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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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033.期待

 全然伝わらなかった。

 ヒナはワンピースからズボンに着替えながら溜息をついた。


 誰とも付き合うつもりはないと伝えるはずが、この国に慣れたらOKみたいな変な解釈をされてしまった。

 そんなに説明が下手だっただろうか。


 バレッタはベッドの横へ。

 後ろで1つに縛って前髪を整え眼鏡をかける。


「お兄様、ありがとうございます。これ返しに行ってきます」

 銀食器は洗ってユリウスに。

 ヒナはメモ書きも一緒にユリウスに渡した。

 カゴはカフェテリアへ返却だ。


「いってらっしゃい」

 ユリウスはメモを確認するとすぐに内ポケットへ入れ、手を振ってヒナを見送る。


「すぐ戻ります」

 パタンと扉の音をさせながらヒナは部屋から出ていった。


「……断られた」

「諦めますか?」

 クスッと笑うユリウスにアレクサンドロは溜息をついた。


「諦めない。よくわかっていないフリをして今じゃなければ婚約してくれるんだなと押し通した」

「珍しく強引でしたね」

 積極的にと言ったくせに強引だと言うユリウス。

 アレクサンドロはソファーに埋もれながら天井を見上げた。


「全部話した」

 利用しようとした事、誰でも良いから結婚させようとした事、途中で後悔した事も。


「そうですか」

 慣れた手つきで紅茶を淹れながら淡々とユリウスが答える。


「……結果は聞かないのか?」

「断られたのでしょう?」

「そこじゃなくて」

 わかっているくせに意地悪を言うユリウス。

 アレクサンドロは頭をガシガシ掻いた。


「あの子はアレク様の手に追えないかもしれないです」

 ユリウスが紅茶を出しながら微笑むと、アレクサンドロは天井を見上げたまま大きく息を吐いた。


「少し宰相の所に行ってきますがよろしいですか?」

「あぁ、ここにいる」

 ユリウスは天井を見上げたままのアレクサンドロに一礼すると宰相室に向かった。



 今日部屋ができ、カーテンが白からサーモンピンクに変わった。

 明らかに女性の部屋だと思われるだろう。

 ヒナはズボンの姿、昼からワンピース、そしてまたズボンに着替えた。

 宰相に言われた通り、『令嬢の姿』と『眼鏡の姿』の2人を目撃させている。


 偵察に来た『鳥』に。


 銀食器と一緒に渡されたメモ。


『目の周りが白い緑の鳥がいます。まだ捕まえなくて良いですよね?』

 わざとカーテンを開けて姿を見せ、アレクサンドロと庭園に行き、部屋に戻ってカーテンを閉めた。


『アレクサンドロの隣の部屋に住んでいるのはワンピースの女性。黒髪眼鏡とは別人』と情報を流させるために捕まえなかった。

 問題があるなら捕まえられるように鳥の特徴までメモに。

 どうやって鳥族とは本当のトリを見分けているのかわからないが、それよりも宰相である父の思惑通りに動ける女性がいるなんて。


 宰相に報告すると当然であるかのように「そうか」と頷いた。

 期待通りという事なのだろう。

 ユリウスは内ポケットからヒナのメモを取り出し宰相へ渡した。


「もっと教えてみよう」

 鳥族が1番危険だと教えただけでこの成果だ。

 さらに情報を与えた時に、あの子はどんな事を思いつくのだろうか?

 宰相は口の端を上げた。


「ディーンに情報戦術、ランディには魔力以外に国防戦略を教えるように伝えてくれ」

「わかりました」

「エリスにマナーと立ち振る舞いを、ユリウス、お前が国政を」

「はい」

 父はヒナを相当気に入ったようだ。

 マナーはともかく国政に国防まで教えるなんて。


「結婚しなくても構わない。うちでずっと面倒を見る」

 父の言葉にユリウスは驚いた。

 結婚させずにずっとイーストウッド家に置いておきたいと聞こえてしまった。


「コヴァック公爵、ロウエル公爵にも会わせよう」

 我が国で情報戦を最も得意とするコヴァック公爵はディーンの父。

 我が国の防衛戦術に長けているロウエル公爵はランディの父だ。


「公爵に……ですか?」

 驚いたユリウスが確認すると宰相は頷いた。


「我が国の『鳥』にも会わせよう」

 宰相が日程調整をするようにユリウスに命じる。


 そんな国家機密まで。

 それだけヒナの価値が高いという事なのだろう。

 確かに鳥族を見分けられる能力は貴重だ。

 治癒もすごいが、種族を見分ける事ができるのはかなり役に立つ。


「わかりました」

 ユリウスは一礼するとアレクサンドロの部屋へと戻った。


「今週土曜はランディと街に、来週土曜はディーンと本屋に行く予定です」

 予定を聞かれるとは思っていなかったヒナはダメでしたか? と首を傾げた。


「は? ランディとディーンと?」

 驚いたアレクサンドロが振り返る。

 俺とは街に行かないのか? と言いたそうな目だ。

 耳は絶対にしゅんと垂れ下がっていると思う。


「アレクが街へ行くとお兄様が大変です」

 前回ユリウスも護衛も大変そうだったとヒナが言うと、アレクサンドロはグゥと喉を鳴らした。


「……来週水曜で調整してみます。会わせたい人がいるのと、エリスにマナーを習うようにと。父が」

 ユリウスはさらさらと手帳にメモをした。


「お兄様、カレンダーってありますか?」

 そろそろ予定を覚えられなくなりそうだ。

 忘れないようにカレンダーに予定を書いておきたい。


「カレンダー?」

「あー、手帳みたいに予定が書けるものです。壁に掛けたりする」

「壁が傷つきませんか?」

 どうやらカレンダーはないらしい。

 土曜日に街で手帳を買おう。


「あ、ないなら大丈夫です」

 ヒナが両手を振ると、ユリウスは不思議そうに首を傾げた。


「ユリウス、会わせたい人って」

 男じゃないだろうなとアレクサンドロがジロっと睨む。


「公爵です」

 ロウエル公爵とコヴァック公爵ですと言うとアレクサンドロの目が見開いた。


「何で!」

 まさかヒナをどちらかの嫁にするために?

 焦るアレクサンドロを横目にユリウスはヒナにニッコリ微笑んだ。


「宰相命令です。日時が決まったら連絡しますね」

「は、はい。あ、あの、公爵って……偉い人でしょうか?」

 この世界の基本的な事がわからないヒナ。


 ユリウスは爵位と役割についてヒナに説明する事にした。

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