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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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012.身分証

「ま、ま、待って! ユリウス様! 待って!」

 焦ったヒナの声でユリウスが戻る。


「……合意の上でないとダメですよ」

 ニッコリ微笑むユリウスの言葉に、アレクサンドロは舌打ちした。


 離したくなさそうなアレクサンドロをユリウスがじっと見る。

 はぁと溜息をつくと、アレクサンドロはようやくヒナを解放した。


 急いで前髪を戻し、真っ赤な顔でアレクサンドロから離れるヒナ。

 ベッドから慌てて降りると眼鏡を取ってバスルームに逃げた。


「今日からベッドを分けますね」

 いくら昨日のドレス姿がストライクゾーンだったからといって今日襲っているとは予想外だった。

 昨日の執着もすごかったが、まさかこれほどとは。

 昨日部屋を用意しておいてよかった。


「なんで!」

 慌てて起き上がるアレクサンドロ。


「ダメですよ。ヒナさんが安心して眠れません」

 ニッコリ微笑むユリウスに、アレクサンドロはグルグルと喉を鳴らしながら抗議した。


「ユリウス、昨日の原因は剣だ」

 チェロヴェ国で剣を突きつけられたことを思い出したのだと、アレクサンドロはユリウスに伝える。


「泣きそうだったから慰めただけだ」

「はい」

「襲っていない」

「はい」

「だからベッドは一緒でいい」

「ダメです」

 ユリウスのあっさりした回答にぐぬぬとアレクサンドロが唸る。


(つがい)になりたい」

「頑張ってください」

 街へは行けなかったが、本来の目標は達成出来たようだ。

 ユリウスは嬉しそうに微笑んだ。


 着替え終わったヒナは少し気まずそうにバスルームから出る。


「ヒナさん、これから毎週月曜と木曜にランディと魔力の練習、火曜と金曜にディーンと勉強に決まりました。今日は木曜なのでランディが来ます」

「ありがとうございます」

 そんなにたくさん時間を取ってもらえるんだ。

 早くいろいろできるようにならないと。


「今日は先日の武官たちの所へ連れて行きたいと言っていました」

「ダメだ!」

「……ダメですか?」

 シュンと寂しそうな表情をするヒナ。

 もう前髪があっても眼鏡があっても、アレクサンドロにはあの大きな黒い眼が思い浮かぶ。

 表情が見えなくても想像できるほどに。


「大丈夫ですよ。行ってきてください」

「ユリウス!」

 ニッコリ微笑むユリウスにアレクサンドロは嫌そうな顔をした。


「どうしてダメですか?」

 本人に自覚はないだろうが、あざとい角度でアレクサンドロを見上げるヒナ。


「男ばかりだ」

 変な理由を言うアレクサンドロをヒナは笑った。


「図書室で受付のお姉さんに『ボク』って言われました」

 この姿では小さい男の子でしょう? とヒナはぶかぶかのズボンを広げて見せる。


「男の子だからきっと中に入れてくれますよ」

 女性が入れない職場だと勘違いしているヒナを訂正することなく、アレクサンドロは溜息をついた。


「ヒナさん、これをどうぞ」

 ユリウスが差し出したのはドッグタグ。

 銀色のタグに銀色のチェーンだ。


「身分証です」

「えっ? ギルドに行かないと作れないんじゃ……」

「ヒナさんは少々特殊な事情のため、こちらで作りました。武官たちの手当ての給料を支払うために早めに必要でしたので」

 もちろん嘘だが、ユリウスはヒナにそれっぽい理由で説明した。


Eastwood(イーストウッド)?」

「えぇ、私の家です。ユリウス・イーストウッドです」

 ユリウスはニッコリ微笑む。


『ヒナ・イーストウッド』

 ワタナベヒナではない名前は変な感じだ。


「ありがとうございます」

 ヒナがドッグタグを嬉しそうに見つめると、アレクサンドロはドッグタグをヒョイと取り上げた。


 ドッグタグをじっくり見た後、ヒナの首へドッグタグを掛ける。

 後ろで縛った髪もチェーンに通すと、プレートを服の中に入れた。


 銀色のチェーンとプレートが冷たい。

 ヒナの身体がピクっと動いた。


「常に持ち歩いてくださいね」

「はい」

 そういえば、アレクサンドロもコインのような金のネックレスをしている。

 あれもドッグタグなのだろうか。


「さぁ、食事にしましょう。ランディが迎えに来てしまいます」

 ユリウスが食事を勧めると、アレクサンドロは小声で「養女か?」と尋ねた。

 答える代わりにユリウスはニッコリ微笑む。

 アレクサンドロは「イーストウッド公爵令嬢か……」と小さな声で呟いた。

 

 食事のあと、会議に出かけるアレクサンドロとユリウスと入れ違いでランディが部屋を訪れた。


「おはよう、ヒナ姫」

「おはようございます、ランディ様」

 ランディはすぐにヒナのドッグタグに気づき首を傾げる。


「あれ? いつの間に街へ?」

 ランディはヒナの首にそっと触れるとドッグタグを引き出した。


 ドッグタグには『ヒナ・イーストウッド』の文字。

 そして裏にはイーストウッド公爵の紋章。

 ランディは目を見開いた。


 本家でなければ裏の紋章はつかないはず。

 ヒナは親戚ではなく、公爵家の娘として登録されているということ。

 彼女を口説き落とせばイーストウッド公爵家の支援がついてくるぞという宰相の本気が怖い。


「よかったね。これでいつでも働けるよ」

 ランディはドッグタグをそっと戻した。


「働けるようになりますか?」

「あぁ。すでにヒナに来てほしいと武官からオファーを出しているよ」

 でももう少しこの国に慣れてからね。とランディはウィンクした。


 No.1ホストのウィンクは危険!

 お姉様方が悲鳴をあげるのもわかる!


 実際にはランディはホストではなく武官だけれど。

 ランディもあんな風に怪我をする事があるのかな。

 武官って危険な仕事なのかな。


「……何を考えているのかな?」

 急にイケメンの顔が近くなりヒナは「ひぁっ」と驚いた。


「武官って危険な仕事ですか?」

「そうだね。文官よりは危険かな」

 市役所職員より警察官の方が危険。

 それはそうだが。


 納得がいかない答えだったのだろう。

 黙ってしまったヒナのアゴをランディは上げた。


「俺を心配してくれたのかな?」

 そうだったら嬉しいけどねと揶揄うランディ。


「えっと、その、ランディ様もあんな風に怪我を……?」

「俺はね、武官の中ではだいぶ強い方なんだ。昔はよく怪我をしたけれど、最近は負けないよ」

 心配してくれてありがとうとヒナの頬にチュッと口づけすると、ヒナは一気に真っ赤になった。


 ブワッと溢れる魔力。

 甘く優しい魔力にランディは微笑んだ。


「あー! 待ってたよ~!」

 明るい茶色の髪の青年がランディとヒナに大きく手を振る。

 人の姿なのに、尻尾をブンブン振っていそうな気がするのはなぜだろう?


「うわ、思っていたよりちっちゃい」

 20センチ以上ヒナよりも背が大きな人たちに囲まれ、ヒナは圧倒された。

 狼族はみんな背が高いのかな?

 全体的にムキムキで大きい。

 この中ではNo.1ホストのようなランディだけが異色なのだと感じた。


「ありがとね、ほんっとうにありがとう」

 明るい茶色の髪の青年がヒナの手を取るとブンブン上下に振る。


「両足を怪我していたリッキーだ」

 ランディが溜息をつきながらリッキーを紹介すると、ヒナは狼の姿のリッキーを思い出した。

 オレンジの眼に茶色の長い毛がふさふさだった子だ。

 あぁ、確かに。

 あの狼を人の姿にすると彼のような感じだ。


「こんなに早く治るなんて。もう歩けないかもと思っていたから。すぐに薬を塗ってくれたおかげだよ!」

 本当にありがとうとリッキーは何度もお礼を言う。


「治って良かったです」

 ヒナが嬉しそうに微笑むと、リッキーもニコッと笑ってくれた。


「俺、ライル。足から血が止まらなくて困っていたら文官と二人で来てくれてうれしかった」

 ライルは緑の眼。

 ヒナが一番最初に手当てした狼だ。


「手当てするのは初めてで。手際が悪くて痛くなかったですか?」

「全然! 包帯を巻いてもらったらすぐ痛くなくなったよ」

 ライルは緑の眼を細めて微笑む。


「ねぇねぇ、ここにさ、働きに来てよ!」

「ランディ、ちゃんと誘った?」

「誘ったけれど、もうちょっと後で。この子にも都合がある」

「ね、名前は?」

 何て呼べばいい? とオレンジの眼のリッキーがヒナの顔を覗き込んだ。


「ひーくんだ。本名は秘密」

 ユリウスの親戚だから聞き出そうとするなよとランディはニヤリと笑う。


 ユリウスの父は宰相。

 睨まれたら怖い。

 武官たちはコクコクと頷いた。


「ひーくん。早く働きに来てよ!」

「待っているよ」

 みんなが歓迎してくれる。

 ヒナは居場所ができたようでとても嬉しかった。


「よろしくお願いします」

 ヒナが挨拶すると、武官たちのテンションが一気に上がった。

 やったー! 来てくれる! と大喜びだ。


「あー、喜んでいるところ悪いけど。許可取らないとダメだから」

 アレクサンドロに。

 男ばかりの武官で働いていいと言うとは思えないが。


「早く許可取ってきてよランディ」

「できるだけがんばるよ」

 ランディは手をひらひらすると、そろそろ戻ろうかとヒナに微笑んだ。

 ヒナの右手を握り左手は腰に添えて歩き出す。


「なんで女の子なのに、ひーくんなんだろう?」

「あのぶかぶかの男の子の格好もなんだろうね?」

 二人が去った後、武官たちは首を傾げた。

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