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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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059.落ち込み

「アレク様、食事くらいしてくださいよ」

 昼飯を持ってきたユリウスは手付かずの朝食を見て溜息をついた。

 ヒナが作ったクッションカバーがついたクッションの上で丸まったままの狼のアレクサンドロ。

 子供の頃から落ち込むとこの部屋に閉じこもってしまうのだ。


「王太子じゃなかったら良かった。とか今更思ったってダメですからね」

 子供の頃から何度も悩んだ原因はいつも王太子という立場だ。


 王太子じゃなかったらヒナを気軽に誘えるのに。

 街へ行って買い物して好きな物を食べて。

 街の外れで2人で暮らそうという事もできるのに。

 ヒナが危なくても助けに行く事もできない。

 隣で守る事もできない。

 オオカミ達が怪我をしても側に行く事すらできない。

 一人では何もできない。

 アレクサンドロは丸まったまま目を閉じた。



「アレクは?」

 文官の仕事を終え、部屋に戻ったヒナが尋ねるとユリウスは首を横に振った。

 カバーをつけたクッションは奥の部屋で使っているとユリウスが教えてくれる。


「お兄様は入れるの?」

「食事を運んでいますよ」

 鍵はかかっていないというユリウス。


「今日の夕食は?」

「これからですよ」

 1時間後くらいに運ばれてくるというユリウスにヒナは自分に運ばせてほしいとお願いをした。


「嫌がると思いますよ?」

「狼の姿でしょう? 何か言われてもわからないし、無視です」

 準備してきますというヒナ。


 ヒナがアレクサンドロを好きになってくれればいいのに。

 ユリウスはヒナの後ろ姿を見ながら溜息をついた。


「それは?」

「ブラッシングのセットとお菓子です!」

 祭りで残ったお菓子を今日ナイトリー公爵からもらったとヒナが見せるとユリウスは笑った。


「これはアレク様が好きなお菓子です」

「じゃあ、一緒に食べます」

 学園時代にこっそり何度か買い、毒味もなしに食べるので怒られていたとユリウスがバラす。


「まず昼食を下げるので、そのあとこのワゴンごと中へ」

 説明を受けたヒナは頷いた。


「アレク様、そろそろ食事してくださいよ」

 倒れますよ? といつものようにユリウスが言うと、狼のアレクサンドロはフイと横を向いた。


 いつものように作業するユリウス。

 タオルを取り替え、テーブルを拭き、テキパキと動いていく。

 アレクサンドロは興味なさそうにヒナのクッションカバーの上で丸まった。


 昼食をワゴンに乗せ、溜息をつきながら1度出る。

 夕食の肉の匂いと共に、ユリウスではない匂いに驚いたアレクサンドロは顔を上げた。


「グァウ」

 ユリウス! どういう事だ!


「グォウ」

 おい! ユリウス!


 アレクサンドロが吠えてもヒナは気にせずテーブルに夕食を並べる。

 ヒナの分は乗り切らなかったのでワゴンの上に置いたままにした。

 ブラッシングセットとお菓子を手に持ち狼のアレクサンドロの隣にペタッと座る。

 クッションの上にしっかり座っているアレクサンドロはなんだか可愛いかった。


「気に入ってくれました?」

 ヒナは狼のアレクサンドロをブラッシングし始める。

 気まずいのか狼のアレクサンドロはフィと横を向いた。


 水曜日に公務の休憩でよくやるブラッシング。

 大きい櫛で背中を撫でると毛並みの良さがよくわかる。

 耳の後ろをマッサージするとアレクサンドロのグレーの眼と目が合った。


「お菓子食べますか?」

 ナイトリー公爵がくれたいろいろなお菓子を見せるとユリウスが言っていたお菓子に視線がいく。


「これ?」

 知らないフリをしてヒナは手に取りお菓子を開けた。

 中身はスナック菓子。

 野菜のような粒々が所々に入っている。

 日本で売っているキリンの絵がついた有名なお菓子にそっくりだ。


「先にもらうね」

 一応毒味をしておく。

 ユリウスに怒られないようにだ。

 ちょっとしょっぱい味もやっぱり日本のお菓子に似ている。


 ヒナは1本手に乗せ狼のアレクサンドロの前に出した。

 カプッと食べる姿が可愛い。

 バリバリいい音をさせながら食べると、狼のアレクサンドロはペロリと舌舐めずりをした。


「おいしい?」

 あっという間に10本ほど食べ、1袋無くなってしまった。


「ご飯食べますか? あ! 飲み物が先?」

 しょっぱいから喉が渇きましたか? と水を注ぐヒナ。

 狼のアレクサンドロはヒナと水を交互に見たあと、ようやく水を飲んだ。


 その後は2人で食事をする。

 普段ユリウスがお世話をする様に、ヒナがお皿を入れ替えていく。

 口の周りについたソースを拭くと、狼のアレクサンドロのグレーの眼が揺れた。


 特に理由を聞くわけでもなく、無理に話しかけるわけでもなく、普通にいつも通り。

 ご飯を食べ、マッサージの続きをする。

 もふもふのアレクサンドロを触っているうちにヒナはだんだん眠たくなってしまった。


 そういえば昨日はあまり眠れなかったんだった。

 もふもふが気持ちいい。

 アレクサンドロに擦り寄りながらウトウトするヒナ。


「グァウ」

 こんな所で寝たらダメだ。

 ここには布団も何もない。


「グゥ」

 こら! ここで寝るな!


「昨日のアレク……別人みたい……」

 もう寝ぼけているのだろう。

 ヒナの言葉は途切れてよく聞こえない。


「……ありがと、アレク……」

 そのまま背中から規則正しい息づかいが聞こえてくる。


 狼のアレクサンドロはヒナの頭をゆっくりクッションに下ろすと洗面所へ行き人の姿に戻った。

 シャワーを浴びて部屋着を着る。

 眠るヒナを抱き上げ、自分のキングベッドに。

 眼鏡はサイドテーブルへ置き、縛った髪も勝手に解いた。

 人の姿のまま隣に寝転び、ヒナを抱きしめる。


 明日の朝、ヒナは驚くだろう。

 でもゴメン。

 今日はこのまま眠りたい。


 好きだよ、ヒナ。


 だけど俺は何もできない。

 もうすぐ満月になりそうな月を見上げながらアレクサンドロも眠りについた。

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