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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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065.家庭教師

「もういいのか?」

 もっと遊んできていいぞと微笑むアレクサンドロに、ヒナはありがとうと微笑んだ。


「チキン焼き買いに行こうよ」

 どこのお店にしようかとヒナが言うと、アレクサンドロはユリウスの顔を見た。

 何かヒナに言っただろうと言いたそうな顔でユリウスを見ると、ユリウスは困った顔で微笑む。


「ここから1番近いのはバンバン亭ですが、ルイルス亭の方が先日アレク様は気に入っていましたね?」

「じゃぁルイルス亭へ行こう」

 ユリウスの案内でルイルス亭へ向かう。

 ヒナが見上げると、アレクサンドロはグレーの眼を細めて微笑んだ。

 南広場から商店街を通ると、お姉様方の黄色い声やおじさん達の声が聞こえる。

 何気なく振り返れば多くの人がついてきている。

 お店で買い物をすれば、あの人たちが同じものを求めて殺到するのだろう。


「一皿で良いですか?」

「あぁ、他の店でも買う」

「わかりました」

 ユリウスが購入すると、アレクサンドロに気づいた店長がペコペコと頭を下げる。

 前回と同じようにユリウスの前にも後ろにも人が並び、交換し、銀食器に乗せ、ユリウスが毒見してからアレクサンドロの手元にチキン焼きは届いた。


「はい、ヒナ。あーん」

 熱いぞと笑うアレクサンドロ。

 銀食器では持つのも熱いだろう。


「あふい」

 はふはふと食べるヒナをアレクサンドロが笑う。

 自分の口にも入れながら、アレクサンドロは店長が焼くチキン焼きを眺めた。

 タコ焼きのようにくるくると器用に回して丸くする店長。


「半分ずつ作ってくっつけているのかと思っていた」

 まん丸になるのが不思議だとアレクサンドロは銀食器の上のチキン焼きと、焼いている最中のチキン焼きを見比べた。

 ヒナの口にもう1つチキン焼きを放り込みながら、あんなに丸くなるのはすごいなと笑う。

 5個のチキン焼きはヒナが2個、アレクサンドロが3個食べてすぐになくなってしまった。


「ユリウス、他の店も作り方は同じか?」

「同じです」

 中の具が少しずつ違う程度であの丸い鉄板は同じだと説明すると、アレクサンドロは他の店も食べるぞ! と笑った。


 北広場前のお菓子屋さんまでは30分以上歩かなくてはならない。

 ハイル亭でチキン焼きを買い、新しく花壇が増えた中央公園で休憩をしながら仲良く食べる。

 以前来た時よりも歩道が広くなり歩きやすくなった中央公園にヒナは驚いた。


「池も綺麗になったんだね」

 前よりも見やすいとヒナが微笑むと、池を綺麗にしたのはヒナだとアレクサンドロは笑った。


「え? 私?」

「ここで求婚したらパニックになったヒナが花を咲かせ、木を茂らせ、水をきれいにした」

「……え?」

 全く身に覚えがないとヒナが首を傾げる。

 そういえば、ディーンに手配してもらったチェロヴェの本には、花が咲いた、枝が伸びたと書かれていた。


「もう一度ここで求婚して確認する?」

 グレーの眼を細めてニヤリと笑うアレクサンドロにヒナは全力で首を横に振った。


「残念」

 アレクサンドロはヒナの手の上にそっと自分の手を重ねる。

 ドキッとヒナの心臓が跳ねあがった。


「……アレク?」

 聞き覚えのある声にアレクサンドロが顔を上げる。


 アレクサンドロとヒナが座るベンチから通路を挟んで反対側に立つ男性。

 40代くらいの茶色の髪の男性にアレクサンドロは驚き、立ち上がった。


「先生!」

「こんなところで会えるなんて思っていなかったよ」

 先生と呼ばれた男性はチラッと隣のヒナを見る。

 アレクサンドロもそんなお年頃になったのかと男性は微笑んだ。


「ユリウスも久しぶり」

「ご無沙汰してます。いつお戻りに?」

 男性は通路を歩き、ユリウスの元へ。


「2ヶ月くらい前かな」

「教えてくださればよかったのに」

 ユリウスとも仲が良さそうな男性。


 ヒナはこの男性に見覚えがあった。

 オオカミ厩舎に環境チェックに来た男性だ。

 アレクサンドロは先生と呼んでいたけれど、白衣を着ていたから何かの先生なのだろうか?


「俺が8歳くらいの時に家庭教師をしてくれた先生なんだ」

 俺にお菓子を教えた人ね。とアレクサンドロが笑う。


「イワライ・エバレットです。今は環境局の職員だよ」

 よろしくと微笑むイワライにヒナは淑女の礼をした。


「ヒナ・イーストウッドです」

「イーストウッド?」

 イワライがユリウスを見る。


「妹です」

 年が離れているので10年前はご存じなかったですよねと微笑むユリウス。

 どうやら養女という事は伝えないようだ。


「えぇ! 妹がいたなんて知らなかった!」

 へぇ。アレクの婚約者かい? と笑うイワライ。


「絶賛片想い中」

 アレクサンドロが溜息をつくと、イワライは声を上げて笑った。

 

「アレクよりいい男はこの国にはいないよ」

 ウィンクするイワライは気さくな人のようだ。

 アレクサンドロともユリウスとも仲がいい。


 だけど、何かが変だ。

 茶色の狼のような気がするのに、狼の姿が思い浮かばない。

 少し不思議な人。


「あぁ、そういえばさ、ユリウス。2ヶ月くらい前にここで不思議な事がおきたって聞いたんだけど何か知ってる?」

「不思議な事?」

「中央公園に来ると怪我が治るとか、池がキレイになったとか」

 噂だけどねとイワライが笑うと、ユリウスはニッコリ微笑んだ。


「池はご覧の通り最近整備したんですよ。花壇も増やしました。デートするには良い景色になったでしょう?」

「あぁ、花壇も最近なの?」

「はい」

 綺麗でしょう? と笑うユリウス。


「そうか。何かあったのかなって思ったんだけど」

 違うねと笑うイワライに、ユリウスは何か? と首を傾げた。


「あ、デートの邪魔してゴメンね、アレク。またね」

 手を振って離れていくイワライに、アレクサンドロもユリウスも手を振り返した。


 ……2ヶ月前に王都に戻ってきたイワライ。

 2ヶ月前はヒナがここで魔力を暴発させたタイミング。

 偶然だろうか?

 ユリウスは念のためイワライ、2ヶ月前と手帳にメモをした。


 イワライは2ヶ月前だと言った。

 ヒナがこの国に来た4ヶ月前ではないのか?

 2ヶ月前だと言うなら、なぜあの日あの場所にいた?

 アレクサンドロはグッと手を握ったが、すぐにヒナの方を向いた。


「お待たせ、ヒナ」

 お菓子屋へ行こうと手を差し伸べるアレクサンドロ。

 ヒナが手を乗せると、アレクサンドロはギュッと手を恋人繋ぎにして微笑んだ。

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