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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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037.甘やかしたい

 日曜日の朝、ヒナは南広場の出来事をユリウスに報告した。

 鳥族に治癒を見られてしまった事、2羽はオオカミ達が捕まえてくれた事。


「部屋を覗いていた『鳥』は街にもついていったのですね」

 確認しておきますとユリウスは手帳にメモをした。


 窓から『鳥』を探したが、今日はいなかった。

 出かける気にもならず、パンや残っていた野菜を調理してアレクサンドロと食事をした。


 空いた時間はミシンで自分のリボンとユリウスの妻エリスのリボンを縫う。

 ついでに筆箱代わりのポーチも。

 ファスナーはないので紐で縛るタイプだ。


 夜はもふもふのアレクサンドロをブラッシングし、どうしたら良いのか答えが出ないまま、あっという間に1日が終わってしまった。



「おはようヒナ」

 何度見ても朝が似合わないランディが今日もヒナに黄色の花を一輪手渡した。


「おはようございます」

 月曜は武官の日。

 アレクサンドロとユリウスはもう会議に行ってしまった。

 アレクサンドロの部屋まで迎えに来たランディは、少し顔色が良くないヒナの顔を両手で包み込んだ。


「……大丈夫か?」

「あ、少し寝不足というか、寝ているんですけどちょっとスッキリしないっていうか」

 大丈夫ですと言うヒナをランディは心配そうに覗き込む。


 どうしてわかったのだろう?

 アレクサンドロにもユリウスにもバレなかったのに。


「無理しない方がいい」

「大丈夫ですよ」

 黄色い花は土曜に買った花瓶へ。

 最初にもらった花が枯れてしまったので、花瓶の花は3本だ。

 いつも通り演習室に行き、魔術の練習をしようとしたがヒナは手を見つめたまま動きが止まってしまった。


「ヒナ?」

 やっぱり具合が悪いなら辞めておこうと言うランディにヒナは首を横に振った。


「……私、わがままを……」

 状況を理解せず、みんなに迷惑をかけたとヒナは手を見つめながら呟いた。


 今、手を見ても魔力を感じない。

 でも治癒を見てしまった。

 国王陛下の前で婚約を断った後、宰相をしている義父は海に逃げろと教えてくれた。

 今のままでは守りきれない可能性が高いからだ。


 鳥族が1番厄介だとも教えてくれた。

 令嬢のヒナと眼鏡のヒワの2人になる事も全部手配してくれていたし、ずっと守ってくれていたのに。

 自立したいなんて迷惑な事を言い、魔力もコントロールできず、そして今はどうしていいのかわからずに悩んでいる。


「俺と婚約する?」

 今からでも大歓迎だとランディが微笑む。


「ロウエル家は国の防衛の中心。何があってもヒナを守るよ」

 ランディはヒナの手を取った。


「趣味は結構合うと思ったけれど、ダメかな?」

 指先に口づけを落としながらランディがヒナを見つめる。


「ふあっ?」

 ランディがヒナの両腕を引っ張ると、ヒナの小さな身体はぽふんとランディの胸板にぶつかった。

 肩も腰もギュッと抱き寄せられ、フルーティな香りに包まれる。

 柔らかい銀の髪がヒナの横でさらりと揺れ、ヒナの耳元でランディが囁いた。


「ヒナ、好きだよ」

 真っ赤な顔のヒナから甘い魔力が漏れる。

 耳元にかかるランディの吐息がエロい。

 いや、大人の階段まだ早いです!


「水曜に父達に会うのだろう? そこで相談してみるといいよ」

 婚約せずにヒナを守り抜く作戦を考えてくれるだろうと言うと、ランディはゆっくりヒナを解放した。


「最善はね、常に変わるんだ。最後に勝てば良いんだよ」

 難しく考えなくて良いとランディが微笑む。


「ありがとう、ランディ」

 ヒナは心につっかえていたものが少し取れたような気がした。


「眠れないなら添い寝してあげるよ」

 もちろん人の姿でねとウィンクするランディ。

 ヒナは真っ赤な顔で首を左右に振った。


 魔力操作の練習を1時間ほどしてから第5棟へ。

 まだ秋のオオカミは産まれていないので子供のオオカミ厩舎は空っぽ。

 今日は武官の建物である第5棟で包帯などの在庫確認だ。


「また街でオオカミ達に会おう」

 頭をそっと撫ででくれるランディ。


 子供のオオカミに会えなくて寂しいという気持ちを察してくれたのだろう。

 やっぱり優しい。

 ヒナはランディを見上げながら微笑んだ。


「ひーくん! ねぇねぇ土曜日どこにいた?」

 武官に着いた瞬間、明るい茶髪のリッキーがヒナに駆け寄った。


「えっ? 家……だけど?」

 休みだからとヒナが首を傾げると、リッキーはヒナの腕を引っ張りランディから遠ざけた。


「俺、見ちゃったんだ」

 小声で話すリッキー。


「何を?」

「ランディが彼女連れて街にいる所」

「えっ?」

 まさか自分だとバレていたという事だろうか?


「顔は見えなかったんだけどさー。あれ絶対お嬢様だ」

「そ、そうなの?」

 バレていない?


「南広場にいてさ。雰囲気が甘々でさ」

「甘々!?」

 驚いたヒナが思わず大きな声を出す。


「しーっ!」

 声がでかい! と注意されてしまう。


 どうやら自分だとはバレていなさそうだ。

 また街で会ったらどんな子だったか教えるねというリッキーにヒナは苦笑した。

 

 もうランディと気軽に街へ行けない。

 ヒナは溜息をつくと今日の仕事に取り掛かった。



 もっと甘やかしたい。

 もっと頼られたい。

 ランディは消毒液を補充するヒナを少し離れた所から見つめた。


 治癒を見て動揺したのだろう。

 土曜は感情を隠していたのだ。

 夕食を食べて部屋まで送ったが、気にしている素振りはなかった。

 あの時に気づいてあげなければいけなかったのに。


 自立したい。

 迷惑をかけた。

 最善ではなかった。

 日曜は1日中1人で悩んだのだろうか?


 相変わらず普段は魔力が出ない。

 まだ心を閉ざしているのだろう。


 自分に自信がない。

 落ち込みやすい。

 自分一人で解決しようとする。

 人に嫌われることを恐れている。


 ヒナは人に受け入れてもらった経験が無いのかもしれない。

 それとも何か立ち直れないほどの嫌な経験をした事があるのだろうか。


 時間をかけてゆっくりとお互いを知っていくしかないだろう。

 南広場で鳥族の事を相談してくれたが、あれは切羽詰まってどうしようもなく頼ってくれただけだ。

 もっと普段から何でも話してくれるくらい信頼されなくては。


 新しい包帯を棚にしまおうとしているヒナをランディは後ろからそっと支えた。


「高い場所は危ないよ?」

 ヒナから箱を奪うと軽々と棚に入れる。


「ありがとうございます」

「他にしまう物は?」

「あとは低い所なので」


 頭をそっと撫ででくれるランディ。

 なぜだかランディに撫ででもらうとホッとする。

 ヒナが見上げると、ランディはグレーの眼を細めて微笑んでくれた。


 イケメンの笑顔は破壊力がありすぎる!

 ヒナはパッと目を逸らし、次の小さな箱を手に取った。


「ひーくん! お昼行こう~!」

「はーい! すぐ行きます!」

 棚に小さな箱を入れ、次の箱も入れたら作業完了だ。


「行ってきます」

「たくさん食べておいで」

 手を振ってくれるランディに見送られながら、ヒナは10人ほどの武官達と食堂へ歩いて行った。

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