052.祭り2日目
「ディーン、朝帰りは連絡しないと心配するだろう」
コヴァック公爵は笑いながらディーンを揶揄った。
お堅いディーンが外泊するなんて初めてだ。
きっかけはどうあれ、一緒に過ごせる仲間ができた事は親として嬉しい。
「ランディが男の部屋に泊まるなんて」
ランディを揶揄うロウエル公爵。
そして難しい顔の宰相がアレクサンドロの部屋を訪ねてきた。
「『鳥』がいなくなった」
1羽もいないとコヴァック公爵が言うとディーンとランディは顔を見合わせた。
「聖女を確認したので偵察終わりでしょうか?」
「逆にもっと情報を入手しようとするだろう」
どんな事ができるのか。
奪うチャンスはいつか。
「さっきイーグルが来ましたよ?」
見えない所にいるだけで1羽も居ないなんて事はないのでは? とヒナが首を傾げた。
「イーグルは何かしていったか?」
「窓ギリギリを飛んでいっただけです」
宰相の質問に、バサッとスゴい音でしたと言うヒナ。
「クチバシとか爪とか怖いです」
身体も大きくて勝てそうにないとヒナが言うとアレクサンドロは笑った。
「ヒナ、戦うつもり?」
「えっ? だって襲われたら……上空からスゴい速度で降りて来たら、身近な物で叩くしかないよね?」
逃げられないだろうし。とヒナが言うと全員が笑った。
「加勢しよう」
本当にこの子は戦うつもりなのだ。
ロウエル公爵がヒナの頭をそっと撫でる。
「1度飛び立ったら降りるまでに旋回が必要だ。タイミングを教えよう」
身近にある適当な物を振り回す姿を想像したコヴァック公爵もヒナの頭を優しく撫でた。
自分達よりもヒナに信用されていそうな父2人の姿にランディとディーンは驚いた。
アレクサンドロも思わぬライバル登場にムッとする。
「コレはヒナが作ったのかな?」
「あ! そうです! スープもありますが召し上がりますか?」
「いや、この卵焼きだけもらうよ」
ヒョイと手で掴み、口に入れるロウエル公爵。
「美味しいよ」
ヒナの頬にチュッと口づけすると、驚いたヒナは真っ赤になった。
「ランディ、3ヶ月も経ったのに口説き落とせていないとはどういうことだ」
「ディーンも、もっと積極的に行かないと」
コヴァック公爵も卵焼きを食べると、ヒナの耳元で美味しいと囁いた。
「お二人とも、奥様に言いつけますよ」
溜息をつく宰相に、イケオジ2人は「息子の代わりだ」と笑う。
複雑そうな顔をするランディをロウエル公爵が呼び、困った顔をするディーンをコヴァック公爵が呼んだ。
それぞれに今日、明日の祭りの最中にしてほしい事を伝える。
宰相はヒナにしてほしい事をユリウスに伝えるとイケオジ3人は去っていった。
「……前もあんな感じか?」
初めて会った時も膝の上だったりクッキーを食べさせてもらったと言うと、アレクサンドロは驚いた顔をした。
ロウエル家は銀狼。
キレイな見た目としなやかな身体に反して牙が鋭く、血で染まった姿が恐ろしいと怖がられている。
身体は大きく現在のロウエル公爵は歴代のロウエル一族の中で最強だと有名だ。
コヴァック家は茶狼。
見た目こそ普通だが、普通であるが故に警戒されない。
周囲に溶け込み情報取集を行うのだ。
現在のコヴァック公爵は先代からの情報網を駆使し、早く正確な情報を入手できると言われている。
そんな公爵2人がヒナをこんなに可愛がるなんて。
「ヒナ、明日キッチンで時間のかかるものを作ってほしいのですが」
「料理ですか?」
ユリウスに言われたヒナは首を傾げた。
「なんでも良いです。夢中で作業をしてください」
必要な材料はこれからディーンかランディが買いに行くと言う。
「えっと、じゃぁ……」
ヒナは立ち上がり部屋から1冊の本を持って戻ってくる。
先日ディーンと買ったパンの本だ。
「これを作ってみたいので材料をお願いしていいですか?」
あるページを開くと、ユリウスはサラサラとメモをした。
「ディーン、お願いします」
「わかりました」
メモを確認し、大丈夫だと言うディーン。
「あと布がほしいです。このくらいの大きさを何枚か」
「色は?」
「えっと、おまかせします。アレクに似合う色と、ランディに似合う色と、ディーンに似合う色の3枚」
柄があっても無くても良いと言うと、ランディが買ってくるよと微笑んだ。
「ヒナとユリウスの分もね」
ウィンクするランディ。
ヒナは嬉しそうに微笑んだ。
俺だけなんの役にも立っていない。
アレクサンドロは隣に座るヒナの手を握った。
「俺は?」
何を手伝えば良い? というアレクサンドロ。
「アレク様はヒナの側にいてください」
頑張ってくださいとユリウスはパンの本を手渡した。
「……パンはこんな風にできていたのか」
知らなかったとアレクサンドロは真剣に本を眺める。
買い物ついでに祭りの食べ物を買って来てもらい、みんなでお昼も夕食も祭りの料理を食べ、今日も3匹の狼と眠った。
「南広場に行ったが鳥はいなかった」
「北広場もいませんでした」
眠るヒナの横で3人は今日もワインに手を伸ばす。
「明日は狼の姿でヒナの横にいる」
父の命令だと言うランディ。
「私は外でイーグルを見ます」
第3王子なのか第4王子か、それ以外か確認するとディーンは言った。
「俺も狼だ」
今日パンの作り方を読んだが狼だから何もできないとアレクサンドロは笑いながらワインを飲んだ。
「ヒナに近づくなと警告してやる」
ランディはグラスを傾けながらワインの色を見た。
「鳥族には渡しません」
ボトルからワインを継ぎ足しながら微笑むディーン。
今日はほどほどでワインを切り上げ、狼の姿でヒナの横へ。
昨日と同じ位置でヒナにくっつくと3匹はゆっくりと目を閉じた。




