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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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032.謝罪

「ヒナ、マドレーヌ」

 食べさせろと口を開けるアレクサンドロにヒナは「あーん」とマドレーヌを差し出した。


「あっ! 先に私が食べないとダメだった!」

 慌てて少しかじって、大丈夫だよと言ってからアレクサンドロに再び「あーん」とする。


「うまい」

 アレクサンドロは嬉しそうにマドレーヌを食べるとヒナに微笑んだ。


 ペロッと舌舐めずりする姿はまるで狼だ。

 思わず目が合ってしまったヒナは慌てて目を逸らした。


「部屋を作ってくれてありがとう」

「準備したのは宰相とユリウスだ」

 俺は何もしていないと言うアレクサンドロ。


「アレクの本の部屋だったって」

「大事な本は寝室にあるから構わない」

 アレクサンドロは持つのも熱い紅茶を手に取る。


「ヒナが淹れた?」

「う、うん。この前、エリスお姉様と選んだ紅茶を初めて淹れたけど……」

 好みじゃない? と覗き込むヒナ。


「良い香りだ」

「良かった! 青い花びらが入っていて綺麗だったからこの紅茶を」

 選んだのだけど……と言おうと思ったヒナの言葉は、手を恋人繋ぎにされたせいで止まってしまった。


 紅茶をゆっくりと飲むアレクサンドロ。


 黒と濃い灰色と薄い灰色が混ざった髪は狼の姿の毛色と同じ。

 整った顔にグレーの眼。

 熱い銀のカップで飲む姿はまるで日本酒でも飲んでいるかのような色気。

 大学にいたらモテモテだろう。


 こんなイケメンが喪女にプロポーズ?

 付き合うも全部吹っ飛ばして、結婚しようと公園で言われたがやっぱりアリエナイ。

 どんな女性だって選べる立場なのに。


 国王陛下の命令?

 命令はいつから?

 この国に連れてきてくれたのはアレクサンドロ。

 そこは国王陛下の命令ではないはず。

 どこからどこまでが命令だったのかな。


「ヒナ」

 マドレーヌ。と口を開けるアレクサンドロ。

 ヒナは少し微笑むとマドレーヌをアレクサンドロの口に運んだ。


「……食事を、これからも一緒にしたい」

 1人で食べるのはつまらないというアレクサンドロにヒナは驚いた。


「キッチンを作ってもらって」

「好きな物を作ればいい。食べたい物を食べればいい。でも一緒の部屋で食べてくれないか?」

 せめて1日1回、朝でも夜でも良いからと言うアレクサンドロは少し寂しそうに見えた。


 アレクサンドロは王太子。

 ユリウスはついているけれど一緒に食べるわけではない。

 狼の姿の時にお皿を移動させるサポートをしていたが、人の姿の時は最後に紅茶を淹れるくらいでほとんど会話はない。

 きっと自由に友人と食事が出来る立場でもない。


 一人の食事の味気なさはヒナもよく知っている。

 どんなに美味しい有名店の料理だって、一人では味もよくわからないし、なぜ食事をしなくてはいけないのかと思った事さえある。


「はい。出来るだけ一緒に食べますね」

 ヒナが答えるとアレクサンドロは嬉しそうに笑った。


 恋人繋ぎの手がギュッと強くなり、持ち上げられた。

 握ったままの手に口づけされる。

 2歳しか違わないのに色気がありすぎではないだろうか?


「アレク、聞いてもいい?」

「なんでも聞いて」

 握った手に口づけするアレクサンドロの吐息が少しくすぐったい。


「どうしてこの国に連れてきてくれたの?」

「命の恩人だから」

 アレクサンドロはすぐに答えてくれる。


「命令はどこからどこまで?」

 なんでも聞いてと言われて遠慮なく聞いたが、不躾だっただろうか。

 アレクサンドロはピタリと止まってしまった。


「この国に引き留めろ。だけ」

 困った顔でヒナを見たアレクサンドロの顔は罪悪感がありそうな顔に見えた。


「手っ取り早く国に引き留める方法は結婚。誰でもいい。惚れさせて国のために働かせようって言ったのは俺」

 ごめんと謝るアレクサンドロ。

 握った手は少し震えている。


「国のために働く……?」

「この国を守ってもらおうと思った」

 以前教えてくれた結界というものだろうか?

 聖女がいたら結界が作れて、平和に暮らせるのだと言っていた気がする。


 アレクサンドロは王太子。

 国のためを考えるのは当然だ。


「誰でもいいからランディとディーン?」

「好みがわからなかったから、女性に人気があって家柄も問題なくて優秀な人材を選んだ」

 何度もごめんというアレクサンドロ。

 グレーの眼は後悔をしているような反省しているような眼だ。


「もし勘違いだったら?」

 聖女じゃなかった場合は、チェロヴェ国のように捨てられたのだろうか?

 ヒナはアレクサンドロを不安そうな顔で見上げた。


「治癒が使えるから、ずっとこの国にいてくれれば良いと思った」

 勝手な事ばかりでごめん。とアレクサンドロは何度も謝る。

 握った手がさらにギュッとキツくなった。


「初めて庭園に来た日、すごく後悔した。ヒナにランディとディーンを近づけなければ俺だけ頼ってくれて俺だけ見てくれたのに」

 誰でも良くなかった。

 俺を好きになれと思った。


「ドレスを着た綺麗なヒナを誰にも取られたくなくて、焦って、公園で求婚した」

 ヒナを利用しようとしたのに勝手な事ばかりと言われるかもしれないけれど。


「人族は好きになったらどうするんだ? どうしたらヒナは俺を男として見てくれる? 何をしたらヒナと(つがい)になれるか教えてくれ」

 真剣なアレクサンドロにヒナは驚いた。


 イケメンが私を好き?

 また騙されているのではなくて?


「この世界の人族はわからないけど、一緒に出かけたり、一緒に食事しているうちになんとなくそんな雰囲気に……なるのかも? ……よくわからないけど」

 ヒナが困った顔でアレクサンドロを見ると、わからないって? とアレクサンドロが笑った。


「婚約者とは違う?」

「えっと、お付き合いして、結婚したいと決めたら婚約者になる感じ」

「オツキアイ?」

 知らない言葉にアレクサンドロは首を傾げる。


「まだここの生活に慣れていなくて、誰とも付き合うつもりはなくて……」

 ヒナは国王陛下の前で断ってしまった事を謝りたくて、今日アレクサンドロを誘ったのだ。

 やっと本題に入れそうだ。


「公園で好きだって言ってくれてありがとう。でも私、」

 ヒナの言葉の途中でわかったとアレクサンドロが納得した。


 ヒナがこの国に来てから3ヵ月も経っていない。

 まだここの生活に慣れていないと言われても当然だ。


「何ヶ月一緒なら婚約できる?」

「……ん?」

 不思議な事を聞くアレクサンドロに、ヒナは上手く伝わってないと困った顔で微笑んだ。

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