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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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018.街

 今日はドレスではないだけ前回よりマシなのかもしれない。

 でも、どう頑張ってもこんなに清楚な水色のワンピースは似合うわけがない。

 こういう可愛いワンピースは、ふわふわのお嬢様が着るべきで、私のような喪女が着ていい物ではないんですと世界中に叫びたい気分だ。


「着替えを手伝おうか?」

 真面目な顔で冗談を言うアレクサンドロに、ヒナは全力で首を横に振る。

 アレクサンドロはユリウスに叱られながら、隣の部屋に行った。


 またこのコルセットのお世話に?

 くすぐったい靴下も苦手だ。

 たとえ3cmでもヒールは苦手。

 眼鏡も没収。

 前髪も止められてしまった。

 サラサラの生地で着心地の良いワンピースのサイズがピッタリなのはなぜ?


「お美しいです」

「お嬢様は肌が白いので何色でもお似合いですね」

 お世辞もありがとうございます!

 そんなに頑張って励まさなくても大丈夫です!


「ありがとうございます」

 ヒナが微笑むと侍女三人も嬉しそうに微笑んでくれた。


「ヒナ、準備できた?」

「はい、アレク様」

 ふわっと揺れるスカート。

 真っ黒で艶やかな髪。

 眼鏡ナシ、前髪も止め、大きな黒い眼がしっかりと見えたヒナにアレクサンドロは見惚れる。


「俺のことはアレクって呼んで」

「私のことは兄と」

 なぜかユリウスまで変なことを言い出し、ヒナは思わず笑った。


「便乗するな」

「ヒナさんはイーストウッド家です」

 あぁ、親戚のお兄ちゃんってことね。


「わかりました。お兄様。私のこともヒナと呼んでください」

「はい。ヒナ」

 あっさりお兄様と呼んだヒナをアレクサンドロは見つめる。

 さぁ、早くアレクと呼べ! と期待しているかのような目だ。


「ア……アレク?」

 狼の耳があったら、嬉しそうにピーンとなっていそうなアレクサンドロ。

 こういうところはすごく可愛いと思う。

 普段はイケメンすぎるけれど。


 さぁ街へ行こう! とご機嫌なアレクサンドロに手を繋がれながら、ヒナは豪華な廊下を進んだ。


「今日はお忍びなので、護衛は少ないです」

「わかった」

「もちろんアレは所持していません」

「そうか」

 二人の会話はとても不思議だ。

 ユリウスは補佐だと言っていたが、まるで主従関係みたいだ。

 ユリウスの方が年上なのに。


 今日のアレクサンドロはいつもよりもキラキラが少ない服。

 武官のみんなが着ているようなラフな服だ。


 もう少しボタンを外したらチャラい大学生になれるかもしれない。

 髪はメッシュでオシャレだし、顔はもちろんイケメン。

 スポーツならバスケが似合いそうだ。

 大学に行ったらモテるのだろうな。


 前回立ち止まってしまった階段に差し掛かったヒナの身体は無意識にビクッと動いた。

 ここはたくさんの騎士がお辞儀をしていた階段。


 よかった。

 今日は三人しかいないし、剣も持っていないみたいだ。

 馬車に乗るのは初めてで不安だったけれど、アレクサンドロとユリウスが一緒だから大丈夫。

 観覧車の椅子みたいな固い椅子と振動でおしりは痛いけれど。 


「……すごい」

 漫画で見るような中世ヨーロッパの街並みにヒナは目を輝かせた。

 森で見たお城と、裾野に広がる街!

 やっぱり追い出されたグレーのお城とは全然違う。


「きれい……」

 道路は石畳。

 オレンジの屋根、黄色の壁。

 カラフルだが派手すぎない街並み。


 広場の横に止まった馬車からヒナはアレクサンドロの手を借りてゆっくりと降りた。

 

 たくさんの店、たくさんの人、たくさんのオオカミ。

 キョロキョロしてその場から動きそうにないヒナの手をギュッと握ると、アレクサンドロはそろそろ俺を見てと囁く。


「んなっ!」

 急に変なことを言わないで!

 イケメンの囁きは心臓に悪い。

 バクバクする心臓が飛び出さないように必死で抑えると、ヒナはアレクサンドロを見上げた。


「アレク様、連れてきてくれてありがとうございます」

 その微笑みに今度はアレクサンドロが悩殺される。


「アレクでしょ」

 ヒナの微笑みでバクバクする心臓を押さえながら、アレクサンドロはヒナの耳元で再び囁いた。

 ついでにお仕置きだと耳をペロッと舐める。


「ふひゃっ!」

「ははっ、変な声」

「んもう、いたずら禁止!」

 街へ着いただけでイチャイチャなカップルを見ながら、ユリウスは手際よく護衛を配置した。


 ヒナからは気にならない位置で。

 でもいざという時に間に合わなくては困る。

 今日は私服で街へ溶け込む騎士と、狼の姿で護衛する武官の両方を手配した。


「適当に歩いて、気になった店に入る、でいい?」

 アレクサンドロがグレーの眼を細めて微笑むと、ヒナはうれしそうに「はい」と答えた。


「あっ、アレク様だ」

 小さい子がアレクサンドロの名前を呼び、親がペコペコする。


「アレク様よ!」

「隣の子は誰?」

 黄色い声も飛び交い、当然ながらお姉様たちの視線が刺さる。


 すみません。

 庶民がイケメンの隣を歩いて申し訳ないです。

 つながれた手が熱い。

 ふと隣を見上げると、濃いグレーと薄いグレーのメッシュの髪がよく似合うイケメンの横顔が眩しかった。


「ヒナはどんな物が好き?」

 キラキラなバッグの店の前でアレクサンドロが立ち止まり、ヒナに見せる。


「ポケットとか機能性重視です」

 ヒナは店の片隅に追いやられた飾りのないシンプルなバッグを指差した。


「そうか。俺もそっちの方が好きだ」

 見た目だけ派手でも中身が良くなければ使えないとアレクサンドロが笑う。


 バッグのことを言っているかのような会話だが、おそらく見た目だけ良い貴族をアレクサンドロは皮肉っているのだろう。

 最近は礼儀知らずなご子息・令嬢が多い。

 やたらと馴れ馴れしかったり、媚びを売ってきたり。

 中身が良くないと……ね。

 ユリウスは二人の会話を聞きながら苦笑した。


「アレク、あれは?」

「オオカミの尻尾用のリボンを売る店だ」

「えぇ? なにそれ」

 活気あふれる街には多くの人々。

 でもコンクリートで囲まれた都会とは違い、みんなあまり急いでいない。

 オオカミが普通に歩き回る穏やかで、平和そうな街だ。


 店に並べられているものはきっと手作り。

 ひとつひとつの形が違って味がある。

 職人さんになるのも良いよね。

 住み込みで修行をさせてくれたら最高。


 美味しそうなパンの匂いもする。

 服、雑貨、食べ物。


「いい街ですね」

 雰囲気が素敵だとヒナが言うと、アレクサンドロは嬉しそうに笑った。


「あれはなんですか?」

 広場の周りにお祭りの屋台のような店がいくつも並んでいるけれど、イベントの日?


「あれはまだ店を持つことができない人たちのための貸店舗です。あそこで開店資金をためて、いつか自分の店を出すんですよ」

「へぇ~」

「あの店はパンケーキを売っているようです」

 最近流行っているのですよとユリウスが説明するとヒナはアレクサンドロを見上げた。


「食べたいのか?」

 アレクサンドロが尋ねると、あざとい角度のヒナが頷く。


「ユリウス」

「少々お待ちください」

 ユリウスが店に向かって歩き出すと、前後にスッと別の客が並んだ。

 ユリウスの前に買った人は食べながら歩いて行く。

 買い終わったユリウスと次の客はなぜか商品を交換し、さらに別のお皿に移し替えた。


 なにをしているのだろう?

 ヒナはジッとユリウスの行動を観察する。


 お皿は銀食器?

 毒がないか?

 あぁ、商品を交換したのもそのため?

 もしかしてユリウスの前に並んで食べた人も関係者?

 毒見係だったのかな。


「どうした?」

 普段キョロキョロしているヒナがジッとユリウスを見ている姿が面白くなかったアレクサンドロは、ヒナの顔を覗き込んだ。


「ほわぁ!」

 イケメンの顔を急に近くに寄せるのは反則です!

 驚いたヒナは思わず変な声を出す。


「ははっ、また変な声だ」

「お待たせしました」

 ユリウスは買ったばかりのパンケーキの端を少し切ると、当然のように自分の口に入れた。


「甘いです」

 真面目な顔で味を伝えるユリウス。

 似合わなさ過ぎてヒナは思わず吹き出した。


 そのままユリウスがパンケーキを切り分け、アレクサンドロに手渡す。


「はい、あーん」

 ヒナの前に差し出しながらアレクサンドロがニヤッと笑う。


「えっ、自分で」

「あーん」

 引きそうにないアレクサンドロに負けたヒナは真っ赤な顔で口を開けた。


 恥ずかしすぎて味がわからない!

 ヒナの唇についたシロップをアレクサンドロは親指で拭うとペロリと舐める。


 何そのチャラ男の行動!

 焦ったヒナから甘い魔力がブワッと出ると、アレクサンドロは嬉しそうに笑った。

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