言葉にヒナが頷く。

 もし聞かれたらそう答えろという事だ。

 

 家名は名乗らない。

 眼鏡は取らない。

 気分が悪くなったら入り口の近くで座って待つ。

 困ったらランディかディーンを呼ぶ。

 腕に赤の腕章をつけた人は医者なので指示に従う。


「良いですか?」

 心配そうに顔を覗き込むディーンにヒナは頷いた。


「では行きましょう」

 ディーンに手を繋がれたまま建物の中へ入ったヒナは驚いた。


 思っていたよりもヒドイ。

 勝手に病院のようなベッドの上にいる人を想像していたが、椅子もなく、みんな床に座り込んでいた。

 怪我をした狼も一緒だ。


 これで軽傷?


「なんだよ、文官のお偉いさん。薬代が高すぎるって言いに来たのか?」

 腕を押さえた男性がディーンを見て苦笑する。

 ディーンは眉間にシワを寄せながら奥へ進んだ。


 棚に置かれた包帯やガーゼ、塗り薬をディーンから手渡される。


「最初は一緒にやりましょう」

 ディーンに連れられ、ヒナはその部屋の一番奥、つまり一番怪我が酷い狼に近づいた。


 足を必死に舐めているが血は止まらない。

 舐めるよりもどんどん溢れる血はまるで森で会ったアレクサンドロのようだった。

 ヒナはガーゼに塗り薬を乗せた。

 狼の横にしゃがんで包帯とテープを用意する。


「薬をつけるね」

 ヒナが薬を塗ったガーゼを見せながら「変な物じゃないよ」とアピールすると、狼の緑色の眼が揺れた。


 そっと傷にガーゼを乗せる。


「ガウッ」

「ごめんね」

 痛いよねと言いながら包帯を巻く。

 最後にテープで止めたら終わりだ。


「早く治るといいね」

 ヒナが右手で狼の耳の後ろを撫でると、狼はヒナの左手をペロッと舐めた。


「グアォ」

「ありがとうと言っています」

 ディーンの通訳でヒナが微笑む。

 ヒナは立ち上がらず横へ移動し、隣の狼にも包帯を巻いた。


「合格ですか?」

「えぇ。とても上手です」

 ヒナは20頭以上の狼に包帯を巻き、ディーンも15人程手当をした。


 最後は入り口でディーンに文句を言ったお兄さんだ。


「遅くなりました」

 今までみんなを手当していた姿を見ていた男は気まずそうに腕を出す。


「……さっきは悪かった」

「いえ。本当の事ですから」

 武官がどんなに怪我をしても文官は手伝わない。

 自分たちの仕事ではないからだ。

 ディーンがガーゼを押さえ、ヒナが包帯を巻く。


「ありがとな。小さいのに偉いな坊主。……いや、嬢ちゃんか? 巻いてもらったらもう治った気になるから不思議だな」

「お大事に」

 そう微笑んだヒナは、ディーンの隣で座った状態のまま横に倒れた。


「どうしました? 大丈夫ですか?」

 脈は正常、息もしている。

 ヒナを抱き上げたいがヒョロヒョロの自分では部屋まで運べない。


「ランディを呼んでもらえますか? おそらく重傷者の方に」

「わかった」

「どうしてここに?」

 呼ばれたランディはヒナを軽々と抱え上げる。


「私が代わりに重傷者の方に行きます」

「あぁ、頼んだディーン。また後で」

 ランディはヒナをアレクサンドロの部屋まで運ぶと、そっとベッドに置いた。


「何があった?」

 公務から戻ったアレクサンドロはベッドで眠るヒナに駆け寄った。


「熊族と国境で揉め、ケガをした武官が大勢運ばれたと報告がありましたが」

 関係ありますか? とユリウスが尋ねるとランディは頷いた。


「ディーンしか事情がわからない」

 ランディを呼びに来たジョシュはヒナに包帯を巻いてもらったと言っていたが、一体なぜあの場にヒナを連れてきたのかディーンを問い詰めたい。


「ヒナ」

 アレクサンドロがヒナの前髪を退け、おでこを撫でる。

 普通に眠っているような顔。

 アレクサンドロは溜息をつくと、ヒナのおでこから手を離した。


 アレクサンドロは次の予定があり、ユリウスに引きずられるように出て行く。


 ディーンが戻ったのは二時間後。

 重傷者の一人が残念ながら亡くなってしまったとディーンはランディに報告した。


 亡くなったのは一番怪我が酷かった彼だろう。

 ランディも知っている子だ。

 まだ20歳の元気がいい青年だった。


 こんな時、国に結界があればと思ってしまう。

 熊族のミドヴェ国に襲われる事も、豹族のレパード国に襲われる事もなければ、若い命が犠牲にならずに済んだのに。

 ランディは悔しそうに手をグッと握った。


「今まで文官たちがすみませんでした」

 武官はこんな大変な思いをしていたのに、文官の自分たちはいつも手伝わない。

 包帯代が、薬代が高い、もっと怪我をしないように出来ないのかと、ひどい言葉を投げつけていた。

 嫌われて当然だ。


「ディーン! 戻ったか」

 急いで公務から戻ってきたアレクサンドロが事情を聞かせろとディーンに詰め寄る。


「ヒナ嬢は応援が18人しか行っていないのになぜ行かないのかと私に聞きました」

「確かに20人程しかいなかったが」

「数えていたようです。建物に入って行く人数を。ランディが入るのも確認していました」

 あの状況で緊急事態だと察し、ランディに置いて行かれたことにも文句を言わず、走る人を目で追いかけ、行先を知らないのに人数を確認した。

 おそらく他の建物に出入りした人も見ていたのだろうが、ランディの姿を見てあの建物だと確信したのだろう。


 廊下でずっとキョロキョロしていたが、いろいろなことを確認していたのだ。


「人手が足りず中程度は後回しだった。軽傷者は重傷者を手当てするのに必死で。今日は怪我人が多く、入り口付近でさえ中程度の怪我人だった。女性をあんな場所へ連れていくなんて」

 男でも目を背けるような傷だったのにとランディはディーンを責めた。


「手際も良く、20頭以上の狼を手当してくれました」

「そんなにヒナがやったのか?」

 驚いたアレクサンドロが身を乗り出す。


 人は自分が手当てし、狼はヒナが。

 狼の方が人の姿を保てないほど傷が深いのだが、人と接するよりも狼の方が気楽だったのだろう。

 たくさん話しかけながら手当てしていたとディーンは説明した。


「手当ての間に、無意識に治癒を使った可能性はありませんか?」

 アレクサンドロの前に紅茶を置きながら推測を口にしたユリウスに、三人はハッと顔を上げた。


「まさか」

 アレクサンドロが背中をソファーから離す。


「アレク様の怪我を森でヒナさんは手当てしてくれましたよね? 翌日には歩けたと」

「あぁ」

 もう歩けないかと思った怪我が翌朝には治っていた。


「怪我人の様子を見てくるよ」

「私も行きます。ヒナ嬢が誰を治療したか覚えています」

 ランディとディーンは再び第五棟B室へ。


「おい、ジョシュ。安静にしないとダメだろう」

 ランディは重傷者の世話をしていたジョシュに声をかけた。

 ヒナとディーンが最後に治療した入口付近にいた男性だ。


「あぁ、ランディっと、文官さん。さっきは手当てありがとな。あの子、大丈夫か?」

 手当てをしてもらっておいてなんだが、あんな小さな子をこんな所へ連れてきてはダメだと、ジョシュもディーンに苦言を呈した。


「あの子はまだ寝ているよ。疲れて寝ているだけだ」

「そうか、よかった」

「ジョシュ、怪我は?」

「あぁ、大丈夫だ。熊族の爪で引っ掻かれて、血も止まらなくて。骨まで見えそうなくらいだったけれど、あんたたちに包帯を巻いてもらったらすぐ痛くなくなって。いつもよりもいい薬を買ってくれたんだろ?」

 文官が様子を見に来るくらいだから、最高級品でも買ったのだろうとみんなで冗談を言っていたところだとジョシュは笑った。


「ジョシュ、その包帯を1回はずしてもいいかな?」

「見ても面白い傷じゃねぇぞ」

 構わないけれどとジョシュは腕を差し出す。

 ランディは腕の包帯をゆっくりと取った。

 包帯は途中で折り返しもあり、ズレないように工夫してある。


「包帯の巻き方を教えたのかい?」

「いいえ」

 ディーンは一人目で文句なしの出来栄えだったので何もアドバイスしなかったと告げた。


「痛かったらすまない」

 包帯を取り終わり、薬を塗ったガーゼにランディが手をかける。


「うそ……だろ?」

 ジョシュが目を見開く。


「……まさか」

「傷がない……?」

 ランディとディーンも驚き、顔を見合わせた。

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