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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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030.弁明

「おはようございます」

 昨日のランディに引き続き、普通に迎えに来てくれたディーンにヒナは驚いた。


 ランディもディーンも優しい。

 もちろんアレクサンドロも。

 わがままを言っても変わらず接してくれるのだ。

 狼族はみんな優しい。


「おはようございます、ディーン」

 アレクはもう会議に行ってしまったとヒナが言うと、ディーンはカバンから小さな箱を取り出した。

 リボンがかかった小さなオレンジ色の箱。

 箱だけでも可愛いので小物入れに使えそうだ。


「ブラウニーです。街で人気だそうです」

「ありがとうございます」

 ヒナは部屋に置いてきますと微笑んだ。


 サイドボードには昨日ランディからもらった花とディーンにもらったブラウニー。

 黄色の花とオレンジの箱。

 どちらも明るい色なので部屋が明るくなった気がした。


「お待たせしました」

 戻ったヒナがディーンに声をかけると、ディーンはヒナの右手を握った。


「……すみませんでした」

 右手をゆっくり持ち上げ、ディーンはヒナの指に口づけする。


「誠実ではありませんでした」

 まさか誰も選ばないなんて思っていなかったとディーンは苦笑した。


「弁明する機会を頂いても?」

 ディーンがヒナの手をギュッと握る。


 弁明?

 よくわからないがヒナは頷いた。


 手を繋いだままカフェテリアへ。

 この時間に客はいない。

 紅茶を買い、以前使った個室へ入った。


「まず国王陛下の命令でヒナに会いました。私はこの国の基本的な事を、ランディは魔力操作を教えて欲しいと頼まれました」

 ディーンの説明にヒナは頷いた。


「そして、ヒナがこの国から出て行かないように引き留めろと言われました」

 手段は問わないと。


「初めて会った日、ヒナの反応を試しました」

 少し思わせぶりな態度を取ったらなびく女性なのか試したとディーンは説明した後、すみませんでしたと謝罪した。


 あの時イケメンが自分をオススメっておかしいと思った。

 優等生イケメンが手を握って、自分をオススメってアリエナイと。


「あの時、狼族は男性の方が多いのかと聞きましたね」

 ディーンが困った顔で笑う。


 ヒナはあの時、男性が多いのでどんなに残念な子でも女性認定なのかと思ったのだ。

 男女比はほぼ同じと言われ、ディーンは目が悪いのだと思ったが、様子を探られていたのであれば納得だ。


 でもオススメされてその気になってしまったらどうするつもりだったのだろう?

 気が変わったと言われて自然消滅だったのだろうか?

 あれこれ妄想を繰り広げているヒナをディーンは不安そうな顔で見ていた。


 もう2度と会いたくないと言われる可能性だってある。

 それでも伝えるべきだと思った。


 誰とも婚約しないと答えたヒナ。

 それはヒナが自分達を信用していないという事。

 以前、満月の日に「騙されない」と言っていたが、彼女はずっと我々の些細な何かに違和感があったのだろう。


「武官達が怪我をしてランディが途中でいなくなる時、怒らないヒナに驚きました」

「怒る?」

 ヒナが首を傾げると、案内の途中で女性を放置するような男は2度と会いたくないと怒るのが普通ですと言われたヒナは驚いた。


「仕事でしょう?」

 緊急事態だったしとヒナが言うと、妻帯者でも仕事を優先した埋め合わせは大変なのですとディーンは苦笑した。

 ランディが入って行った建物を見ていた事も、自分に行かないのかと言った事も、怪我の手当を嫌がらずにした事も全部驚いたとディーンは言う。


「その時に『理想の女性』だと思いました」

 国王陛下の命令ではなく、ヒナの側に居たいと思ったとディーンが言うと、急な告白にヒナは真っ赤になった。


「そのあとドレスを着たヒナが、前髪と眼鏡がないヒナが可愛いくて」

 ランディとお互い抜け駆けしないように曜日を分けたと説明しながら、照れて口元を隠すディーン。


 な、な、なんの話ですか!

 話が段々変な方になってきたとヒナは焦る。


「街の重鎮ナイトリーの時も驚くばかりで、どんどんヒナに惹かれてしまって」

 今、本気で好きなので最初に騙してでもこの国に引き止めようとした事を無かったことにしてしまったとディーンは手をギュッと握りながらヒナに話した。


「今更、こんな事を言われても信用できないと思うのですが、ヒナを好きな気持ちは本当です」

 ディーンが躊躇いがちにヒナを見ると、ヒナは困った顔で微笑んだ。


「国王命令に逆らえないだろうし、仕事でもすごく親切にしてもらえて有難かったし、優しくて、狼族はみんないい人で……。でも、国のためだからって犠牲にならない方がいいです。3人共もっといい人と結婚した方がいいです」

 こんな喪女では申し訳なさすぎると笑うヒナ。

 ディーンはヒナを見つめ続けた。


「私はヒナが好きです。私ではダメですか?」

 真っ直ぐ見つめるディーンに、ヒナは困った顔で微笑んだ。


「……私、男性とあまり良い思い出がなくて」

 今は考えられないと目を伏せるヒナ。


「私の事は嫌いではないですか?」

 騙していましたけど。とディーンは申し訳なさそうな顔をした。


「嫌いなんてとんでもないです」

 ヒナは全力で両手を横に振る。


「今まで通り側に居てもいいですか?」

「いろいろと教えてください」

 まだまだわからないことがたくさんあるとヒナが焦る。


「では、気に留めてもらえるようにがんばりますね」

 ディーンが茶色の眼で微笑むと、ヒナはえぇぇっ? と驚いた声をあげた。


「とりあえずデートしましょう」

 な、なぜそんな事に?


「土曜のご都合はどうですか?」

「あ、えっと、今週はランディが行きたい店があると……」

「では私は来週の土曜で」

 街の大きな本屋に行きましょうと笑うディーン。

 本屋は行ってみたいが、そんなに頻繁に街へ行かなくても。


「これからは私の意思で口説きますので」

 国王陛下の命令ではありません。とニッコリ微笑むディーン。

 真面目な優等生の発想はよくわからない。

 あの話の流れからなぜこうなってしまうのか。


「では文官に行きましょうか」

 チラッと時計を見たディーンが立ち上がる。


「は、はい」

 ヒナは残っていた紅茶を飲み干した。

 片付けも爽やかにディーンがやってくれる。


 手を繋ぐと、ディーンはヒナの耳元で囁いた。


「ヒナ、好きですよ。早く振り向いてくださいね」

 どうしてこんな事に!


 婚約しないと言ったのに。

 今は考えられないと伝えたのに。

 ヒナは真っ赤な顔のまま文官の建物まで連行された。

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