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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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031.庭園デート

 水曜日。

 国王陛下との謁見から5日しか経っていないのに、部屋が完成した事にヒナは驚いた。


「は、早っ」

 12畳の部屋にキッチンと、日曜に買ってもらったミシンまで設置済みだ。

 棚には鍋、引き出しには皿も入っている。


「仮置きしてありますが、使いやすいように自由に変えてくださいね。ミシンは重いので場所を変える時は言ってください」

「ありがとう、お兄様」

 アレクサンドロの寝室から、バスルーム、トイレを挟んでヒナが使用しているベッドルームがある。

 そこからさらに隣に12畳の部屋を準備してもらう事が出来たので、贅沢なマンションのようだ。


 アレクサンドロの寝室とバスルームの間には簡易だが扉が設置された。

 眼鏡にズボンの姿の時はこの扉を通ってアレクサンドロの執務室の方から出入りを、ワンピース姿の時は12畳のキッチンダイニングの扉から出入りをするという宰相の説明通りの構造になっている。


 窓にはユリウスの妻エリスが選んだサーモンピンクの女性らしいカーテンが付き、華やか。

 贅沢すぎる部屋にヒナは喜んだ。


「……アレク様、不貞腐れないでください」

 寝室とバスルームの間の扉が不満そうなアレクサンドロにユリウスが溜息をつく。

 アレクサンドロはヒナに何も言わないまま、寂しそうに部屋へと戻っていった。


「気にしなくていいですよ」

 ヒナにニッコリ微笑むユリウス。

 17時までに第2棟のカフェテリアに食材や日用品を注文しておけば、翌日の昼以降に受け取り可能という説明や、街で何か大きな買い物をするときはユリウスに事前に相談してほしいなど注意点がいくつか告げられた。


「はいっ。ありがとうございます」

 嬉しそうに返事をするヒナに、いろいろやりたいと思うけれど今日は水曜なのでアレクサンドロの手伝いをお願いしますとユリウスは付け加えた。


「先に食材だけ注文してきていいですか?」

「構いませんよ。アレク様との食事は明日の朝までにしておきますね」

 ユリウスはサラサラと手帳にメモをし、アレクサンドロの部屋へ戻っていく。

 ヒナはメモに欲しい物をいくつか書こうと思ったが、食べたいものが思い浮かばず、パンは必須として、メニューは決めずに適当に野菜を紙に書いた。


「カフェテリアに注文しに行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 今日は眼鏡にズボンなのでアレクサンドロの部屋を通ってカフェテリアへ。

 ユリウスに見送られながらヒナは扉を出た。


「明日から食事も別々か」

「そうですね」

「……(つがい)になりたい」

「がんばってください」

 しゅんと耳が下がっていそうなアレクサンドロをユリウスは励ますわけでもなく見守るだけ。


「冷たいぞ、ユリウス」

 少しは協力しろというアレクサンドロにユリウスは自分でがんばりましょうと微笑んだ。


「戻りました」

「はい、おかえりなさい」

 アレクサンドロの執務室を通りそのまま奥のヒナの部屋へ。

 手には何かを持っていたが、カフェテリアで買ってきたのだろうか?

 それさえわからないまま、ヒナは奥に行ってしまった。

 寂しそうな目を奥の部屋の方に向けるアレクサンドロ。


「がんばって口説いてくださいね」

 ユリウスは積極的に行かないとダメですよとアドバイスした。


「お兄様!」

 扉からひょこっと覗くヒナ。


「はい、何ですか? えぇ、構いませんよ」

 アレクサンドロにはヒナの声が聞こえない。

 少し話しただけでヒナの姿はもう扉から消えていた。


「さぁ、残りの書類を急いでやりましょう」

「急ぐ必要もない」

 不貞腐れるアレクサンドロにユリウスは微笑んだ。


 不満を言いつつ、アレクサンドロは書類を見終わると、立ち上がって伸びをした。

 いつもなら狼の姿になり、ヒナにブラッシングしてもらうのだが、今日からは別の部屋だ。

 もうしてもらえないかもしれない。

 アレクサンドロは溜息をついた。


「ヒナ、終わりましたよ」

 なぜかユリウスが奥の部屋に声をかける。


「はーい。すぐ行きます」

 声の後、すぐに扉から出てきたヒナは令嬢の姿だった。


 ユリウスの妻エリスと買った綺麗な水色のワンピース。

 前髪ナシ、眼鏡ナシ、髪は先日アレクサンドロが買った紫の蝶のバレッタで留めてある。

 手にはカゴ。

 出かけそうな雰囲気のヒナにアレクサンドロは首を傾げた。


「アレク様、庭園で休憩しませんか?」

 ヒナがニッコリ微笑むと、アレクサンドロは嬉しそうに笑った。

 尻尾は見えないが全力で振っている気がする。


「ユリウス、俺がこの部屋の扉から出て、ヒナの部屋に迎えに行けばいいのか?」

「そうですね」

「あ、そうか」

 この姿の時は向こうの扉から出なくてはいけないことを忘れていたヒナは、戻りますと奥の部屋へと歩いていく。


「良かったですね」

 ヒナから誘ってもらえて。

 ユリウスが微笑むと、アレクサンドロも嬉しそうに微笑んだ。


「では行ってくる」

「いってらっしゃいませ」

 ユリウスは執務室の扉で見送る。


 アレクサンドロは廊下を歩き、ヒナの部屋の扉をノックした。

 すぐに出てくるヒナからカゴをひょいっと奪うと、アレクサンドロはヒナの手を持ち上げ口づけを落とす。


「庭園へ行こう」

「はい」

 

 迷子になりそうな廊下を進み、綺麗なステンドグラスの前を通り、階段に差し掛かる。

 今日もユリウスのおかげなのだろう。

 剣を持った騎士はいなかった。


「テーブルがあった方がいいか?」

「そうですね。カフェテリアでマドレーヌを買ってきたので」

 ユリウスが1個を半分に割って食べるのであれば良いと言ってくれたとヒナが言うと、アレクサンドロは嬉しそうに微笑んだ。


「あ、でも銀食器の上に乗せるようにと言われて、食器も持参です」

 ヒナがカゴを指差す。

 紅茶も銀のカップと言われたが熱いですよねとヒナは笑った。


 庭園の木の下にある白いテーブルと椅子。

 時間的に木影から少しずれている。

 椅子を木陰にずらし、隣同士に座るとヒナが不思議そうな顔をした。


「日陰」

「あ、確かに、日向は眩しいかも」

 令嬢なのに日向を気にしないヒナは不思議だ。

 日焼けしたくないと外に出るのを嫌がるものではないのか。


 銀食器を出し、マドレーヌを袋から出して置く。

 紅茶を銀のカップに注ぐと、湯気がのぼる。


「熱くて飲めないね」

 触るのも熱いとヒナは笑った。

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