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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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026.義父

「ユリウス! ヒナは?」

「今日は客室です」

 アレクサンドロの部屋に集まっていたランディ、ディーンもユリウスの言葉を聞き眉間にシワを寄せた。

 ユリウスは3人が外に出た後の事を話し、明日、隣の書庫の改装を行う事を説明した。


「自立したい……?」

 女性は結婚するのが幸せではないのか?

 何不自由ない生活に憧れるものではないのか?


「少し自由にさせてあげましょう」

 仕事は今まで通り。

 ランディやディーンは今までより誘いやすくなるでしょうと微笑んだ。



 宰相に客室へ案内されたヒナは驚いた。

 豪華すぎる。

 アレクサンドロの部屋も豪華だが、もっとキラキラが多い。


「宰相様、あの」

「父だ」

「あ、えっとお父様?」

 疑問系になるヒナを宰相が笑う。


「まずはその窮屈なドレスを脱ぎたいだろうが、今ユリウスが取りに行っているので待って欲しい。先に話をしよう」

 ソファーに座ると、靴も脱いでいいし頭飾りや手袋など自分で取れるものは取って構わないと宰相は微笑んだ。


 お言葉に甘えて、ヒナはまず頭飾りを取った。

 前髪はクセがついて横にあるが半分くらい目が隠れるのでホッとする。

 手袋を取り靴も脱いだ。


「あの、お父様、靴下も……」

「好きにしなさい」

 親子だからいいだろうと宰相が笑う。


「アレク様はこの国にとって大事な人でね、助けてくれて本当にありがとう」

「翌朝には普通に歩いていましたよ?」

 ヒナはくすぐったい靴下を脱ぐと畳んで足元に置いた。


「本人によれば、一生歩けない程の傷だったと」

 確かに血は止まらなさそうだったけれど。

 でも薬を塗ったわけでもなくハンカチを巻いただけだ。


「教えておこう」

 働きたいと、自立したいというヒナは、きっと思っているような令嬢とは違う。

 どちらかといえば成人を迎える頃の息子のような思考だ。


 この子には隠すよりも正直に話すことで信頼を得られるだろう。

 宰相は上着を脱ぐと手帳を広げテーブルに置いた。


「周辺国の名前はわかるか?」

「人族のチェロヴェ国、熊族のミドヴェ国、豹族のレパード国、鳥族のプチィツァ国です」

 宰相は手帳に簡単な地図を書いた。

 それぞれの王都の場所と共に。


「チェロヴェ国からは街を通ったか?」

「草原と森だけ」

「ここは魔力酔いをおこす死の草原。普通の人は入ったら死ぬ」

 草原で倒れたが、なんだか息苦しかった。

 あれは死にそうだったって事?


 宰相は通れない死の草原に斜線を引く。

 山と川の地形も簡単に描くとヒナに尋ねた。


「それぞれの王都からこの国の王都に侵入するにはどこを通る?」

 宰相の質問にヒナはいくつか質問をした。

 川には橋があるのか、森は歩きにくいのか、山の高さはどのくらいか。


「チェロヴェ国からならここを」

「そうだな」

 ヒナは他の国からはここを通るのではないかと宰相へ伝えた。

 宰相は地図に線を描く。


「王都に入る門はココとココの2ヶ所」

 侵入しにくい微妙な位置だ。


「今は熊族はこちらから、豹族はこちらから来る」

「今は?」

「聖女を奪うという目的で周辺国が手を結んだら武官と騎士では防ぎきれない」

 宰相の言葉にヒナは息を呑んだ。


「泳げるか?」

「多少なら」

「もし攻めてくる事があれば、この道を通り海へ」

 獣人は海に入れない、鳥も上を飛ぶ事しかできない、人は船が必要だと説明する。

 全員から逃げるなら海だと宰相は教えた。


「でもここは門がないです」

「入口はないが出口はある」


 狼用の出口のため腰より低い位置にあるが、ヒナのサイズなら通れる。

 そのドッグタグがあれば通れるのでそのタグだけは無くさないようにと宰相は言った。


「1番厄介なのはどの国だと思う?」

「……熊族のミドヴェ国でしょうか?」

 熊族の時はたくさんの武官が怪我をしていた。

 熊の爪が鋭いと言っていたが。


「鳥族のプチィツァ国だ」

「えっ?」

 意外な答えにヒナが驚く。


「彼らが鳥の姿になったら普通のトリと区別がつかない。空から侵入可能、逃げるのも簡単だ」

 情報はいつも鳥族から漏れると宰相は言った。


「アレクサンドロ王太子殿下の婚約者と公表すれば簡単に連れ去る事ができないと考えたのだが、すまなかった」

 宰相が頭を下げるとヒナは困った顔をした。


「ランディでもディーンでも構わないのは、他国が手を出しにくい相手だからですね」

「そうだ」

 ハッキリ本当の事を言ってくれる宰相にヒナは微笑んだ。

 隠されるよりも、嘘を言われるよりも、ハッキリ言ってもらった方が気が楽だ。


「他国へ行かないように引き止めろというのが国王命令だったが、実は3人とも本当にヒナが好きだ」

 あぁ、私がバラしたと言うなよ。と宰相は笑った。


 アレクサンドロは森で会ってからずっとあの暖かい魔力にもう一度触れたいと言い、側を離れようとしない。

 紫のドレスを着た日からは番になりたい、結婚したいと国王へ相談に来たと笑う。

 ランディは初めて魔力操作の練習をした日に本気で口説いてもいいのかと相談に来た。

 ディーンは熊族との攻防の日、あんな理想の女性がいるなんてと親に話したそうだ。


「だから聖女を利用しようとしたのは国王と私。彼ら3人はキッカケはどうあれ、ヒナを思っていろいろ動いていた。そこだけは誤解しないでやってくれ」


 長い時間一緒に居られるようにランディとディーンが自分のところで働かせるように手配したり、ライバルが増えないように騎士選びをユリウスに辞めさせたのだと笑う。


 そういえば騎士を選ぶと言っていたのに選んでいない。

 選ぶのを辞めたなんて知らなかった。

 ノックの音が響きユリウスが寝間着と眼鏡をヒナの隣に置いた。


「チェロヴェ国が探しているのは前髪が長く黒髪を後ろで1つに縛った眼鏡の人物」

 宰相が置かれた眼鏡を確認する。

 ヒナは頷きながら眼鏡を手に取った。


「そして令嬢の姿」

 宰相がヒナの白いドレスを指差した。


「この2つの姿で敵を欺きたい」

 宰相はアレクサンドロの部屋の間取りと、改装する予定の部屋の図を描いた。


「眼鏡にズボン姿は今まで通りアレクサンドロ王太子殿下の扉を。令嬢の姿は新しいこちらの扉を」

 武官と文官に働きに行くときは今まで通り前髪で目を隠し、眼鏡にズボンの姿で。

 街へ買い物に行くときは令嬢の姿で。

 そして王宮内はどちらの姿も適度に出没してほしいと宰相は言う。


「2人は別人だと見せかけるのですね」

 別人であれば街は自由に歩く事が出来る。


「双子という設定でドッグタグは作ってある。そちらがHINA(ヒナ)、そしてこれがHIWA(ヒワ)だ」

 宰相はさきほど横に置いた上着のポケットからドッグタグを取り出すと、ヒナに見せ、すぐに元のポケットにしまった。


「武官と文官で働いているのはヒワの方なのですね」

「そうだ」

 2つの姿にすると、自分は相手を知っているが相手は自分のもう一つの姿を知らない。

 大変だが少しでも危険から遠ざけるためだと言う宰相に、ヒナは頷いた。


「いろいろとご配慮ありがとうございます」

 ヒナは深々と頭を下げた。


「明日は令嬢の姿でユリウスと出かけなさい」

 まずは欲しい物を何でも買ってもらうといい。

 服でも家具でも。


「でも街は3人と……」

 アレクサンドロかランディかディーンと行くようにと国王陛下は言っていたはずなのに。


「家族で出かける事に何か問題が?」

 宰相はニヤッと笑うと手帳を閉じた。

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