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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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049.夢中

 ゴスロリ風の白黒ワンピースに着替えたヒナは、カーテンを開ける理由を考えた。


 無難なのはやっぱり掃除かな。

 カーテンを開けて、窓を開けて、掃除をしているような姿をみせればわざわざカーテンを開けたと思われないだろう。


 よし!

 ヒナは(ほうき)を手に取るとキッチンの横へと向かった。


 カーテンを開け、窓を開けたが、今は『鳥』はいないようだ。


 (ほうき)で部屋の隅からゆっくり掃いていく。

 早く終わったらダメだ。

 『鳥』が来るまで時間を稼がないと。


 半分くらい部屋を掃き終わった頃、ようやく『鳥』が空を旋回するのが見えた。


 ……あれ?

 窓まで来ない。


 警戒しているのだろうか?


 ヒナは気づかないふりをしながら残りの半分の掃除を行う。

 もうすぐ終わってしまいそうでどうしようと思っていたところ、急にバサッと大きな羽音が聞こえた。


 窓の外には大きな『鳥』。

 クッキーをあげたイーグルだ。


 イーグルは口にくわえた紫の花を窓の外に置いた。

 開いた窓の隙間から花を入れようとしている。


 ヒナは(ほうき)を持ったまま窓に近づいた。


 紫と白の小花が星のような形をした可愛い花だ。

 窓の隙間よりも大きくて入りそうにないけれど。


 茎が部屋の中に突っ込まれたので、ヒナは茎をそっと引いてみた。

 大きそうに見えたがひとつひとつの花はとても小さく、花は窓をするっと通り抜けた。


「……いい匂いがする」

 バニラのような甘い香り。

 ヒナが花を手にしたことを確認すると『鳥』は空へと飛び立った。


 この花を届けるために朝から何度も?


 ヒナは首を傾げると、コップに水を張り花をキッチンの上に飾った。

 ここならあとで『鳥』が見に来ても見える位置だ。


 このあとすぐにカーテンを閉めたら変だよね?

 ヒナは(ほうき)で部屋を掃き終わると、雑巾で窓枠やキッチンを拭き1時間程カーテンを開け続けた。


 空を旋回する『鳥』が見える。

 ヒナは雑巾を洗って部屋に干すと、窓を閉め、カーテンを閉めた。


 コップに入れたまま紫の花を持ち、アレクサンドロの部屋へ。

 ヒナが手にした花を見た全員が驚いた顔をした。


「……ヘリオトロープ」

 アレクサンドロが呟くと、ヒナ以外の全員が愕然とした。


 ヘリオトロープ?

 この花の名前?


 全然わかっていないヒナが首を傾げると、イケオジ3人は溜息をついた。


「イーグルが持ってきたのか?」

 宰相が花を確認する。

 甘い匂いがキツいのでこの花は摘んだばかりだろう。


「最初は遠くを飛んでいて、居なくなって、この花を咥えてきて、また居なくなって、遠くを飛んで、居なくなりました」

 うん、変な説明だ。

 わかってもらえただろうか?


「あちらの王子は4人か?」

「いや、でも上の2人は結婚していたはずだ」

「下の2人の見分け方は?」

 イケオジ3人が相談を始める。


「マズいな」

「街も危ないか?」

「しばらく辞めた方が良いでしょう」

 アレクサンドロ、ランディ、ディーンも相談を始めてしまった。


 放置されたヒナはユリウスに着替えて来ますと伝え、花を持ったまま部屋に戻った。

 キッチンの上にコップを置き、またズボンに着替える。

 前髪を下ろして眼鏡をすると視界が悪くなりホッとした。


 アレクサンドロの部屋に戻るとイケオジ3人が消えている。


「ヒナ」

 アレクサンドロにソファーをボンボンとされたヒナは着替える前に座っていた位置に戻った。


「花をくれたのはクッキーをあげた鳥だった?」

 アレクサンドロの問いにヒナは頷いた。


「あの花はね、ヘリオトロープ。花言葉は『夢中』なんだ」

 ランディが困った顔で微笑む。


「クッキーに夢中? おいしかったよって事?」

 わかりにくいねとヒナが首を傾げるとユリウスは違いますと溜息をついた。


「ヒナに夢中です」

 ディーンの言葉にヒナが驚く。


 いやいやいや。そんなはずはない。

 クッキーを1枚、いや、割ったので半分あげただけだ。


 夢中になる要素など何もない。


「プチィツァ国の第3王子か第4王子でしょう」

 ディーンが眼鏡の鼻当てを押さえながら困った顔でヒナを見る。

 アレクサンドロ、ランディ、ユリウスはヒナの反応を伺った。


「……王子が気軽に他国に忍び込みすぎじゃない?」

 アレクもそうだけど。と真面目な顔でヒナがつぶやくと、予想外の答えに4人は呆然とした。


 王子から花を頂いた。

 普通の令嬢なら飛び上がるほど喜ぶだろう。

 お返しは何にしよう、次はいつ来てくれるだろうか、とウキウキするはずだ。

 だが、ヒナには全くそんな様子はない。


 花にも王子にも興味がないのだ。


「……確かにアレク様もチェロヴェ国に忍び込みましたね」

 笑いを堪えるユリウスの肩は揺れている。


 バツの悪そうな顔をするアレクサンドロ。

 ランディは声を上げて笑い出し、ディーンは溜息をついた。


「父の元へ行ってきます」

 情報収集して来ますとディーンは立ち上がった。


「そうだね、頼むよ」

 アレクサンドロのチキン焼きを買いに出るとランディも立ち上がった。


「えっ? アレク、まだチキン焼き食べるの?」

 もうお腹いっぱいだとヒナが笑うと、オススメの店は食べないとダメだろうとアレクサンドロは力説した。


 夜までには戻ると部屋を出ていくディーンとランディを見送ると、一気に部屋が静かになった。

 さっきまではイケオジを含めると8人もこの部屋にいたのに、今はアレクサンドロ、ユリウス、ヒナの3人だ。


「鳥っていいよね~」

 冷めてしまった紅茶を飲みながらヒナがぼそっと呟いた。


 気軽に飛んで行って旅行して帰って来れるなんてズルい。

 山でも川でも高低差を気にすることなく飛んでいけるので歩くよりも楽そうだ。


「えっ?」

 まさか鳥族の王子がカッコよかったということだろうか?

 狼族よりも鳥族の方が良いという事だろうか?

 焦ったアレクサンドロがヒナの顔を覗き込む。


 急に現れたイケメンの顔にヒナは驚いて紅茶をこぼしそうになった。

 あわててカップをテーブルに戻し、びっくりさせないでよと抗議する。


「プチィツァの王子の方が良いのか?」

 アレクサンドロがヒナをソファーに押し倒しながらヒナに尋ねる。


 ヒナの視界はぐるんと回り、一瞬天井が見えた。

 すぐにアレクサンドロしか見えなくなる。


 待って! 待って! この体勢は何?


 アレクサンドロに押し倒され、ヒナは真っ赤になった。


「ア、アレク?」

 眼鏡もあるが、前髪はどこかに行ってしまった。

 イケメンの顔が近い!


 困ったヒナが目を逸らすと、アレクサンドロは切なそうに微笑んだ。


「ヒナ……」

 王子がいいなら俺にしておけ。

 鳥より狼の方がカッコいいだろう?


 このまま抱いてしまえば、ヒナはどこにもいけなくなるだろうか?

 俺だけを見てくれるようになるだろうか?


「はい、ストップ!」

 アレクサンドロとヒナの顔の間に出された手帳。

 イケメンの顔が急に手帳で隠され、ヒナは驚いた。


「合意の上でないとダメですよ」

 ニッコリ笑うユリウス。


 アレクサンドロはぐぬぬと喉を鳴らすとヒナから離れ、頭をガシガシと掻いた。

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