027.義姉
私の祖父は会社の会長、父は社長だった。
日本なら誰でも商品を1度は目にした事があるくらいのそこそこ有名な会社。
そこの1人娘が私だ。
学校は幼稚園からエスカレーター式の女子校。
初めて好きになったのは父の秘書だった。
15歳くらい年上で、優しい人だと思っていた。
「将来そんなに社長になりたいか?」
「根暗を我慢すれば年商何億だぞ。いい条件じゃないか」
たまたま土曜日に父の忘れ物を届けに行った時だ。
会社のビルの横に作られた喫煙スペースから出てきた彼を偶然見かけてしまった。
当時中学生だった自分にとってはすごくショックだった。
その次は毎日学校へ送迎してくれた運転手さん。
彼の方から好きだと言ってくれたのに、ある日綺麗な彼女がいる事を知って驚いた。
大学はエスカレーターを辞め受験して違う学校へ。
運転手はいらない。
一人暮らしをしてバスで大学へ。
アルバイトをしながら自分の事を知らない場所で普通に暮らしたいと思ったのに。
金欠だからお昼を奢ってというクラスメイト。
数回は学食で一緒に食べたが、自分のアルバイト代もギリギリだったのである日断った。
「金持ちなんだろ? じゃなかったらお前なんかに声かけねぇよ」
どこからか実家がバレていたらしい。
女子校で男性に会う機会も少なくて、ちょっと優しくされたらすぐにその気になってしまう。
そしてこの世界でも。
優しくされて、甘えていた。
聖女だから親切だっただけなのに。
もふもふのアレクサンドロがいつも側にいて暖かかったけれど、今日は布団がひんやり冷たい。
傷つけてしまった。
悲しそうな顔をしていた。
『3人とも本当にヒナが好きだ』
宰相をしているお父様はそう言ったけれど。
信じる勇気がない。
どうして良いかわからない。
ヒナは何度も寝返りを打ち、眠れない夜を過ごした。
「おはよう。朝よ」
カーテンが開けられ、眩しい光が顔に当たる。
「あら、やだ。ひどい顔。眠れなかった?」
クマができているわと笑う美女にヒナは驚いた。
「えっと……おはようございます?」
誰だろう?
ヒナが首を傾げると美女は笑った。
「私はエリス。あなたの義姉よ。ユリウスの妻」
「えっ? お兄様って結婚していたんですか?」
一気に目が覚めたヒナが飛び起きる。
「下着とかワンピースとか選んだのは私。さぁ、買い物に行くわよ!」
エリスは今日のワンピースをヒナに見せる。
今日は綺麗な緑のワンピースだ。
着替えてメイクでクマも隠されたヒナは引きずられるように街へと連れて行かれた。
「ダメよ! そんな地味な色!」
カーテンはこれにしましょうと綺麗なサーモンピンクの花柄を選ぶエリス。
「女の子の部屋よ! 可愛くしないと」
レースのカーテンも選ぶエリスにユリウスは溜息をついた。
「エリス、ヒナの希望も聞いてあげてください」
「ダメよ。この子に選ばせると全部シンプルだもの」
下着も靴もワンピースも可愛いものが選ばれていく。
でも派手ではなくエリスはとてもセンスがいい。
使い回し出来そうな組み合わせや、脱ぎ着が楽なものが多く凄いと思った。
ズボンや寝間着も買ってくれて、ヒナとヒワ用が揃っていく。
「あ、あの、買ってもらいすぎです」
「良いのよ。お父様に許可もらっているから」
「次はキッチン用品で良いですか?」
ユリウスが次の店に案内してくれる。
お皿やコップはもちろん、鍋やお玉も選ばせてくれた。
ゴミ箱、洗濯物を干す紐、洗剤。
なんでも買ってくれる。
「休憩しましょ」
カフェで美味しい紅茶を飲みながら休憩だ。
エリスおすすめの紅茶を頂くと、甘い香りが口にふわっと広がった。
「美味しい」
「でしょ? この商店街だったらここが1番美味しいから! ここに連れて来ない男はセンスがないわ」
ユリウスは連れて来なかったのだろう。
エリスがユリウスを見ると、ユリウスは気まずそうに目を逸らした。
「あ、お兄様。書くものありますか?」
「ペンで良いですか?」
ユリウスは胸ポケットからペンを取り出すとヒナに渡した。
カフェのテーブルにあった紙ナフキンを取るとヒナが何かを書き出す。
エリスとユリウスは不思議そうに覗き込んだ。
『店の入口にいる鳥族はいても大丈夫ですか?』
驚いたユリウスが目を見開く。
「何色が欲しいのですか?」
「黒いのが良いです」
「わかりました。どこで買えるか聞いてきますね」
ユリウスはニッコリ微笑むと店員の元へ向かう。
どう連絡したのかわからないが、黒い鳥はあっさりと捕まった。
鳥の方もまさか捕まるとは思っていなかったのだろう。
飛び立つ様子は全くなかった。
「ねぇ、ヒナはいくつ?」
「20です」
「私は30。ユリウスは34よ」
年齢を言われて驚いた。
2人共もっと若く見える。
「ちなみに、ランディが27でディーンは25。アレク様は22」
年齢的にはアリかしら? とエリスが尋ねるとヒナは困った顔で微笑んだ。
「えっ? もしかして年下好き? それともお父様くらいの方が好き?」
年上だと独身者はクセがあるし、後妻はイヤだし困ったわというエリス。
ヒナは全力で首を横に振った。
「……ここの生活に慣れるので精一杯で」
恋愛はしばらくいらないとヒナが言うと、エリスはマドレーヌをパクリと食べた。
「じゃ、あの3人が対象外ってわけじゃないのね」
もぐもぐと食べながらヒナの様子を見るエリス。
「3人とも優しくてカッコいいので、私なんかじゃなくて、もっと良い人がいると思います」
ヒナは困った顔で微笑んだ。
「私のおすすめはアレク様ね。笑った時の牙が可愛いのよ」
今は恋愛不要というヒナの気持ちも、3人にはもっと他の人が合うという意見も全部無視だ。
「ちょっと無鉄砲でユリウスは大変だけれどね」
まぁ、まだやんちゃな22歳だし?
エリスは肩をすくめた。
もっと気取ったり、偉そうに命令してもいいのに、優しくてみんなから慕われているのは良い所だと褒める。
「甘やかされたいなら絶対ランディね。何もしなくても全部やってくれるわ」
エリスはユリウスの分のマドレーヌに手を伸ばす。
パクリと食べた所でユリウスが戻ってきた。
「ディーンはお堅いからデートの計画まで立てそうね」
変な会話をしていると思ったのだろう。
余計な事は言わないようにとユリウスがエリスを叱った。
「あら、男は聞いたらダメよ。女同士の会話」
ねぇ、ヒナ。と同意を求めるエリス。
お姉様には逆らいません!
ヒナはうんうんと頷いた。




