わたくしの名前は強そうですから
あれ?なんかほんわかした人になってる。
「デビッド様。勝手に読んではお嬢様が驚かれます」
エレオノーラの執事であるライルが、呆れた顔で紙の束を手にするデビッドを見た。
「良いのよ。デビッド様は博学で、物語にも造詣が深い方なのよ。アドバイスは有り難いわ」
クスクス笑いながら、アドバイスを待つエレオノーラにデビッドは小説の一部に指を当てる。
「まず、男爵家の者は側妃や愛人にはなれても王太子妃になれない」
デビッドの指摘は貴族世界では常識だ。
「それから、王太子が公爵家の令嬢を国外追放には出来ない」
罪人を裁くのは王と司法の役目であり、王太子の個人の意見など私刑になる為、後日調査が入る。
「王太子は、王位継承権を持っているが、王では無い。まして公爵家の令嬢なら相応の権力があるから愛人をイジメた、と言う理由では却下されるよ」
真っ当な貴族社会では足の引っ張りあいはあるが、実害のない嫉妬や虐めで断罪するなどありえない。
「物語としてはそう言った題材は多いが、もう少し現実味を持たせた方が読み手の共感を得られるな」
デビッドの指摘にエレオノーラはムーッと唇を尖らせ考え込んでしまった。
「やはり想像だけでは無理が出てくるものですね」
エレオノーラが書いた物語はサティナス王国で人気だが、実際物語の様な事は起こったことがない。
「あと、君の名前に似た令嬢を悪役にするのはやめて欲しい。いくら浮気者をペシャンコにすると分かってても、あまり気分が良くないよ」
デビッドの指摘にエレオノーラがキョトンとした。
「強そうな名前が思いつかないので……」
断罪されるにしても、ざまぁ返しをするにしてもやはり強そうな名前が必要だ、とエレオノーラは思っていた。
ウチの猫
生後2ヶ月くらいの時、ウチに飛び込んできたので家族になった。ビビリの内弁慶だけど、手のひらに乗るくらい小さくて可愛かった。今は目つきの悪いおっさんだけど。