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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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022.自由

『鳥族のプチィツァ国、熊族のミドヴェ国、豹族のレパード国、そして人族のチェロヴェ国からの入国者が増えた』


 宰相は報告書を見ながら眉間にシワを寄せた。


 入国者の目的はおそらく聖女。

 先日の中央公園の出来事の確認だ。


 現在、中央公園は立ち入り禁止。

 公園の工事中という事にしている。

 実際に花壇の花を植え替えたり、公園内の道を本当に変更しているので怪しまれる事はないだろう。


 中央公園近くの商店街は大賑わいだそうだ。

 経済が活気付くのは良いが、聖女は守りたい。


 そろそろ次の手が必要か。

 宰相は書類を机に置くとユリウスを呼びに行かせた。



「また倒れたのか」

 アレクサンドロはランディに抱えられたヒナを見て溜息をついた。


 ヒナのシングルベッドに運ぼうとするランディを引き止め、自分のキングサイズのベッドへ置くように言うと、ランディは嫌そうな顔をした。


「どうしてアレクと寝る必要があるのかな?」

 ヒナのベッドがあるのだからそこでいいじゃないかとランディは言う。


「ここの方が寝心地がいい」

「普段寝ている方が慣れていて良いのではないかな?」

 変な理屈を言うアレクサンドロとランディの睨み合いが続く。


「ランディ、こちらへ。ここの方が万が一の時に医師が来れます」

 奥の部屋は将来の妃殿下の部屋。

 医師にはバレたくないのだと、溜息をつきながらユリウスがキングサイズのベッドへと指示すると、ランディは渋々ヒナをベッドに置いた。


「ジョシュが豹に左耳を食いちぎられて」

 ランディが状況を説明するとアレクサンドロもユリウスも目を伏せた。


 かなりひどい状況だったようだ。

 最近、熊族のミドヴェ国や豹族のレパード国からの入国者が増え、争いも増えていると騎士から報告が上がっていた。

 武官達も大変なようだ。


「ヒナがジョシュの止血を」

「そうか」

 血がなかなか止まらず困っただろう。

 アレクサンドロはヒナのおでこをそっと撫でた。


「ヒナは狼の、耳の後ろが好きで」

 ランディらしくない意味のわからない説明になり、アレクサンドロとユリウスが「は?」と顔を見合わる。


「泣きながら魔力を使い、ジョシュの耳は元通りに」

 本当に驚いたと言うランディに、アレクサンドロとユリウスは呆気に取られた。


「元通り?」

 ユリウスが首を傾げると、ランディは左手で三角の耳を表現し、元通りと呟く。


「食いちぎられた?」

「なくなった耳が元通りに」

 アレクサンドロが確認するとランディは苦笑しながら答えた。


 アレクサンドロはヒナの顔を勢いよく見る。

 まるで寝ているかのような顔。


 ユリウスは自分の額を押さえながら溜息をついた。


「ユリウス様、お見えですか? 宰相がお呼びです」

 呼びにきた騎士に返事をしたユリウスはアレクサンドロに行ってきますと言い、部屋から出て行く。

 ランディもジョシュの様子を見てくると退室して行った。


 アレクサンドロはヒナの横に寝転び、ヒナの手を握った。

 少し指先が冷たい気がする。


 やっぱり武官で働かせない方が良いのではないか。

 一生の傷を治せるのは凄いが、倒れてしまうようではヒナが心配だ。


 アレクサンドロは眠るヒナの顔を見ながら溜息をついた。



 翌朝ヒナは目覚めたが、ユリウスの指示で文官の仕事は休みになった。


「ごめんなさいディーン」

「大丈夫ですよ。急ぎの仕事はありません」

 しゅんとするヒナの頭を優しく撫でると、ディーンは茶色の眼を細めて微笑んだ。


「ところで、なぜアレク様のベッドなのです?」

 ディーンもアレクに文句を言うと、アレクサンドロは「このベッドの方が寝心地が良い」と言い訳をする。

 ディーンは困った顔でヒナに微笑むと、仕事へと向かって行った。


 ジョシュの耳は綺麗に元通り。

 耳も顔も足も全く怪我の痕跡はなくジョシュ本人が1番驚いていたと、ランディはユリウスに報告した。


「そろそろヒナに治癒能力の事を告げた方が良いと宰相に言われました」

 昨日ユリウスが呼び出されたのは、治癒能力の件と、ヒナを守る件の2つの案件についてだ。


「他国が狙っています。まだバレてはいませんが、先手を打ちたいと」

 宰相がそう言うのもわかる。

 奪われてからでは遅いのだ。


「宰相は何と?」

 ランディが尋ねると、ユリウスは困った顔で微笑んだ。


    ◇


「もう魔力の練習をしなくて良いの?」

 チェロヴェ国の客室で第1王子に言われたキョウカはなぜ? と首を傾げた。


「メイができるようになったの?」

「いや、2人とも同じくらいだって聞いているよ」

 第1王子クロードが同席していた魔術師団長に微笑むと、魔術師団長は頷いた。


「ではなぜ?」

 キョウカが美しい顔の眉間にシワを寄せると、第1王子クロードは微笑んだ。


「ずっと練習、練習と言われて、ストレスを感じているのだろうと。もっと自由に過ごしてもらおうという事になったんだ」

 今まですまなかったねと第1王子が言うと、キョウカは驚いた顔をした。


 そんな理由だとは思いもよらなかった。

 才能がないからもういいやと言われるか、メイができるようになったからもういいと言われるのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「それでこれからはどう過ごせばいいの?」

「今まで通りこの部屋で自由に過ごしてもらっても良いし、もし街に住んでみたいのなら手配するけれど」

 どっちが良いだろうかと第1王子クロードが言うと、キョウカは少し考えだした。


 ここの生活は退屈。

 ドレスも疲れる。


 街ならもっと気軽な服も着られるのだろうか?

 好きな時に好きな物も食べる事ができるだろうか?

 生活は保障されるのだろうか?


「もし街と言ったら、生活は……」

「もちろん住むところも、生活に必要なお金も準備する。当然でしょ? 大事な聖女なのだから」

 第1王子クロードがにっこり微笑むと、キョウカは納得したようだった。


 キョウカは新しいドレス、新しい宝石、新しい靴と、浪費が激しい。

 食事もあれはイヤだ、これはイヤだと何度も作り直し。

 街であればどんなに贅沢な暮らしをしても、ここでかかる費用の十分の一で済むだろう。


 どうせ聖女ではない。


 このあと治癒能力に目覚める可能性は低いだろうというのが魔術師団長の見解だ。

 街で生活し、万が一、何かあったとしても王宮は困らない。


「住むところは選べるの?」

「もちろん」

「他に条件は?」

「聖女だから、国外に出る時だけは相談してほしいし、その、申し訳ないのだけれど治癒能力に目覚めたときにはすぐに教えてほしい」

 勝手なお願いで申し訳ないのだけれど。と第1王子クロードが目を伏せる。


「街にするわ」

 キョウカがニッコリと微笑むと、第1王子クロードも優しく微笑んだ。

 

「わかった。会えなくなるのはツラいけれど、キョウカが楽しく暮らせた方が嬉しいから我慢するよ」

 第1王子クロードはキョウカの手を取り、手の甲に口づけを落とした。


 日程が決まったら連絡すると言い、キョウカの部屋を出る。

 第1王子クロードは口の端を上げて微笑むと、廊下をゆっくりと歩いて行った。

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