思い通りに動かせる自分だけの世界だったはずなのに
初投稿で連載物です。更新速度は亀ペースですが最後まで終わらせられるように頑張ります。
「神になりたくはありませんか?」
「……は?」
何処からともなく聞こえてきた声に対して、間の抜けた声しか出なかった。
それもそうだろう、何故なら気付いたら真っ白な空間に一人で立っていて、周りを見渡しても何もなく、どうしてここに一人で立っているのかも、何なら自分が誰なのかさえ分からない上に突然質問をされたからだ。
必死にここに至る経緯を思い出そうにも、頭の中にモヤがかかってしまい、記憶を上手く引き出せない。自分の事すら分からないとなると一般的にそれを人は記憶喪失というのだろうが、不思議と不安は一切なく、ただ突然聞こえてきた声の内容に困惑するばかりであった。
「ええと、神……ですか……」
「あなたには一から世界を作って欲しいのです」
恐る恐る聞き返してみるとまた声が聞こえてきた。一人でないことにほっと一安心したが、やはり辺りに人が居る気配はない。何処からともなく、何なら頭に直接響いているかのように聞こえている。
――あ、頭の中に直接……!?
と密かにテンションを上げていると、声はそのまま続いた。
「難しい事はありません。あなたの知るゲームのように世界を作ってくれれば良いのです」
「ゲーム……」
ふっと頭に浮かんだのは某RPGを作るゲーム。あれは確かにマップやキャラクター、アイテムやモンスターやらを作り、イベントを通して一つの物語を作るゲームだった。
自分の過去は全く思い出せないのに何故か心惹かれるものがある。きっと以前そのようなゲームで一つの世界を作った事があるのだろう。どうしてここに立っているのか、自分は何者なのかは最早些細な問題のように思えてきた。今は早くゲームの世界を作りたいとしか思えないくらいにわくわくしている。
「作ってくれますか?」
再度伺うような声だが、ほぼ確定事項なのだろう。否と言わせない圧を何となく感じる。
ゴクリと喉を鳴らして恐る恐る聞いてみた。
「それ……作り終えたらその世界に入れたり……?」
こちらとしてもやりたいと思ったので引き受ける気満々なのだが、一つだけ。
「最終的にあなたの代わりとなるアバターを通して、あなたが作った世界に降り立つことが出来るでしょう」
「それじゃやります! やらせてください!!」
反射で返事をしていた。自分の好きに作った世界を自分の足で歩けるのは楽しみでしかない。そして何よりも自分が作ったストーリーを目の前で見れるという事に興奮した。
――まずは何を作ろう? と言うかどんな感じで作れば……何か画面が出てきたりする?
そう考えた瞬間、目の前にホログラムのように青い画面が二つ表示された。
「わっ」
思わず声が出たが、片方の画面には様々なボタンが表示されていて、もう片方には真っ暗な画面しか映っていない。ボタンは【地形】【生き物】【無機物】【天候】【時間】【概念】【法則】と並んでいて、一番下に一際大きく【降り立つ】というボタンがあった。
――流石に【マップ】とか【キャラクター】というのは出ないか……。
ちょっと思っていたのと違うが、つまりこれだけ自由度があるという事だ。試しに【地形】を押してみると、更に別の画面が表示された。【地面(芝)】【地面(砂)】【地面(土)】【山】【水】【岩】【通行可能】【通行不可】というボタンが並ぶ。そして最後には一際大きく【自動生成】というボタンが存在感を放つ。
――なんだか面倒だな……【自動生成】で作って後で微調整した方が楽そう。
どれくらいの広さで作るのか分からないのにちまちまと地形を作っていくのは面倒だと感じた。だから迷わず【自動生成】ボタンを押した。すると真っ暗だった画面がパッと色付いた。見ると草原が映し出されている。
「なるほど、こっちの画面は作った世界を見れる感じか……」
地形しか作っていない為、当然何も生物は存在していない。広義的には草も生物ではあるが、今回は地形として括られているようだ。風は吹いていないからか無機物のようにも見える。と言うか空気が存在するのだろうか? 今【降り立つ】ボタンを押すのは止めておこう……。
開いていた【地形】の画面を閉じろ~と念じると消えたので、次に【法則】のボタンを押す。【地形】と同じく別の画面が開いたが、ボタンが更にあるのではなく、何かを入力するような白い欄だけ表示されている。
「箇条書きで書いていけばいいのか……? ええと……」
思い付いた順から書いて行こうと思ったが、質量保存の法則、慣性の法則、作用反作用の法則、熱力学第一法則……と上げて早々に面倒になった。面倒だったので【地球と同じ環境・法則】と念じてみると画面に映っていた草が風で揺れだしたのを確認出来た。
「地球ってのが今まで住んでた所だったのか……」
ふっと思い浮かんだ名前はとても馴染みのあるものだった。相変わらず自分の事は何一つ思い出せないが、おそらく地球という場所は自分が生まれた所なのだろう。思い付いていた法則もきっとそこでは当たり前だった法則なのかもしれない。どんな法則だったのかはぼんやりとしか思い出せなかったのだが、自分と同じ生物が住めていたのであれば問題無いだろう。
「ええい、面倒だ。取りあえず地球と同じ世界作ってそこから弄るか!」
そう呟いて他のボタンを押して同じように念じていく。あっという間に反映された世界を真っ暗だった画面で見渡していくと草原を走る鹿の群れが映っていた。
「よーし、ここからアレコレ追加していくぞ~!」
まずはファンタジー定番のエルフとか獣人だ! あとは魔法とか錬金術とか……とブツブツと呟きながら様々な作りたい物に思考を巡らせる。いつの間にか声は聞こえなくなっていた。
+++++++++++++++++++++
「エルフ、ドワーフ、ホビット、獣人……あとは何だ? うーんドラゴニアとかハーピィとか名称ばかり増やしてもなぁ……」
ブツブツ言いながら入力欄に追加されていく種族名を眺める。
ひとまず【地形】と【環境・法則】に関してはこれ以上弄るつもりはない。
今は種族について考えているが、あれもこれもと増やしていったら収集が付かなくなってきた。
「ドワーフは背が低いから高山病に罹りにくくて、必要となるエネルギーも少ないから他の生物が住み辛そうな山に住んで鉱石とかを加工して輸出してて……」
細かい設定まで考えると時間がかかり過ぎてしまう。仕方なく種族の数を減らす方向にした。余裕が出てきたときにまた追加すれば良いだろうと。
早速作った種族を画面の向こうに見える地上に設置すると、各々設定された生態に沿って生活し始めた。
それを満足気に眺めながら次に必要な項目を考える。
「あとは概念かなぁ……魔法と錬金術は入れたい……」
【概念】の入力欄に【魔法】と入力された瞬間、ビー! とビープ音が鳴り、ポップアップメッセージが表示された。
「えー? なになに……【魔法】を使う代わりのエネルギーが存在しません……?」
なるほど地球と同じ【環境・法則】だと魔法は存在出来ないらしい。確かに同じ様な【化学】には何かの物質と物質が反応してようやく火が燃えたり水が出来たりするのだから当然と言えば当然だ。無から有は生み出せないのだ。
「うーん……【魔法の素】略して【魔素】って物質が存在するとしてそれを消費して魔法を使えるようにすれば良いのかな?」
相変わらず独り言を呟きながら【魔素】と言う文面を追加してから【魔法】を追加するとまたビープ音が鳴った。
「今度は何だ!? はぁ? トリガーの設定と効果を設定して下さい!?」
どういう意味だと目の前に現れた警告文を見ていると、小さく注釈が書かれているのが見えた。
「細かっ! えーと……どのタイミングで、どのような事象を起こすのかを決めて下さい……つまり?」
例えば『炎よ』と口に出すのがトリガーで、火の粉が目の前に現れるのが効果って事でいいのか? と考えると自動的に入力され、警告文が消えた。
「はぁー……面倒っ!! それに大分制約があるなぁ……神様ってもっとこう、自由に出来るもんじゃねぇの?」
しかも魔法として発動出来るのが今入力したものだけなのは寂し過ぎるしライターで十分実現可能である。
面倒だと感じながらもある程度の【魔法】を考えついた分だけ入力していく。
「あと絶対に回復魔法は欲しい、辻ヒーラーやりたい……でも病原菌とかに対する知識が遅れてしまうとペストとか流行るからなぁ……使えるランクを定めて高位ランクの人しか使えないようにすれば医術も進歩するよね……?」
相変わらず独り言を呟きながら入力していく。
「一刻を争う時とか無詠唱で回復出来ればいいのに……念じるだけじゃダメなのか?」
試しに『口に出す』という部分を『念じる』に書き換えるとまたビープ音が鳴った。
「はぁ……画面からトリガーの感知が出来ない為、その方法をトリガーとして設定出来ません、か……えっ? もしかしてこの画面から確認して発動させんの!? システムが勝手にやってくれるんじゃないの!?」
なんだそりゃ。つまり呪文だと音、魔法陣だと絵、杖を振る動き、を画面で確認してようやく発動出来るということだ。
「そんなシステムだったんかい……」
何だか知りたくもない舞台裏を知ってしまった気分である。
「死者蘇生の回復魔法入れるか……」
回復が間に合わず死んでしまった時の保険はかけておきたい。しかし効果を入力するとやはりビープ音が鳴った。
「なになに? 死んだものは自動的にシステムより削除される為、生き返らせる事は出来ません? はぁ!? パソコンですらゴミ箱って一時的に保管出来るのに即座に消されるの!? えぇー……消されたログからサルベージ出来ないの~?」
そう言いながら入力すると、ビープ音は消えた。
「なんだ出来るじゃん。あれか? 現実とゲームは区別しましょうってやつ?」
頭をポリポリ掻きながら次は【錬金術】を追加するとまたもやビー! とビープ音が鳴り響いた。
「あ~? 今度は……【化学】と作用が競合してますだぁ? んなもん【魔素】と【魔法陣】を利用するから競合しない……と」
確かに何かと何かを混ぜて違う物を作るのは【化学】でも出来る。しかし、折角【魔素】と【魔法陣】を採用したからにはそれらを加えることで【化学】とは違う物が出来てもいいと思う。そうしてこれまた思いつくままに【錬金術】の説明と組み合わせて出来るものを書き加えるとビープ音が鳴らなくなった。
「取り敢えず【概念】はここまでにするか……」
これ以上の概念を追加する時にまた競合するとビープ音が出る度に設定を付け加える事を考えると面倒くさくなってきた。
最低限入れたかった【魔法】と【錬金術】は加えられたから良しとしよう。
「ふふん、【魔法】と【錬金術】の概念が加わった世界がどう進化していくのか楽しみだ」
地球には無かった概念を追加して、さてさて今世界はどうなっているかな? と確認すると何故か画面の向こうは荒廃が広がっていた。
「は!? え? 何で!!?」
慌てて世界を確認するとアレコレ考えて設定を弄っている間も世界の時間は進み続けていたらしい。画面から確認出来る限りではどんよりとした空が広がっており、草木すら生えていない死の世界が広がっていた。
慌てて生物を検索してみてもヒット0と表示され、唖然とするしかない。時間軸は世界を創造して知性のある生物を住まわせてから2000年経っているようだった。
「えぇ……これってゲームオーバー? てか何で? 何が起きてたの……」
そう言えば【時間】と言うボタンがあったハズ、と【時間】ボタンを押すと、【巻き戻し】【加速】【時間指定】【一時停止】等のサブボタンが表示された。ひとまず【巻き戻し】で世界に何が起きたのか調べていく。
すると、高度成長した化学文明間で諍いが広がってしまい、やがて争いで使われた化学兵器によって生物の住めない世界になってしまったようだった。
「マージかー……化学が発達し過ぎないようにして、諍いも起きないように共通の敵を作るか……?」
宇宙人を追加したら化学を発達させない事と競合してしまう。悩んだ末に新しい種族を追加する事にした。
「ファンタジーって言ったら【魔族】でしょ……知性のある【魔素】を自力で生み出せる種族を【魔族】として、知性の無い生物を【魔獣】にしよう。彼らに共通するのは【魔石】を持つこと。【魔石】は【魔素】が個体化したもので地中からも取れるようにして【魔法】を使う時の媒体にすると効果が跳ね上がるようにして……」
明らかな悪者を作ることに心が痛むが、これも世界が滅びない為だと言い聞かせて設定を盛り込んでいく。
そして今度は知性を持つ生物を投入して直ぐに【一時停止】をかけた。知らぬ間に世界が滅んでしまわないようにする為だ。
「うーん……そろそろ楽しい設定考えたい……自分のアバターでも作るか!」
あっちを立てればこっちが立たず。そんな感じで考え込んでいた為、そろそろ何にも縛られない自由なメイキングをしたい。
最終的に世界に降り立つなら早めに作ってやる気を充電させることも必要だろうと意気込む。
「種族は猫の【獣人】にしようかな……猫耳良いよね……あと【錬金術】使いたいし、【魔法】も……」
ビー!ビー! と聞き慣れたビープ音が聞こえてゲンナリする。今度は何だ? とポップアップメッセージを見ると、『選択した種族では【魔法】と【錬金術】は使えません』と表示されている。
「いやいやいや……神様特典でアリにしてよ! ……あー! そんじゃもう【人間】でいいよ! 【魔法】で姿変えるから!!」
やっぱり自由度が少ないように思える。楽しいハズのアバター作りでも時間をかけて考える羽目になった。
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サクッと地面に足を付けると、風で髪の毛が靡いた。辺りには人工物も動く生き物の気配も無い。
ほぅと息を吐く。自分の手を握り、問題なく動くことを確認する。うずうずとした衝動のままに叫ぶ。
「降り立ったぞー!!!」
そのまま右手を前に出して「炎よ!」と叫ぶと、ポンッという軽快な音と共に手のひら大の炎が出現した。
「おぉ……ちゃんと魔法が使える……」
凄い。自分で設定したとはいえ、半信半疑だったのも確かだった。よく分からない空間でひたすら画面と睨めっこして作った世界に入るという凡そ一般的には経験出来ない事を経験している。凄い。すごい楽しい。
「周りに誰も居ないな……まぁそういう地点を狙って降りたんだけど」
ついつい癖で独り言を呟いてしまう。
頭の中にあの空間で作ったこの世界の地形を思い浮かべると、ピコンという音と共にあの見なれた画面が目の前に出現した。
「おぉ……こっちでも見れるのは有難い」
早速地図を表示させると、1番近い村はここから10kmくらい離れていた。流石に歩いて行くには少しばかり遠い。というか運動慣れしていないこの身体では辛いに決まってる。
「あー……移動用の魔法も考えるんだったな……」
ついつい馴染みのある攻撃や回復、ステータス補助系の魔法ばかり作ってしまったが、移動が楽になる魔法は作っていなかった。
「見知った場所にひとっ飛び、っていう魔法なら作ったんだがなぁ……行った事の無い場所だしなぁ……」
つい先程降り立ったばかりなのに再びあの真っ白な空間に戻る。ちなみに出現した画面の右上に【編集へ戻る】というボタンがあったのでそれを押した感じだ。
「移動用……ってなると空を飛んだり目に付いた地点に瞬間移動する感じかな……あーあとは生活を補助するような魔法も作ろ」
お風呂に入れない時でもサッパリしたいし、汚れた服を何時までも着なくてはいけないのも嫌だ。物を浮かす魔法や空間を捻じる魔法、洗濯・洗浄に特化した魔法を追加する。荷物を持たなくて済む空間収納術なんて正に便利な魔法なので忘れずに追加しておく。
そしてそれぞれ追加した魔法にビープ音が鳴らないことを確認してから再び画面の中へ降り立った。
「よしよし……それじゃ早速、人が居るところまで行きますか!」
瞬間移動で飛び、あっという間に村の前まで移動する。遠目にも簡易的な柵で囲まれた村へ頭に獣の耳を付けた獣人が出入りする様子が伺えた。
そして今正に、3人ほど狼の耳を付けた壮年の男達が村へ入ろうとするので、急いで近付きながら手を上げて早速挨拶を交わしてみる。
「こんにちは!」
「ドラサダル リバスク オフカン?」
「ベーロガン」
「ラウナ ミナルドゥ ラロルミンドゥ ロモリウン フルヴァガン タシンダル?」
「ラトゥン フレリスカ」
「へっ?」
返ってきた音の意味が全く分からない。言葉なのだろうが、意味の分からない言葉だ。ここで言語の設定をし忘れたことに気付いた。
どうしようと考えてるとその間にも三人はどんどん目を釣り上げてこちらを睨み付けてくる。
「ラロルミンドゥ ヴァクテン!」
「テルドゥ カリトリヌ ロモリウン ラヴァデンカシュ!」
「シルクト ベリーニ ラグロスタンディア!」
「えっえっ!? 何!? 何もしてないただの善良な人間ですよ!?」
手を胸の前に突き出して横に振るも三人は爪を出して益々殺気立っていく。なんなら三人の後ろ、つまり村の方からも武器らしき物を持った獣人達が走ってくるのが見えた。
「えっ……敵認識されてる!? ちょっタンマ!! も、戻ります!!!」
慌ててそう叫ぶと瞬きをした次の瞬間、あの真っ白な空間に立っていた。
ヘタっと床に座り込み、ドッと汗が出るのを感じる。
「こ、怖……何だったん……」
ドッドッと鳴る心臓を胸の上から手で押さえながら上がっていた息も一緒に整える。それと同時に【時間】のボタンから【巻き戻し】ボタンを押し、先程言われた言葉に翻訳をかけてみる。
すると、「なんだこの人間は」「子供を狙う密猟者か?」「密猟者は殺せ!」「戦える者を呼べ!」といったような事を言われていたのだと分かった。
「密猟者か~……一人で行く訳ないじゃん……って言っても魔法があるから有り得るのか……」
何故か【種族:獣人】は【魔法】や【錬金術】を使えない。身体能力が高い故か、魔素を扱う適性が一切持てないように制限されている。それに比べ、人間一人でも獣人を複数人相手取ることが可能なのは魔法が使えるからだ。
とは言っても丸腰の人間一人にあれほどまでに躊躇なく排除しようと動いたのには訳がある筈で、恐らく以前もそうやって一人の密猟者に子供を奪われた事があるのだろう。
「うーん……種族もそうだし、国とか村単位で使われてる言語が違うのは困るからなぁ……今使ってる言語を唯一の言語にしてしまおう」
すると聞き慣れたビープ音が鳴り響いた。
「あーはいはい、今度は……種族によっては発音出来ない単語がある為、単一言語化はお勧め出来ません、か。それなら世界の共通言語にするよ、これなら問題無いでしょ」
今度はすんなりと設定が完了した。
とは言えども言葉が通じる位では先程の村人達と打ち解けあう事は難しいだろう。あそこまで問答無用に襲いかかってくるとなると何か緩衝材となるものが必要だ。
「お供を作るか……」
古今東西、可愛いマスコットキャラクターは居るだけで場が和む。あの殺伐とした獣人の村もきっと可愛いお供を見たら和んで話を聞いてくれるハズ。
そうと決まればどんなマスコットキャラクターにしようか考えだす。
「獣人受けが良いのは同じ種族だけど……うーん」
獣人の種族数を考えるとその数だけお供を連れ歩くのは非現実的である。共通するナニかを定めておいた方が良さそうだ。
「神って言う概念は考えてなかったけど、いきなり襲われちゃ堪んないし、作るか……」
【概念】の画面に移ると、何故か設定した覚えのない神の名前が沢山並んでいた。
「えっいつの間に? ……あ、なるほど、ここまでの時間経過で各々の種族達が勝手に考えちゃったのか……そうしたら共通の神なんて設定しても受け入れてくれなさそうだなぁ……こうなりゃ新しい概念を入れるしかない、そう、【精霊】とか!」
そうして【魔素】をエネルギーとする【精霊】という概念を考える。
「精霊と契約するとその精霊が持つ属性の魔法が使えるようになるって設定はどうかな……あーはい、【概念】と契約は交わせませんってか……」
折角なら獣人達も魔法が使えるようになればいいと思って設定を追加しようと思ったのに馴染みのあるビープ音が鳴ってしまった。
「と言うか、【概念】だから実際に存在してる訳では無いんだよな……そりゃ契約は交わせないか。あーもう、いっそ【種族:精霊】を付け加えるか!?」
それならば契約とやらを交わすことも出来るだろう。自然界で畏怖される火、水、土、風、雷を基に精霊を設定していく。
今度はビープ音が鳴らないのに安堵し、その場に仰向けになって倒れる。
「っあ"~疲れた!! もう嫌だ! 何で自由に設定出来ないんだ!!」
本当は何となく分かっている。自由には制限が付き物だ。本当に自由にしてしまったら、それは無秩序な混沌が存在するだけの世界になってしまう。だからこそシステム側がそうならないように警告を出しているのだろう。
「そもそもこのシステムって誰が考えたん……っっ!!」
刺すような痛みが頭に走る。思わず手を頭にやり、痛みが去るのをひたすらに待つ。痛みが引く頃には先程まで何を考えていたのか分からなくなっていた。
何を考えていたのか思い出せないまま、新しく追加された【精霊】の設定に目をやる。
「とにかく、これで言葉は分かるようになるハズだし、精霊を通して悪者じゃないって分かって貰えれば何とか交流出来るかな……」
よいしょっと身体を起こし、再び画面の中へ降り立つ。次いでに時間軸を先程獣人の村に突撃する前に戻しておく。出会いからやり直しだ。
そして早速追加した精霊に呼び掛けをしてみる。
「えーと、火の精霊は確か【トゥリー】だったかな?」
名前を出すと、近くに仄かな火の気配を感じた。本来はきちんとした招来の呪文が必要だが、そこは神特典で呪文無しで呼べるように設定したのだ。
火の気配を纏いながら村へ近付く。すると、先程も見掛けた三人の獣人が目を見張ってこちらを見ている事に気付いた。
「トゥリー様の気配を纏うあの人間は何だ!?」
「こんな所まで人間一人で来るのは怪しいぞ!」
「まさか密猟者か!? いやでも精霊様が付いているし……」
ちゃんと設定した言語になっている事も確認出来た。満足気に少し頷き、今度こそ挨拶を交わそうと手を挙げた。
「こん……」
「ひぃっ!!」
「お許しください精霊様!!」
「直ぐにここから立ち退きますから!!!」
挨拶を言い切る前にまたもや三人は目の色を変えて、何なら顔色を真っ青にしながらその場にひれ伏した。
「えっ……あの……」
「どうか一族の者だけは……!」
「何卒お見逃し下さい……!」
「お願いします……!」
ダメだ、会話にならない。こちらが言葉を発しようとする度に向こうが言葉を被せてくるし、その場から足を一歩でも踏み出そうものなら向こうは二歩下がっていく。
何をそんなに恐れているのか全く分からない。こちらはただフレンドリーに異世界交流したいだけなのに。
「……どうしてこうなった……」
思わず出た言葉だけが虚しく空に響いた。
次回の投稿は構想はあってもプロットが何も出来ていないので未定です。