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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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021.三角耳

 9月になると子供のオオカミ達はだいぶ大きくなり、成長の早い子からだんだん大人のオオカミの厩舎へ移動していった。


「ちょっと寂しい」

 ヒナがまだ子供の厩舎にいてくれるオオカミ達をブラッシングしながら呟くと、一緒にブラッシングしていた武官のリッキーは微笑んだ。


「また10月に産まれるよ」

 もうお腹の大きいオオカミがいるからねと教えてくれる。


「えっ! じゃぁもっとちっちゃい頃からお世話できるって事?」

 産まれたばかりのオオカミはどんな感じだろう?

 子犬のようにヨチヨチ歩きは見れるだろうか?

 嬉しそうなヒナ。


 人族なのにオオカミが平気な事も驚いたが、楽しそうに世話をするひーくんは可愛い。

 武官の間では密かにアイドル的存在だ。

 ランディが怖いのでみんな口には出さないけれど。


「ねぇ、ひーくん。眼鏡やめちゃえば? 見えるでしょ?」

「う、うん、見えるけど」

「ちっちゃいオオカミは眼鏡があるとお世話の邪魔かもよ?」

 もちろん嘘だが。

 リッキーが耳の後ろをワシワシすると、オオカミが気持ちよさそうに尻尾を振る。


「結構さー、顔を近づけるもんね」

 別に近づけなくてもいいけれど。

 緑眼のライルも眼鏡を辞めさせようとリッキーを援護する。

 絶対に眼鏡がない方が可愛いからだ。


「そっかー」

 ちっちゃいオオカミを眼鏡で傷つけたら可哀想だもんねと独り言をいうヒナ。

 リッキーとライルは顔を見合わせてニヤリと笑った。


「5D5H! あとひーくん!」

 第5棟D室に5人ヘルプの合図。


「ひーくん、すぐ行って! ライルも! ここはやっておくから」

「はっ、はい!」

 緑眼のライルと一緒にオオカミ厩舎から第5棟へ移動し、D室へ駆け込んだ。


「ひーくん、こっち!」

 ヒナは急いで手を洗い、怪我人の方へ。

 1番奥のひどい怪我をしている狼はジョシュだ。


「ジョシュさん!」

 耳が片方無くなっているし、顔もひどい怪我だ。


「豹にやられたんだ」

 腕を手当てしてもらった茶眼のノックスが豹3匹が王都に入ろうとしていたと教えてくれる。

 

「中央公園へ行くって申請書を書いていた」

 申請が許可されれば王都へ入る事は可能。

 実際に人族なのにヒナは王都にいる。

 狼族ではない人が商店街で働いている事も普通にあるのだ。


「中央公園はダメだと断ったら暴れて」

 無理矢理入ろうとした彼らと揉めたのだとノックスは説明した。


 熊族じゃなくて豹族?

 睨み合いが続いていると以前アレクサンドロとユリウスが教えてくれたが、耳まで噛みちぎるなんて酷すぎる。


「止血はできる?」

 白衣に赤の腕章をした医局のロイドがヒナに尋ねる。


 止血をする際の基本は圧迫だと本で読んだ。

 清潔なガーゼやハンカチ、タオルを傷口に当て3~5分程度しっかり圧迫すると書いてあったはずだ。


「やってみます」

 ヒナは大きめのガーゼを持つと、ジョシュの隣に座った。


「ジョシュさん、今から耳を押さえます」

 ジョシュと目が合ったのでわかったという事なのだろう。


 ヒナはそっとガーゼを乗せた。


「ガウッ」

「痛いですよね、ごめんなさい」

 ガーゼにすぐ血が滲む。

 ヒナはガーゼを重ねると上から手で押さえた。


 早く血が止まりますように。

 左手でガーゼを押さえ、右手で頭の上を優しく撫でるとジョシュの険しい顔が少し和らいだ気がした。


「5分押さえていて。他の子を治療したら戻ってくるから」

「はい、ロイド先生」

 白衣のロイドは他の怪我人の様子を見に軽症者の方へ。


 ヒナは緑眼のライルにタオルを濡らしてもらうと、血で汚れたジョシュの顔を少し拭いてもらった。


 目の近くも引っ掻き傷だらけだ。

 豹の牙だろうか爪だろうか。


 耳がなくなってしまうなんて。


『争わずに平和に暮らしたいのにね。この国にも結界があれば熊族や豹族に襲われないのにね』

 以前、アレクサンドロが言っていたが、こんなに頻繁に襲われるなんて思っていなかった。


 動物の世界は縄張り争いが普通なのだろうか?


 それでも人の姿だったらここまでひどい怪我にはならないだろう。

 どうして狼や熊、豹の姿で戦うのだろう?


「グゥ」

 痛かったのだろうか、ジョシュが小さく唸った。


「あぁ、ジョシュごめん」

 目の下の少し深い傷をタオルで押さえたライルがジョシュに謝る。


「交代しようか?」

 5分も押さえるのは大変だろうとランディが優しくヒナに声をかけると、ヒナは首を横に振った。


「治ってほしいです。耳が元通りに」

 耳がないなんて。とヒナが泣きそうになる。

 ランディはヒナの頭をそっと撫でた。


「三角の耳、好きなんです」

 耳が戻ってほしい。


「そういえば、尖った三角耳の後ろを触るのが好きだったね」

 以前、そう言っていたねとランディが切なそうに笑う。


 ヒナは頷くとジョシュを見た。

 大きいガーゼで見えないがここにはもう耳がないのだ。


 嫌だ。

 耳がないなんて嫌だ。

 ヒナの目から涙が流れ、ズボンに落ちた。


 ヒナから暖かい魔力が溢れ出す。

 甘く優しいオレンジの光。


 ランディはヒナの頭から手を離し、ヒナの様子を観察した。

 倒れるかもしれないのですぐに支えられるように腕を準備する。


「嘘……」

 ジョシュの顔の傷が消えていく様子に緑眼のライルが目を見開いた。


「マジ?」

「嘘だろ?」

 ジョシュの足の傷も、目の下の少し深い傷も、どんどん塞がっていく様子に茶眼のノックスも他の武官達も驚いた。


 魔力の光が消えると同時にヒナが後ろへ倒れる。

 受け止めたランディは気を失ったヒナを見て溜息をついた。


「騒いでいたが何かあったか?」

 白衣のロイドが戻り、倒れたヒナを見て驚く。


「大丈夫か? やっぱり重傷者を見せるのは早かったか?」

 初心者にこんな傷は刺激が強かったかと焦るロイド。


「あとは任せていいかな?」

 ランディがヒナを抱え上げると、ロイドは当たり前だとヒナが座っていた場所へ入った。


 5分経ったのでそっとガーゼを外してみる。


「……は?」

 白衣のロイドも緑眼のライルも、周りの武官達も息を呑んだ。


「耳……」

 信じられないと茶眼のノックスが目を見開く。


 噛みちぎられて無くなったはずの耳が戻っている。

 血はベッタリとついているのに傷がない。


「全員、誰にも言わないように」

 ランディは大きく息を吐くと、ヒナを大切そうに抱えてD室から出ていった。

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