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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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062.友達

「良いのかい? アレク」

「なんで止めなかったのですか?」

 プチィツァ国第4王子フィリップとヒナが庭園でデートをすると知ったランディとディーンは、アレクサンドロに詰め寄った。


「宰相に自由恋愛だと言われた」

 俺には止める権利がないのだと横を向く。

 止められるなら最初から止めている。

 ヒナが誘われ、ヒナがOKと言った以上、どうする事もできない。

 アレクサンドロはギュッと手を固く握った。


「ユリウス、ヒナは?」

「先程出て行きましたよ? 10時に庭園でしたので」

 時計はまもなく10時。

 アレクサンドロ、ランディ、ディーンは溜息をつくとそれぞれ仕事に戻った。


「ヒナ! おはよう」

「おはようフィル。ごめん、遅かった?」

「いや、着替えるために早く着いただけ。時間通りだよ」

 あぁ、そうか。

 イーグルの姿から人になったら服がないのだった。


「着替えって」

「宰相が準備してくれたよ」

 フィリップが指差した先は不自然なテント。

 さすがお父様。

 王宮の庭園にテントを立ててしまうなんて。


 フィリップがイスを引き、座らせてくれる。

 侍女がすぐにお茶とマドレーヌを準備してくれた。


「今日はありがとう」

 会ってくれて嬉しいというフィリップ。


「友好国になってくれたおかげで、私がすごく安全になったってお父様に聞いたよ。ありがとうフィル」

 ヒナが微笑むとフィリップは役に立てて良かったと笑った。


 以前、アレクサンドロと3人でお茶会をした時は、空から見たこの国の印象を教えてもらったので、今日はフィリップの国の話が聞きたいとヒナは頼んだ。

 プチィツァ国は木や花が多く、山もあり高低差が多い国だそうだ。

 山の上には湖があって、春に白い花がたくさん咲くのだと教えてくれた。


「この庭園もキレイだけどね」

 少し歩こうと手を差し伸べられ、ヒナは立ち上がった。

 そのまま手を繋いで歩くとフィリップがこの花はプチィツァにも咲いていると教えてくれる。


「この花はミツが甘くて」

 フィリップにミツと言われて初めて気がついた。


 鳥の姿の時は花のミツも舐めるんだ!

 狼族もそうだけれど、姿が変わるってどんな感じなのだろう?


「ねぇ、フィル。鳥になった時と人の時って見える物とか味覚って一緒なの?」

「基本は一緒だけれど、視力は鳥の方が良いよ」

「飛ぶってどんな感じ?」

 便利? と聞くヒナをフィリップは不思議そうに見た。


「飛ぶのが当たり前で考えた事なかったな」

 そう言われれば便利かもとフィリップが笑う。


「いいなぁ」

「飛びたいの?」

「うん」

 飛行機に乗らずに自分の好きなところに飛べるのは便利そうだ。


「抱っこして飛べるといいんだけど、1人じゃ抱えて飛べないんだ」

 ごめんねというフィリップにヒナは首を横に振った。

 逆を言えば鳥族1人だったら誘拐できないという事だ。


 噴水の横のベンチで少し休憩。

 木陰に吹く風が心地良い。

 噴水を囲む石の上に目の周りが白い緑の鳥が止まった。


 南広場で捕まえてしまった『鳥』だ。

 解放されたんだ。

 友好国になったから。

 フィリップは嬉しそうに緑の鳥を見ていた。


「幼馴染なんだ」

「捕まえてゴメンね」

 あの時は治癒がバレないように必死で、自分の事しか考えていなかったとヒナが謝る。


「こっちもバレないと油断していたからね」

 普通のトリと見分けがつくなんてビックリだとフィリップは笑った。


「ねぇヒナとさ、仲良くなりたいんだけど」

 年齢とか聞いてはいけないことも教えてくれる? というフィリップにヒナは笑った。


「20だよ。フィルと同じ」

「えっ? 一緒なの?」

 絶対年下だと、16歳くらいだと思っていたとフィリップが言うと、そんなに子供っぽい? とヒナは肩をすくめた。


「婚約者もいないし、ヘリオトロープも、その、わかっていなさそうだったし」

 ヘリオトロープはイーグルのフィリップが持ってきてくれたバニラの匂いがする花だ。


「花は詳しくなくて」

 知らない花だったとヒナが言うと、フィリップは驚いた顔をした。


「ヒナの国とだいぶ違うの?」

「うん。全然違う」

 人しかいないし、身分もないし、習慣もいろいろ違うとヒナが話すとフィリップは自分の国はこうだけど、ヒナの国は? といろいろ質問してくれた。

 前の世界の事を聞いてくれたのはフィリップが初めてだ。

 4ヶ月ぶりに思い出した些細な事が妙に懐かしかった。


「とりあえず友達になろうよ」

「友達?」

「気軽になんでも話せる相手、欲しくない?」

 俺だったらこの国と関係ないから誰の不満でも聞けるよとフィリップが笑う。


「年も一緒だし、遊ぼう! まず鬼ごっこね。はい、逃げて!」

 フィリップは手を差し伸べヒナを立たせると、そのまま背中をポンと押す。


「えぇ? 鬼ごっこ??」

「ほら逃げないと捕まえるよ」

 ここに来てから走る事もないし、歩く事もあまりない。

 王宮の綺麗な廊下は走ってはいけないし、街もまだ3回しか行っていない。

 完全に運動不足だ。


「捕まえた!」

「フィ、フィル、早っ、」

 ちょっと走っただけなのに息が苦しい。

 肩で息をしているとフィリップがそっと背中を撫でてくれた。


「たまには思いっきり走るのもいいでしょ」

「……もう、若く、なかった」

 喉の奥が悲鳴をあげる。

 ゼイゼイ鳴る呼吸が落ち着くまでフィリップはヒナを支え続けた。


「わぁあ」

 急にフィリップに抱きしめられていた事にヒナが気づく。


「今頃?」

 真っ赤な顔でヒナが離れるとフィリップは声を上げて笑った。



「そろそろお昼だね」

 庭園の時計はもうすぐ12時。

 お茶会は長くても2時間までが暗黙のルールだ。


「再来週の土曜日に約束を入れてもいい?」

 プチィツァの花びらが広がる紅茶を見せたいというフィリップにヒナは微笑んだ。


 婚約者ではない場合、デートの約束は毎週してはいけない。

 最短で2週間後、できれば1ヶ月に1回が望ましいと言われている。

 きっとヒナはそんなルールは知らないだろう。

 2週間後と言っても嫌がらずに頷いてくれた。


「今日は楽しかったよ。ありがとう」

 フィリップはヒナの頬にチュッと口づけをした。

 不意打ちすぎて何が起きたか一瞬わからないヒナが固まる。

 ボンッ! と一気にヒナの顔は赤くなった。


「またね、ヒナ」

「う、うん。またねフィル」

 小さく手を振って別れる。

 ヒナは振り返ってもう1度手を振ると、角を曲がりフィリップから見えなくなった。


 フィリップは1番近くにいた騎士にお礼を告げる。

 おそらく騎士団長だろう。

 彼はヒナから見えない位置で全体を指揮していた。


 テントでイーグルに戻り空へと羽ばたく。

 もうヒナは部屋に着いただろうか?

 また会いたい。

 また話したい。


 イーグルのフィリップは王宮の上を旋回すると、緑の鳥と合流し国へと帰って行った。

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