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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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024.謁見

 絶対おかしい。

 明らかにこのキラキラの廊下に自分がいるのはおかしい。


 目の前にはものすごく大きな扉がある。

 あれは絶対に入ってはいけない扉だと思う。

 段々ガクガクしてくる足。

 不安になったヒナはもう1度アレクサンドロを見上げた。


「疲れた?」

 ちょっと遠いよねと笑うアレクサンドロ。


 いやいや、そういうことではありません。

 不安になったヒナは振り返ってユリウスを見た。


「あの扉なので、もうすぐですよ」

 ニッコリ笑うユリウス。


 騎士がお辞儀をし、扉を左右に開いてくれる。

 ランディとディーンは左右の扉の前に立つと、お辞儀をしてアレクサンドロとヒナを先に通した。


 えっ?

 何でランディがいなくなるの?

 お辞儀をしたランディとは目が合わない。

 何で? 何で?

 ほとんど見えていなかった真正面が一気に見えるようになり、豪華すぎる部屋にヒナは戸惑った。

 

 小学校体育館の半分は絶対にある広さの部屋は、赤い絨毯がまっすぐに続く。

 キラキラのシャンデリア。

 豪華な装飾品。

 真正面には椅子が1つ。


 あれ漫画だったら絶対に王様の椅子!


 慌てて後ろを振り向くと、ユリウスはいない。

 扉も締められている。

 ランディとディーンもいない。

 キョロキョロ見回すと、ユリウスが部屋の端っこの方を歩いている姿が見えた。


「ア、ア、アレク、ここ、何? 何? どうなるの?」

 頼れるのはもう右手を握ってくれているアレクサンドロしかいない。

 ヒナは顔面蒼白になりながらアレクサンドロに助けを求めた。


「大丈夫、恐くないよ」

 自分の父よりユリウスの父の方が怖いというアレクサンドロ。


 そうじゃなくて~。

 ヒナの心の叫びはアレクサンドロには全く伝わらなかった。


 部屋の微妙な位置でアレクサンドロは立ち止まる。

 ヒナが周りを伺っていると、ユリウスがようやく前の舞台っぽいところまで到着した。

 そのまま扉へ入って行ってしまうユリウス。

 ヒナの手が震えている事に気が付いたアレクサンドロは、つないだ手を左手から右手に持ち替え、左手をヒナの腰に添えた。


「大丈夫だよ」

 ヒナの顔を覗き込み、グレーの眼で優しく微笑むアレクサンドロ。


 全然大丈夫じゃありません!

 手だけでなく全身震えてきそうなヒナは立っているのがやっとだった。


 舞台の横から黒の正装をしたおじさまが入ってくる。

 髪の色はユリウスにそっくりだ。

 あの人がユリウスのお父さんなのかもしれない。

 王様の椅子っぽい所で何かを確認すると、すぐにもう1人、ふさふさの服を着たおじさまが登場した。


 絶対王様じゃん!


 王様、陛下、豪華な部屋、王宮、お辞儀する騎士、王子。

 一気にいろいろな単語がヒナの頭をグルグルする。

 よろけたヒナをアレクサンドロが支え、大丈夫だと囁いた。


 全然大丈夫じゃありません!


 ふさふさ服の国王陛下が椅子に座る。

 アレクサンドロがお辞儀してと囁いたので、ヒナはアレクサンドロに合わせて頭を下げた。


「ようこそ我が国へ。聖女殿」


 声はアレクサンドロよりも低く、怖そう。

 しかも意味のわからない事を言った。


 この部屋に聖女がいるのだろうか?

 聖女のイメージは白い服の美女だ。

 ヒナは部屋を見回したが特に誰もいなかった。

 キョロキョロするヒナを見たアレクサンドロが笑いを堪える。


「ヒナの事ね」

 ヒナが聖女だからというアレクサンドロに、ヒナは首をブンブンと横に振った。


 聖女って言うのは、白い服が似合う絶世の美女で、優しくて品のあるお姉様しか許されないから!


「まずはチェロヴェ国で私の息子アレクサンドロを救ってくれた事の礼を言いたい」

 1人息子の無謀な行動により命が危なかったが、聖女のおかげで無事に生還できたと言う国王陛下。


 アレクの怪我ってそんなにひどかったのかな?

 命の危機?

 翌朝には普通に歩いていたのに。

 ヒナは首を傾げた。


「次に、熊族ミドヴェ国との攻防、そして豹族レパード国との攻防、どちらも聖女殿のおかげで多くの武官達が救われた。こちらも感謝している」


 包帯を巻いただけでそんな大げさな!

 豹族と争って怪我をしたジョシュさんはガーゼを押さえていただけで結局包帯は巻いてあげられなかった。

 全然役に立っていないのに!


「……聖女じゃないと思ってる?」

 グレーの眼で覗き込むアレクサンドロに、ヒナはうんうんと頷いた。


 ユリウスの父、この国の宰相がスッと手を上げると、後の扉からランディとディーン、そして狼の姿になったジョシュが入室する。

 2人と1匹は赤い絨毯ではない所に立ち、お辞儀をした。


「では、まずランディ。報告を」

 宰相の合図でランディがヒナの魔力量について報告をする。

 まだ制御はできない事、魔力を放出すると意識を失ってしまう事、ヒナが治療した者達の怪我の回復力について説明し、狼のジョシュをヒナから見える場所へ移動させた。


「えっ?」

 ジョシュの無くなったはずの左耳を見たヒナは驚いた。

 右も左も三角の耳がピンと立っている。


「豹族に噛み千切られた左耳を再生し、顔や足にあった無数の傷も回復させたあと彼女は意識を失いました。顔や足の傷は、回復の瞬間を武官数名が見ておりますので間違いありません」

 ランディは説明を終えるとヒナの方を向き、グレーの眼で微笑んだ。

 前に出ていたジョシュはヒナを見ると小さく頭を下げて横へ戻る。


「では、ディーン」

「はい。彼女はチェロヴェ国から国境を越えてきましたが、それ以前の記録はチェロヴェ国にもありませんでした。6月24日の満月の夜にチェロヴェ国で聖女召喚の儀を行ったという情報を得ております」

 召喚されたのは3名。

 女性が2人に小柄な男性が1名。

 男性はチェロヴェ国で行方不明、前髪が長く、後で1つに縛った黒い眼鏡の小柄な男性。

 実際には男性ではなく女性でしたが。とディーンはヒナを見た。


 私、チェロヴェ国では男だと思われていたの?

 だから外にポイって?


 初めて知る事実にヒナが驚く。


「聖女召喚の儀で現れ、治癒能力を使用できる彼女は聖女で間違いないと思っております」

 ディーンが報告を終え頭を下げると、国王陛下も宰相も頷いた。

 宰相が手を上げると、狼のジョシュだけが退室していく。

 爪のチャカチャカという音だけが部屋に響いた。


「さて、聖女殿」

 国王陛下に呼ばれたヒナはビクッと肩を揺らした。


「このまま我が国にずっと居て頂きたいのだが、少々周りがうるさくなってきてしまった」

 先日の中央公園での出来事で。という国王陛下の言葉を宰相が補足し、あの日、半径50m程度の植物に影響があったこと、半径2km圏内の人の病気や怪我が治ったことをヒナに説明した。

 ヒナの手を握るアレクサンドロの右手に少し力が入る。


「我が国としては聖女にいてほしい。だが、他国から狙われはじめてしまった。貴殿を守るためにも婚姻を結びたい」

 もともと理解を超えた話をされていたが、急に全くつながらない話になりヒナの頭は完全停止した。


 コンイン?

 ヒナはただ呆然と立ち尽くす事しかできなかった。

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