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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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064.出店

「ヒナ! どうしてここに?」

「えっ? フィル?」


 水曜日。

 街の重鎮ナイトリー公爵の元を訪れたアレクサンドロとヒナは、プチィツァ国側のメンバーにフィリップが入っていることに驚いた。


 今日はプチィツァ国の担当者がサンプル品を持って訪れ、どのあたりに店を出し、どんな商品を置くかを相談する日だとユリウスからは聞いていた。

 まさか第4王子フィリップが来ているとはユリウスも予想していなかったようだ。

 フィリップの他は、大臣、店主、販売員。

 こちら側はアレクサンドロ、ナイトリー公爵、商店街の責任者、ユリウス、ヒナだ。


「そちらの担当はフィルか」

「アレクが来るなんて驚いたよ」

 店を急いでいる理由は、鳥族が着替える場所が欲しいというのが1つの理由だとフィリップはアレクサンドロに明かした。

 名産品はもちろん置きたいけれど、どちらかといえば鳥族が狼族の食べ物を食べてみたいのだと。


「いつも鳥の姿で見ているだけで、食べてみたいものがたくさんあって」

 着替える場所があれば気軽に街で遊んで帰れるとフィリップはアレクサンドロに説明した。


「では、店はそんなに広くなくても?」

 ナイトリー公爵が今、打ち合わせをしているこの事務所でどうだと提案すると、フィリップは立地的にもうれしいと答えた。

 ここは南広場の近く。

 プチィツァ国からも来やすい場所だ。


 いくつかのサンプル品の中から、数点のみ遠慮してほしい物をナイトリー公爵が伝える。

 コーラとカルピスなんて全然違う飲み物でさえ喧嘩をしていた商店街の彼ら。

 類似品を販売すればまた苦情がでてしまうからだ。

 商店街のルール、収支報告方法などを商店街の責任者が店主に後日説明する事になり、今日の打ち合わせはあっさりと終わった。


「ヒナ、この後の予定は?」

 お茶でもどうかとフィリップが微笑む。


「俺とデートだ」

「そうか」

 せっかく会えたのに残念だなとフィリップが肩をすくめた。

 フィリップはヒナの手を取ると甲に口づけし、また来週の土曜日ねとウィンクする。


「来週?」

「あ、うん。庭園で会う約束をしているよ」

 首を傾げるアレクサンドロにヒナはお茶会の予定を伝えた。

 その日程にユリウスが驚く。


 婚約者ではない場合、1ヶ月に1回が一般的だ。

 だが、2週間に1回の予定を入れている。

 おそらくヒナは知らないのだ。

 2週間に1回は好意がありますと答えているようなものだと。


「ヒナ、あとで話があります」

「はい、お兄様」

 ちょっと微妙な雰囲気になってしまったアレクサンドロ、ヒナ、フィリップをナイトリー公爵が眺める。

 以前街を一緒に歩いていたのはコヴァック公爵家の次男だ。

 プチィツァ国フィリップ殿下と来週庭園で茶会?

 今からはアレクサンドロ王太子殿下とデート?

 おいおい、ひー坊。

 一体どうなっている?

 本命は誰だ。


「ではお先に失礼いたします」

 ユリウスが礼をし、事務所を後にする。

 フィリップと大臣は国へ戻り、店長・販売員は店の間取りを考えてから戻る事になった。


「このまま南広場へ行きましょう。この時間であればオオカミがいるとランディが教えてくれました」

 時計を見ながらユリウスが道案内をする。

 アレクサンドロはヒナの手をギュッと握ると、すぐ着くよと微笑んだ。


 角を曲がったらすぐに南広場。

 芝生の上を走り回るオオカミ達の姿が見えた。

 もふもふの尻尾が揺れてかわいい。


「木陰のベンチへ行きましょう」

 南広場にはあまり人がいない。

 いくつかベンチはあるが、座っている人はいなかった。


 アレクサンドロとヒナがベンチへ座ると、1匹のオオカミがヒナに気づく。

 三角の耳をピーンと立て、うれしそうに尻尾を振った。


「あ、気づいてくれた」

 オオカミに手を振るヒナ。

 だが、オオカミが寄ってこない。


「あれ?」

 来てくれないなぁとヒナは首を傾げた。


「ランディと来たときはね、走ってきてくれたの」

 8匹くらい来てくれてと説明するヒナ。

 少し離れたところにいるオオカミ達は全力で尻尾を振っている。

 ヒナには気づいているはずなのに、来る気配がない。


「ユリウス、ヒナを頼む」

 アレクサンドロはスッと立ち上がると、ヒナの頭を撫で木陰から離れた。

 少し離れた木陰へアレクサンドロが移動すると、護衛らしき人がすぐにアレクサンドロに就く。

 ヒナは不思議そうに首を傾げた。


「グァウ」

 オオカミ達が嬉しそうにヒナに駆け寄る。

 あっという間にヒナは5匹のオオカミに囲まれた。

 耳の後ろを撫で、アゴの下を撫で、1匹ずつ可愛がる。


「やっと来てくれたの?」

 全力で尻尾を振るオオカミを嬉しそうに撫でるヒナ。

 アレクサンドロは離れた木陰から楽しそうなヒナを眺めた。


「ヒナ、この子達にとってアレク様は護衛対象。慣れ合う事はできないのです」

 ユリウスはオオカミが近寄ってこなかった理由をヒナに告げた。


「……だからアレクは離れたの?」

「そうです」

 何も気づいていないヒナに余計な事を言うなと後でアレクサンドロに怒られそうだが、ユリウスはヒナにアレクサンドロの事を知ってほしかった。

 アレクサンドロもオオカミ達の事はもちろん好きだ。

 子供のオオカミの可愛さももちろん知っている。

 だが、アレクサンドロはオオカミには近づけない。

 オオカミが委縮しストレスを感じてしまうからだ。


「……王太子って大変なんだね」

 お菓子もそうだが、好きな物を気軽に好きだと言えないのだ。

 オオカミが好きでも近づけない。

 欲しい物も気軽に買えない。

 街にも気軽に来ることができない。

 今日のように公務を入れて、ついでの散策なのだ。

 ヒナが背中をグリグリマッサージするとオオカミは気持ちよさそうにヒナに擦り寄った。


「あと、もう1つ。婚約者ではない男性と1ヶ月に2度予定を入れる事は、相手に好意があるという意味になります」

「えっ?」

 驚いたヒナが顔をあげるとユリウスは困った顔で微笑んだ。


「まさかフィリップ殿下が2週間でお誘いしてくるとは想像しておらず、ヒナに教えていませんでした」

 ランディとディーンが2度目のデートを誘ってこないのは今月は祭りを一緒に過ごしたからだとユリウスは説明した。

 来月になればまた誘ってくると思うとユリウスが言う。


「お断りした方が良いですか?」

「一度受けたお話をお断りするということは2度と会いませんという事になります。次回の予定だけ気をつけてもらえればよいかと」

 なかなかこの世界のルールは難しい。

 ヒナはわかりましたとユリウスに答え、オオカミ達の頭を撫でると立ち上がった。

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