068.油断
「護衛に誰が通ったか確認してきます」
慌てて飛び出したユリウス。
そういえば買い物袋を持って帰ってきた時、廊下に護衛はいなかった。
いつもは2人はいるのに。
「怖かったな、いなくてすまない」
ソファーに座り、ギュッとヒナを抱きしめるアレクサンドロ。
「アレク様。護衛が不審な音を聞き、音の方へ駆けつけたので誰も見ていないと」
アレクサンドロもヒナも出かけて部屋にいなかったので、音の方へ向かってしまったと護衛が謝罪したとユリウスが報告する。
「その向こうは?」
「今、確認中です」
騎士団長を呼び、確認させているとユリウスは言う。
「不審な音は?」
「それも確認中です」
すみませんと謝罪しながらユリウスはヒナに紅茶を淹れた。
「友好国になり油断していた。すまない」
王宮は安全だと思い込んでいたとアレクサンドロが言うとヒナは首を横に振った。
「どんな服装だった?」
黒っぽかった気がするが色も自信がないとヒナは言う。
急いで部屋に入ったので全然見ていないと。
「護衛の数を増やしましょう」
「ユリウス、部屋の中を確認してくれ。変な物がないか」
ヒナの部屋は一緒に見ようとアレクサンドロが言うと、ヒナは震えながら頷いた。
キッチンの上には出しっぱなしのキャベツとチーズ。
買い物袋にはまだ砂糖やリンゴが入ったまま。
ヒナが慌てていた事がわかる。
ベッドの上には脱ぎっぱなしのワンピースと急いで外したバレッタ。
靴も片方ひっくり返っている。
一通り見たがヒナの部屋の小物が動いた形跡はなく、無くなった物もなさそうだった。
「ユリウス、夕食はヒナの分も準備できるか?」
「はい。手配します」
「あ、大丈夫だよ、作れる」
「一人にならない方がいい。俺の部屋にいろ」
ガッチリ抱え、側にいてくれるアレクサンドロ。
トクントクンという心臓の音を聞きながらヒナは擦り寄った。
1時間後、騎士団長からユリウスに報告があった。
何かが割れるような高い音が2回したが、2回とも実際に割れた物は発見できなかった。
1回目に駆けつけた騎士は、廊下の護衛騎士2名。
2回目は、廊下の護衛騎士2名と通路2名の合計4名。
通路1名はその場に残っていたが誰も通らなかったと証言した。
通路の前には階段があり、階段を降りる時に通路から見えない死角がある事も判明。
階段を降りた先は、多くの人が行き交うエリア。
階段下の騎士は不審者には気づかなかったと報告した。
「2回……?」
「1回目と2回目の間は10分程度です」
騎士団長の報告をメモしながらユリウスは時系列にまとめた。
「ヒナが買い物に出たのは?」
3時に武官が終わり、ランディに部屋まで送ってもらった。
その時はアレクサンドロとユリウスがまだ居た。
シャワーを浴び、ワンピースに着替えて扉から出たのが4時20分くらい。
部屋に戻ったのは4時50分くらいだ。
「私たちは4時の打ち合わせに出るために3時50分に出て、戻ったのが4時55分」
今日の打ち合わせは定例のためこの時間にアレクサンドロがいないのは調べればわかる。
ただし、今日はいつもよりも少し早く終わった。
いつもは5時まで定例会のため戻るのは5時10分くらいだ。
「目的がわかりませんので、アレク様もヒナも1人にならないようにしてください」
「俺も?」
「狙われたのがどちらなのかわかりません」
護衛騎士を増やし、誰もいない時間が絶対にないように徹底された。
扉の前にオオカミも配置。
アレクサンドロとユリウスも含め、通った者はすべて時間と名前を記載することになった。
ディーンとランディにも協力してもらい、食材の買い出しも2人のどちらかが同行することに。
土曜日のフィリップとのお茶会は、狼の姿のディーンが待機。
銀狼のランディでは目立ってしまうため、茶色のオオカミに見えるディーンが同行したが、会話もすべて聞かれていると思うと少し気まずかった。
話題のほとんどは南広場の近くにできた店について。
もう看板も出来上がり、来週オープンだとフィリップは教えてくれた。
次回の約束はユリウスのアドバイス通り1ヶ月後に。
不審者から2週間たったが、あれから特に何もない。
子供のオオカミはやんちゃで追いかけるのが大変に。
文官の仕事は書類を年別のABC順に並び変えたら探しやすくなった。
ダンスの練習は壊滅的。
基本ステップでさえ右? 左? と迷い、足が止まってしまう。
腕をいい高さでキープするのも大変で、しっかり筋肉痛になった。
防衛戦術は理論的で難しい。
戦力、地形、敵情、情報伝達方法、タイミングの見極めなど、過去の実際の争いを元にランディは説明してくれた。
「難しい」
「そうだね。でもこれに情報が組み合わされるから実際にはもう少し複雑になるね」
ヴォルフ国の地形だけを覚えれば良いと言われたが、それでも覚える事は多い。
ランディも宰相の父と同じように、ヒナが逃げるなら海だとアドバイスした。
「ひーくん、もっと食べないとオオカミに負けるよ」
「そんなに食べられないよ」
緑眼のライルに大きなハンバーグを勧められたヒナは隣の小さなハンバーグを手に取った。
「ちっちゃくて可愛いからそのままでいいぞ」
ジョシュが大きなハンバーグとその隣のステーキ肉を手に取ると、ノックスがジョシュは食べすぎだと笑う。
武官のみんなはすごく食べる。
あのNo.1ホストのようなランディでさえ食べる量は凄いのだ。
こんなに食べても全く太らない彼らが羨ましい。
気のせいだろうか?
最近、イワライを見かける日が多い気がする。
オオカミ厩舎にいる時、食堂でお昼ご飯を食べる時、カフェテリアで食材を注文する時。
白衣を着ていない日もあるが、イワライだと思う。
偶然?
たまたまそういう仕事?
名前を知ったので気になってしまうだけかもしれないが。
「ひーくん、食べるの遅っ」
「みんなが早すぎるの」
ペロリと食べ終わってしまったノックスが食後のデザートにプリンを持ってきた。
「あー! プリン食べたい!」
まだハンバーグが残っているヒナがプリンを羨ましがると、ノックスが一口分けてくれた。
「幸せ」
甘くておいしいプリンを幸せそうに食べるヒナ。
武官達は可愛いヒナをニコニコと眺めながらお昼の休憩時間を楽しんだ。




