わたくし、呆れましたわ。
うん。呆れるよね。
1ヶ月後。
マルケナスの貴族学園の門を潜ったエレオノーラは目を丸くしていた。
「デビッド様、此処は物語の中なのでしょうか?」
「現実だよ。かなり悪い、ね」
2人が戸惑うのも無理はない。彼女達の目の前で、エレオノーラが書く物語の様な状況が展開されているのだから。
「ステファノン殿下。わたくしは何もしておりません」
「イヴォンヌ、いい加減ミアへの嫌がらせを止めろ、と何度言えば理解する」
1人の少女を数人の青年達が囲み、怒りの形相で詰め寄っている。
ステファノン、と呼ばれた青年はこのマルケナス王国の第二王子。
柔らかそうな緑の髪に金色の瞳をした美形。
確か、第一王子が原因不明の病に罹った為来年くらいに立太子するのでは、と噂がある。
イヴォンヌ、と呼ばれた少女はその彼の婚約者候補でマルケナス王国の筆頭公爵家の令嬢。
見事な紫の髪に漆黒の瞳をした少しきつめの美少女だ。
ステファノンの周りにはエレオノーラが書く物語の取り巻きの男達にそっくりな、美形だが鼻持ちならない青年達が居り中心には茶色の髪をした小柄で庇護欲を唆る少女が目を潤ませ、ステファノンの腕に絡み付いていた。
「お前は……」
「門の前で騒がないでください。邪魔ですわ」
ステファノンの取り巻きの誰かが更に怒鳴ろうとした時、毅然とした声が暴言を遮った。
声の方を向くと、見事な金髪をポニーテールにした見た事がない美貌の少女と、背が高く貴族的な佇まいをしているが、猛禽類の様に鋭い目をする青年が立っており、彼女達の護衛と見られる屈強な騎士がギロリと睨んだ。
「デビッド様。いつからこの国では、上ではなく下でものを考える方が多くなったのでしょうか?」
エレオノーラが情け無い者を見る様に、ため息を吐きながら自分達の前で喚く集団を観察していた。
「エレオノーラ。次代の外交は一考する様、大臣に伝えておく」
デビッドも呆れ果てて言葉を選ぶ気遣いもない様だ。
「申し訳ありません」
イヴォンヌがエレオノーラの元に走り寄り、頭を下げた。
「イヴォンヌ・シスレー公爵令嬢」
「初めてお目に掛かります。エレオノーラ・サティナス王太女殿下」
イヴォンヌが小刻みに震えているのがよく分かる。
サティナス王国は近隣の国を纏める宗主国。
そんなサティナス王国とマルケナス王国では国力の差があり過ぎる。
今回の留学もエレオノーラが見聞を広げる為、と言う名目が無ければ実現しなかった事だ。
彼らはその大国の次期女王であるエレオノーラに醜態を晒した。
はっきり言ってマルケナスの外務大臣が泡を吹いて倒れてもおかしく無い事案だ。
ウチの猫
ウチの猫は爪とぎを良くする。
野良の時、猫の習性だって分かっているけど、お隣さんの真っ赤なフェラーリのタイヤは不味いだろ。猫好きの持ち主の旦那さんが爆笑してたけど。ウチの猫になった時話したらさらに爆笑した。良い人だ。