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シャリヤのうそつき  設定が甘いため凍結中  作者: 南田萌菜(ナンディ・モイーナ)
アマルナ

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10/10

 神の証明


 受けが悪いというわけではないが、あまり振るっていないようだ。

「人集まんないね」

 アマルナが語りかけるとジンジは頷いた。


 ヤンは新しく訪れた区画の、目抜き通りのはずれの広場、そこで昨日と同じ英雄譚を披露していた。


 昨日までいた区画よりも人通りが少なく、行き交う人々は身なりが良い。

 通りに軒を連ねる店舗は飾り気がないが美しい。

 また、通りに露店を出す者や芸を披露するものなどもいない。


 ヤンの披露する噺を面白がっているものも多いが、どちらかというと珍しがっているもののほうが多いようだ。


 この区画にはいわゆる「大衆」というものとは違う、一階層上の人々の住む町なのだと思い知らされる。


「おつかれ」

 アマルナは後ろで手を組み首を傾げて声をかける。

「ありがとうございます。この町は要するに、そういう町ではないようですね」

 それでもそれなりに集まったコインをまとめながらヤンはアマルナに微笑みかけた。


「そだね」

アマルナは微笑み返すも、少し不安な顔を見せる。

「ですがちょうどいい。そろそろ行動に移す時ですね」


 ヤンの言葉にアマルナは慌てた。

「確かにこの町はちょっと高尚なところがあるようだな。だがヤン、決して急くな。お前の川底歩きは人知を超えて高尚なのだ」


 昨日うっかり芸術なんて言葉を口にしたものだから、ヤンがここぞとばかりに踊りだすのではと警戒する。それだけは何としても止めなくてはならない。


「何をおっしゃっているのです。そもそも私は別に大道芸人ではないのです。よそ者がうろついていたとて旅芸人なら怪しまれません。金もないわけではないが常には持ち歩いておりません。路銀になればそれもよい。それだけなんです」

「そっか。うん。そうだよね」

 ヤンの真面目な口調に気圧されつつも、ほっとするアマルナ。


「それにその、私には目的がございます」

 ヤンはアマルナの顔色をうかがいながらつぶやいた。


「あ」

 アマルナは口を開けた。

 帝国軍人を殺した、赤錆のまとわりついたようなヤンの姿を思い出した。


「サウラ・マデラ。あれに近づくは容易ではありますまいが、王宮に近づかねばならないことは確か。探りを入れねばならないし、うまく潜り込む方法なども考えなければなりません」

「そっか、そうだったね」

 アマルナは苦笑いを見せる。


「しかしまずは昨日言ったとおり、アマルナ様の服を探しましょう。この町であればそれなりのものが見つかりそうですし、石鹸もありましょう」

「そっか、そうだったね…」


 アマルナはサウラ・マデラのことを旧知と言っていた。

 それを殺すなどとはうかつなことを言ったかもしれない。

 今のところそれについてアマルナは何も言ってこないが、はたしてどう思われているのか、どこまでこの女神は使えるのか、それを探りあぐねていた。

 

 アーマー・ルルナはサウラ・マデラに成敗されたと伝えられている。

 しかしアマルナはサウラ・マデラを悪く言うことはなく、また。向こうもアマルナのことを友人と呼んでいるようだ。

 アマルナの信徒、仕える騎士でも名乗って近づくか。

 そんなことできるのか、それを言ってアマルナは応えてくれるのか。


 興奮していた。しかしやはりあれは言うべきではなかった。

 ヤンは自身の計画に、これまでの言動に不安を覚えつつも、とりあえずはにこやかに話をそらした。


 アマルナはヤンが右手に持つ布を見た。結構な額が入っている。

 これで服やら石鹸やら買ってくれるのだ。


 クエッタにもらった服同様、とてもうれしい贈り物だ。

 

 ヤンにはいろいろもらっている。

 奇麗な弓を触らせてくれた。

 おいしい汁を飲ませてくれた。

 宿もとってくれた。


 何よりジンジにあわせてくれた!かわいいジンジに!

 ヤンが来なければあのジンジにあうことはできなかったし、そもそもヤンが来なければ外には出られなかった。誰かに連れ出してもらわないと、自分一人ではあの洞窟から出られないようになっていた。


 出たことがいいことかどうかはわからなかった。

 それでも外に出れたおかげで随分と楽しい思いができている。


 ヤンの願いにどれほど答えていいのかもわからない。

 どれほど協力できるのか、していいのか。

 でもヤンのために何かしてあげないといけない。

 

 これから服と石鹸を買ってくれるヤンに。


「いらない…」

「え、なんです?」

 ヤンは振り返り、うつむくアマルナを見た。


「服も石鹸も買ってくれなくていい」

 アマルナは頬を膨らませた。

「え、ダメですよ。昨日約束したでしょう」

 駄々をこねる子供とお母さんみたいだ。


「うん…、買う…。でも買ってくれなくていい」

「は?」

「自分で買う!ヤンのやり方見てたし!神だし!もらってばっかはさすがにあれなんで!」

「いやいや、どれですか。何をおっしゃって…」

 焦るヤンに「じゃあね!」と言い放ち、アマルナはどこかに消えていった。


「行け」

 ヤンはすかさず右手を伸ばし、ジンジについていかせた。

 ジンジは素晴らしい速度で跳ね、アマルナの方に飛び乗った。


 ジンジがいればはぐれても落ち合える可能性が高まるし、ともすればジンジをつかって上手く稼げるかもしれない。

 ヤンは困り眉で笑った。


 軍人どもとやりあった後、これぞ本物の神性と見極めたつもりだったが、本当にその判断は正しかったのだろうか。

 軍人どもが本物と認識しているようでもあったが、それも確かではない。

 正直雰囲気それっぽいという以外確信はない。

 

 確信。

 そう神の力だ。

 かつて見た、大剣を振りかざすサウラ・マデラの炎に焼かれる村々。


 ヤンの目に力が入り、おぞましい表情になる。


 あのような力か、それでなくとも何か神秘の力が見たい。

 証拠が、神の証明が欲しい。


 今のところ裸足で歩いてケガしないところと、汁だけすすって元気なところ、それくらいしかない。

 いや、それだけでもすごいか。

 

 ヤンの表情はすぐに元に戻った。

 

 殺伐とした目標を掲げ、殺伐とした生き方をしてきた。


 アマルナが偽物か、あるいは大した神様で無かったとしても、今、自分には何か救われている部分があるのではないか。

 クエッタの村に住もうかと考えた時の気分と似ていた。


「美人だしいいか」

 そうつぶやくとなんだか笑えた。


「おっぱいでかいしいいか」

 同じ調子でこれ言ったらちょっと違ったのでこれはなし。



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