061.調印
またドレス。
ヒナは白い豪華なドレスに着替え、溜息をついた。
今日も優秀な侍女達はお世辞を忘れない。
本当にいつもありがとうございます。
アレクサンドロもキラキラの王子服。
まるで婚約を断った日の再現だ。
「綺麗だけれど、そのドレスはフラれたのを思い出すからツラい」
苦笑するアレクサンドロ。
どうやら思っていることは同じみたいだ。
「まだ夜会のドレスが出来上がっていなくて」
すみませんと謝るユリウスに、ヒナは首を横に振った。
「……コレ使ってくれて嬉しいよ」
アレクサンドロがヒナのバレッタにそっと手を添える。
街でアレクサンドロが選んだ蝶のバレッタは紫からピンクのグラデーションが綺麗で、ヒナは気に入っていた。
「……またヒナと街へ行きたい」
気軽には叶わないと思っているのだろう。
アレクサンドロが寂しそうに言うと、ユリウスはあっさり「良いですよ」と答えた。
「ヒナ、アレク様とも街に行ってくれませんか?」
ランディとディーンだけでなく。とユリウスが言う。
「はい。日にちはお兄様が決めてください」
護衛の都合がわからないしと言うヒナの横でアレクサンドロは嬉しそうに微笑んだ。
狼の三角耳があったらぴーんと尖り、尻尾が見えていたら全力で振っているだろう。
ノックの音が響きユリウスが対応する。
「アレク様。無事に調印されました。陛下がお呼びです」
「わかった」
アレクサンドロはヒナをエスコートしながら廊下を進む。
ここは入ってはいけないキラキラ扉への道!
アレクだけで良いのでは?
私はいらないのでは?
どうして連れて行かれるのですか?
「ヒナ、いつも通りで大丈夫だよ?」
ぎこちなく歩くヒナをアレクサンドロが笑う。
「む、無理。国王陛下が2人……」
庶民にはキラキラ世界は無理だと言うヒナに、王子2人とお茶会は平気なのに? とアレクサンドロはツッコんだ。
「あ」
「ヒナってさ、俺が王子って忘れてるよね」
そんなに王子らしくないかなと溜息をつく。
「うーん、アレクはアレクだもん」
王子だけどアレクだしと言うヒナにユリウスは微笑んだ。
その言葉がどれだけアレク様が望んでいる言葉かヒナは知らないだろう。
何も意識せずさらっと言えるヒナの言葉は本心だとわかる。
豪華な扉の前には護衛2人。
扉が開き、部屋の中に10人ほどの人が見えた。
思ったよりも多い人数にヒナが驚く。
ヒナがユリウスの妻エリスに習った淑女の礼をすると、部屋の中は静まり返った。
下手ですか? 下手ですよね?
でもまだこの程度が限界です!
みんなの視線がツラい。
アレクサンドロのエスコートで部屋の中に進むと、キラキラ王子服のフィリップの姿が見えた。
ではフィリップの近くのふさふさ服の人が鳥族プチィツァ国の国王陛下。
彫りが深く、眼力がスゴい。
「彼女がヒナです」
宰相に紹介されたヒナはアレクサンドロの手を借りたまま淑女の礼をした。
ユリウスの妻エリスに習った通り背筋を伸ばして、足は曲げすぎず、伸ばしすぎずだ。
「なるほど。黒髪・黒眼の小柄な人物だが、なぜこのような可愛らしい女性をチェロヴェは男だと思ったのか」
この姿では絶対見つからないなとプチィツァ国王陛下は笑った。
「ヒナ、プチィツァ国王陛下が聖女に関する情報は一切他国に教えないと約束してくださった」
宰相がコレでしばらく安全だと微笑む。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、息子フィリップの目を治し、そして先日もパンのお陰で多くの者が救われた。ありがとう」
プチィツァ国王陛下の言葉に合わせて、プチィツァ国側の5人がお辞儀をする。
慌てたヒナは日本のような普通のお辞儀をしてしまった。
しまった。
間違えた!
淑女はニッコリ微笑むだけだったのに!
「厚かましい願いだが、定期的に聖女の作った物を売って頂けないだろうか?」
プチィツァ国王陛下の隣の人がヒナに尋ねる。
こちら側は席が空いているので、立っているお父様の席。
あの人はプチィツァ国の宰相なのだろう。
「父と相談させてください」
ヒナは無難な答えに留めておいた。
私の一存で決められるような話ではないだろう。
「もちろんだ。良い返事を期待している」
プチィツァ国とヴォルフ国の宰相同士が頷く姿にヒナはホッとした。
あとはお父様が決めておいてくれるのだろう。
プチィツァ国とヴォルフ国は友好国になったので、国同士の出入りは自由。
店の出店や文化交流も始めることになったそうだ。
細かいルールはこれからだが、今日は歴史的な日だとどちらの国も喜んだ。
やっぱり好きで争っていたわけじゃないんだ。
もしかしたら熊族や豹族も仲良くなれるのかも?
隣同士の国が仲良くなれば、住んでいる人も幸せだよね。
「友好国の証に少し情報を。チェロヴェの第2王子が聖女は女性だと気づいている。そしてこの国にいると知っている。この国とチェロヴェを頻繁に行き来している人族がいるので気を付けた方がいい」
人族は弱いのであまり警戒されない。
商人や旅行者も他国に比べれば比較的簡単に出入りできてしまう。
「貴重な情報感謝する」
コヴァック公爵は先日捕らえた緑の鳥2羽の解放を約束し、会談は終了した。
「ヒナ、今度2人で話をしたい」
帰り際にヒナの手を握り、懇願するフィリップにヒナは微笑んだ。
「はい。いつにしましょうか?」
「今週の土曜はどうだろうか?」
「わかりました」
あまりにもあっさりOKするヒナに周りが驚く。
フィリップが嬉しそうにヒナの手に口づけを落とすと、アレクサンドロは目を逸らした。
鳥の姿になり飛び立つ5人。
国王陛下とフィリップはもちろんイーグル。
宰相はイーグルより小ぶりだが似ているので鷹だろうか?
大臣はフクロウとカラスだった。
狼族は色が違うくらいだが、鳥族は鳥の種類も違うので不思議な感じだ。
1度上空を旋回し国に帰って行く。
プチィツァ国から来た護衛2人は全員の服を布に包むと、自身も鳥になり荷物を咥えて国へ帰って行った。
「アレク、よくやった」
国王陛下が褒めるとアレクサンドロは困った顔をした。
「ヒナのお陰で、俺は何も」
プチィツァ国と友好国になれたのは、ヒナがフィリップにクッキーをあげたからだ。
きっかけも成果も全てヒナ。
アレクサンドロは何もしていないと肩をすくめた。
「そんなことはない。よくやったな」
国王陛下はアレクサンドロの頭をぐりぐりと撫でると、成長を喜ぶかのように微笑む。
「ヒナはそろそろアレクと婚約したくなったか?」
笑いながら尋ねる国王陛下。
「このドレスで2度もフラれたら立ち直れない」
返事はしないでくれと手で顔を隠すアレクサンドロを国王陛下、宰相、コヴァック公爵は笑った。
大臣2人はヒナとは初対面。
彼らはアレクサンドロがフラれたという話に呆然となった。




