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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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060.地雷

 どうしてこんな事に。


 目の前は黒い布。

 少し上を向けば首と鎖骨が見える。

 動きたくてもガッチリ腰に腕が乗っていて動けない。

 あの部屋から出てきてくれたという事はもう気分は良いのだろうか?


 でも、とりあえず近すぎる。

 目が覚めたらすぐイケメンは心臓に悪い。

 ギュッと抱きかかえる力が強くなり、苦しくなったヒナは酸素を求めて上を向いた。


「ごめん」

 少しこのままで居させてというアレクサンドロ。


 今日は水曜日。

 ヒナは武官も文官もお休みだ。


「今日はアレクをもふもふする日」

 手を伸ばし、黒と濃いグレーのメッシュの髪を撫でようと思ったら手が届かなかった。

 なぜかアレクサンドロの背中に手が周り、さらに密着に。

 あぁぁ、私のバカ!


「あ、で、でもこの姿は緊張するからできれば狼が良いけど……」

「もう少しこのままが良い」

 わかりましたとヒナが返事をするとアレクサンドロがホッとしたのを感じた。


 トクントクンと心臓の音が聞こえる。

 部屋からは出てきてくれたけれど原因は解決していなさそうだ。


「アレク、一昨日はありがとう」

 公務モードのアレクは全然違うんだねとヒナが言うと、アレクサンドロがビクッと揺れた。


 あれ?

 もしかしてコレが地雷?


「ヒナが危ないのに1人で建物に隠れて、安全になったら茶を飲んだだけだ」

 トゲのある言い回しにヒナが驚く。


「無理に外に行ったの怒っている?」

 ダメだと何度も止められたのに。

 ごめんなさいとヒナが謝ったがアレクサンドロは何も答えなかった。


「……アレク?」

「俺は何の役にも立たない。ロウエルみたいに隣で守る事も、コヴァックのように情報を引き出す事も。宰相のように居場所を与える事も」

 鳥たった1羽から守る事すらできない。とアレクサンドロは悔しそうに言葉を吐いた。


 あぁ。

 ようやくイケオジ3人の言葉がわかった。


『国の利益のために相当我慢されていた』

『アレク様を慰めておいてくれ』

『街に行けないアレク様に、ヒナを誘えば良いなんて宰相も意地が悪い』


 コレはイケオジ3人からの愛のムチですか?

 まだアレクは22歳ですよ?

 立派な国王にしたいのはわかりますが、こんなに追い詰めたらダメでは?


「あの場で友好国の提案ができたのはアレクだけだよ」

「もともとフィルが言い出した事だ」

「国同士の正式な調印はアレクでしょ」

 フィリップはパンを1つ分けて欲しいと言ったが、アレクサンドロは全部あげた。

 こちらが友好国の調印に本気だと思わせるために。

 パン1つでは反対する者を黙らせる事ができない。

 どんな効果があるのか納得できる数を渡したのだ。

 それに後日ではなくすぐに書類を準備させたのも相手に考える時間を与えないためだろう。


 ヴォルフ国とプチィツァ国が友好国になれば、他国はプチィツァ国から情報を得られない。

 眼鏡にズボンの小柄な人物しか情報がないのだ。

 夜会まで安全に過ごせる可能性が高くなる。


「アレクにしかできない守り方だよ」

 ありがとうとヒナが言うと、アレクサンドロは困った顔で笑った。

 ギュッと抱きかかえられてるヒナからは、アレクサンドロの表情は見えない。


「ね、アレク、もうそろそろ離してくれる?」

 または狼の姿になってとヒナがお願いしても、アレクサンドロはまだダメと笑った。


 アレクサンドロの笑い声。

 ノックしようとしたユリウスの手が止まる。

 ありがとう、ヒナ。

 ユリウスはヒナの分の朝食を頼みに厨房へと向かった。


 アレクサンドロにようやく解放されたのは朝8時頃。

 料理が冷めましたというユリウスの不思議な言葉で解放され、朝食を頂いた。

 今日はブラウスに花柄のフレアスカートという喪女には縁遠い服装でクッキー作り。

 クッキーに治癒効果がどのくらいあるのか試したいと、コヴァック公爵から頼まれたのだ。

 もう偵察の『鳥』は来ないはずなので、カーテンを開ける必要はもうないのかもしれないが一応開けておく。

 クッキーの形を作り、そろそろオーブンへ入れようと思った頃、窓の外にバサッという音が響いた。


「おはよう、フィル」

 ヒナが挨拶するとイーグルのフィリップは頭を少し下げた。

 クッキーをオーブンへ入れ、手を洗ったら窓の方へ。

 イーグルのフィリップは窓の隙間から手紙を入れようとしていた。


「あ、待って、待って!」

 急いで内側から手紙を引き抜く。


 うわー。

 明らかに自分宛ではない!

 上質な紙。

 封には模様がついている。

 映画で貴族とかがやっている蝋燭垂らして指輪ポーンみたいなやつだ。


「お父様宛?」

 宛名は『宰相』。

 アレクサンドロでも国王陛下でもない。


「渡しておくね。急いだ方がいい?」

 ヒナの問いにイーグルのフィリップは頷いた。

 飛び立つ素振りがないフィリップ。


「……もしかして、返事がいる?」

 うんうんとイーグルのフィリップが頷く。


「じゃあ、今すぐ渡してくる!」

 わざわざ扉から出て、廊下を通り、アレクサンドロの部屋へ。


「お兄様! これ、急いで返事が欲しいって。フィルが待ってる」

「え? 返事がいるのですか?」

 慌てて宰相室へ向かうユリウス。


「戻るね!」

 ヒナも急いで部屋へ戻ると、オーブンを眺めながらクッキーの焼き上がりを待った。

 窓の外にはイーグルのフィリップ。

 ジッとヒナの様子を見ている。


「そろそろいいかな?」

 クッキーを取り出し、冷ます。

 これは返事が来るまでずっと見られているのだろうか?

 すごく気まずい。


「ヒナ、返事を頂いてきました」

 ノックの音と共に入室するユリウスをフィリップが不思議そうに眺めた。

 彼はヒナの部屋へ気軽に入れる人物。

 彼女とはどういう関係なのか。


「こちらが父からの返事です」

 ユリウスが手紙を見せるとイーグルのフィリップは頷いた。


 ヒナは宰相の娘。

 宰相を父と呼ぶこの男は、ヒナの兄か。

 良かった。

 フィリップが安堵する。

 ユリウスが窓から手紙を差し出すと、イーグルのフィリップは器用に咥えた。


「本日、お待ちしております」

 ユリウスが深々と頭を下げると、フィリップはバサッと大きな音を立て飛び立った。


「……本日?」

 ヒナが首を傾げると、ユリウスは「あちらの国王陛下が来られます」と微笑んだ。

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