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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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58/100

058.クッションカバー

「本当に調印すると思うか?」

 ヒナが部屋に戻った後、宰相、コヴァック公爵、ロウエル公爵は宰相室で今後の動きを話し合った。

 コヴァック公爵はアレクサンドロとのお茶会が始まる前に、プチィツァ国第4王子フィリップと会談した内容を報告した。


「現在、本当に他国も『鳥』は撤退しているそうです」

 この国でも突然『鳥』がいなくなったが、フィリップが第1王子に頼み、国王へ伝えてもらったと言っていた。

 他国に聖女を取られないようにしたいと。


「プチィツァ国は熊族のミドヴェ国が苦手だそうだ。ミドヴェ国に聖女が取られることだけは避けたいと」

 その気持ちはおそらく本当だろうとコヴァック公爵は言った。


「あと、先日捕まえた緑の鳥。目の周りが白い鳥が、生きているかと聞かれた」

 フィリップの幼馴染だそうで、できれば返してほしいと。


「友好国になれば返しても良いが、今すぐ無条件で解放はできないな」

「もちろんです」

 宰相の言葉に、コヴァック公爵もロウエル公爵も頷く。


「彼は強い女性が好みだそうで、本気で口説きたいと言っていましたよ」

 身体が大きく目が鋭いイーグルはプチィツァ国内でも恐れられる事が多く、近寄らない女性が多いそうだ。

 ずっと覗いていたが悲鳴をあげる事もなく、出来上がったクッキーを分け与えたヒナは自分のこの姿が怖くないのかもしれないと思い、少し興味を持った。


 生まれつきよく見えなかった左目が治り、さらにヒナに興味を持ったが、今回叱られて「彼女しかいない」と思ったとフィリップが話したと言う。


「……そんなに怒っていたのか?」

 その場を見ていない宰相は、怒るヒナが想像できないと肩をすくめた。


「あぁ、すごかったぞ」

 アレクサンドロとランディが止められないくらいだ。

 オオカミを怪我させた凶暴なイーグルに向かって『謝れ』と言うとは想像していなかったとロウエル公爵は笑った。


「鳥族にはヒナの甘い魔力がわからないようだ」

 オオカミの怪我を治した時、ヒナの甘い魔力が広がっていたがフィリップに変化はなかった。


「鳥族は魔力が見えないのか?」

「見えるかどうかはわかりませんが、我々のように甘い魔力に魅了されたわけではない事だけは確かです」


 ヒナの魔力は甘い。

 この魔力にずっと触れていたいと思ってしまう。

 自分のものにしたいと。

 狼族以外にも有効かと心配していたが、鳥族には効かないという事はわかった。


「鳥族は食べると魅了されるのかもしれないな」

「パンを食べた騎士は?」

「魅了されたか聞いておく」

 イケオジ3人は少し雑談をするとそれぞれの仕事に戻った。


 調印が実現すればアレクサンドロの功績は大きい。

 宰相は国王陛下の元へ戻り今日の出来事の報告を行った。



 部屋に戻ったヒナは窓とカーテンを閉め、シャワーを浴びた。

 黒の上下の部屋着に眼鏡。

 前髪を下ろすとホッとした。

 すぐにアレクサンドロの部屋へ行こうかと思ったが、今日の夕飯がない事に気がついた。


 パンは全部あげてしまったのだった。

 テーブルの上は布を広げたまま。

 手帳カバーを作ろうと思い、サイズを決めている最中にここを出て行った事を思い出した。


 まずは夕飯を作らなくては。

 テーブルの布をしまい、食材をチェック。

 スープと肉じゃがを煮込みながらヒナは布を眺めた。

 数枚の布を手に取りミシンで縫う。

 真っ直ぐに縫うだけの簡単な物だが使ってくれるだろうか?

 ヒナはミシンを片づけるとアレクサンドロの部屋へ行った。


「……あれ? お兄様、アレクは?」

 なぜか部屋にはユリウスしかいない。

 ヒナは不思議そうに首を傾げた。


「今は向こうの部屋にいますよ」

 ユリウスが指差した先はヒナが入った事がない扉。

 向こうにもバス・トイレがあり、アレクサンドロはそちらを使っているのでヒナとの部屋の間に扉ができても問題ないのだとユリウスは教えてくれた。


「それは?」

 ヒナの手には四角い布。

 両面で柄が異なっているが、どちらもオシャレな柄だ。


「クッションカバーです」

「アレク様に?」

「手帳カバーを作ろうと思ったんですけど、アレクは手帳を持たないので使える物にしようと」

 このソファーのクッションに被せて良いですか? とヒナがクッションを指差すとユリウスはもちろんですと微笑んだ。


「アレク様っぽい柄ですね」

 黒の無地、グレーのボーダー、銀色の麻の葉のような柄の布をアシンメトリーで組み合わせて縫い合わせた布だ。


「……使ってくれるでしょうか?」

「喜ぶと思いますよ」

 ユリウスの言葉にヒナはホッとした。


「あ、ヒナは今日の夕食ありますか?」

「さっき作ったので大丈夫です」

「……もしかしたらアレク様は夕飯を一緒に食べられないかもしれないので、その時は連絡しますね」

 急ですみませんと謝罪するユリウス。


 今までそんな事は1度もなかったのに?

 もしかして避けられている?


「部屋でもう少しミシンをしてきますね」

 ヒナはぎこちなく微笑むと自分の部屋へと戻った。

 結局アレクサンドロと夕飯は食べなかった。

 一人でスープと肉じゃがと、ユリウスが差し入れしてくれたパンとサラダを食べ、ベッドに入る。


『アレク様を慰めておいてくれ』

 お父様に言われた時は意味がわからなかったが、こういうことなのだろうか?


 今日最後に見たのは公務モードのアレクの笑顔。

 変だと思いつつ、アレクを置いて宰相室に行ってしまった。

 あの時、アレクはどんな顔をしていただろうか?

 自分の事に精一杯で、周りを気にする余裕がなかった。


 明日の朝もアレクに会えないのだろうか?

 明日は火曜日。

 文官で祭りの後片付けの仕事だ。


 いつもならもふもふで暖かいベッドが冷たい。

 ヒナは布団に包まりながら何度も向きを変え、ようやく眠った。

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