暗殺者達の夜
私は、今まで触れた事のない様な高級布団──羽毛をふんだんに使用した贅沢な一品──に身を包まれながら、その時を今か今かと待っていた。
今日、誰か一人この部屋で死ぬのだ。
それが私なのか、相手なのかはわからない。
だが、私が死ぬ確率の方がずっと高いであろう。
私に出来るのは、最善を尽くす事……それと、依頼主が約束を守り、10歳の子供に手を出さない様祈る事位だ。
(リーン……あれから、何もされてないと良いけど……)
この布団を寒い時期に使うのであれば最高だったかもしれないが、今の時期には些か暑い。
カツラが蒸れて仕方なかった。
しかし、依頼主の──暗殺者から殺害予告をされたという──女性と成り代わるには、彼女と私の体型は違いすぎる。
服の下にタオルを何重にも巻き付けて薄手のブランケットを使うか、体型をカバーする厚手の布団を使用し動きやすさに重点を置くか。
私は、後者を選択した。
額に汗が滲んでくる。
暑さだけではなく、緊張もその原因だろう。
コチ、コチ、コチ、という時計の音だけがやけに響く。
私の命のカウントダウンに聞こえるのは、飛躍し過ぎだろうか。
私は、何度も枕の下に仕込んだ毒針の存在を命綱の様に確認しては、自らを落ち着かせようとしていた。
毒しか扱えない、したっぱである私なんかの腕では、今日この部屋に来ると言われている暗殺者──影の存在であるのに、余りにも有名な──『シャドウ』には到底勝てやしないだろう。
私の命は、恐らく今日ここで終わるのだ。
不思議と、怖くはなかった。
私も3年間で、10人の命をこの手で葬った。
因果応報というものだ。
暗殺者として10という数字は少ないかもしれない。
けれども、数の問題ではなく、私の罪は一生消えない。
私は決して腕が良い訳でなく、対象者の行きつけの店などに潜入して近付き、毒を盛ったり刺したりする方法しか使えなかった。
今までバレずにすんでいるのは、要領が良いのではなく単に運が良いだけだ。
毎回毎回、仕事を請け負う度に、次はバレて殺されるかもしれない、と思った。
暗殺計画の対象者は、殆どが一般人ではなく貴族や有力者である。
当然、護衛や警備も厳しかった。
──今の、私の様に。
今、私はとある貴族の女性に成り代わっている。
「その女性がここにいる」と思わせる為に、部屋の外にも屋敷の外にも、護衛や警備が増員されていた。
私が暗殺者であり、ターゲットがこの状態だとしたら到底手も足も出せないだろう。
だが、『シャドウ』は恐らくここまでたどり着く。
『シャドウ』──暗殺を主に行う処刑部隊。
この国の有力者に語られるその存在は有名で、処刑部隊はまず悪行を記載した書面を処刑対象者に送り、それをもって期日までに罪状を認めてその証拠品を提出し、処罰を受ける事を促す。
もし、万が一本当に罪を認め処罰を申し出た場合は、殺される事はなく、法に基づき処罰されるらしい。
しかし。
処刑対象者となりうる者達は、表向きは人格者や名士でいながら、非常に後ろ暗い者達ばかりだ。
書面を握り潰し、来る暗殺者を逆に殺してやろうと考える者の方が圧倒的に多かった。
何故ならば、処刑対象者はその悪行の証拠が一切なく、法では裁けない者達だから。
国外逃亡した場合は処刑されないらしいが、国内に戻ってきた際には葬られるらしい。
『シャドウ』の姿を見た者は全て消される為、誰も『シャドウ』を見た事がない。それなのに、その働きぶりは余りにも有名だ。
もしかしたら、噂には幾分、話が盛られているのかもしれない。
──何にせよ、私が今回成り代わった女性も、何をしたのかは知らないが、相当な重罪を犯したのだろう。
私がそんな事を考えながらも思い出すのは、私の花屋に通ってくれた常連さんだった。
「貴女が好きです……私と付き合って、下さいませんか?」
18年の人生で初めて受けた告白。
私に注文した白い薔薇30本の花束を、そのまま私に両手で差し出しながら、顔を赤く染めて真っ直ぐに。
出会った時から、凄く優しくしてくれて。
いつも、微笑みながらお花を注文してくれて。
差し入れです、って美味しいお菓子を持ってきてくれて。
他愛ない世間話をする時間が待ち遠しくて。
困った事があったら何でも言ってと、話を聞いてくれて。
私も大好きですって言いたかったけど、血に濡れた私の手で彼に触ってはいけないと思った。
あの、陽だまりの様に笑う人には、もっと相応しい人が必ずいるから。
結局私は、彼の告白を断った。
「そうですか……でも、嫌われてはいないのかな?」
「それは、勿論です」
「わかりました。──じゃあ、これからも頑張ります」
初めて彼を、少し困った様に、寂しそうに笑わせてしまって胸が痛む。
それからも、彼は毎日通って花を買い求めて「好きです」って言ってくれて。
私も、本当は彼に応えたくて。彼の手を握りたくて……
☆☆☆
「レディ、ブルー・ローズを一本頼めるかな?」
私は、口髭を蓄えたその紳士に深くお辞儀をしながら言った。
「……生憎、入荷の予定はございません。わざわざお越し頂いたのに、大変申し訳ございません……」
「……そうか、それは残念だ。もし入荷したら、こちらに連絡を」
紳士は、さっと名刺をテーブルの上に置くと、店内をぐるりと見回し、紫の花を5本購入して去って行った。
ブルー・ローズは暗殺依頼の合言葉だ。
私の所属している暗殺請負仲介業者は、暗殺者を使い捨ての駒の様に考えるところだった為、仮に暗殺者が殺される事があっても復讐しに仲間を送り込む様な事はしなかったし、暗殺者が足を洗っても、仲間を送り込んで殺す様な事もしなかった。
代わりにその業者にとって大事な事は、暗殺者が業者に対して負っている「借金」を返済したか、という事だった。
私を含め、他の者もその業者に借金があり、それを返す手段としてやらされているのが暗殺業だっただけ。
武器や道具、潜入の為の身分や地図なんかは必要に応じて用意してくれるが、暗殺者自体は素人に毛が生えた様なものだ。
『シャドウ』を筆頭とするプロの暗殺部隊とは格が違いすぎる。
私の借金は、後5人程殺せば返済出来る程の金額になっていた。
しかし、私は好きな人の手を取りたくて──暗殺でなく、花屋で儲けたお金を納める事にしたのだ。
花屋の微々たる儲けでは借金返済まで、多分5~10年はかかる。
それでも、私はもう依頼は受けないと決めたのだ。
しがない公務員なんだけど、と笑って言った彼の横で、普通の花屋です、と笑って言いたくて。
一生消える事のない罪を背負いながら、それでも彼の横にいたかった。彼がそれを望んでくれる間だけでも。
「お姉ちゃん!今日も枯れかけのお花、あるかなぁ?」
地元の子供が、店にやってきた。
「こんにちは、リーン。あるよー、ちょっと待っててね」
赤茶けた髪にそばかすの可愛いリーンは、余り豊かではない家計の為、そして働き詰めの母親を少しでも助けたいと、初め私の花屋の、枯れかけの売り物にならない花が欲しいとお願いをしに来た。
私は不憫に思って廃棄する花を渡していたが、二束三文にもならないので、どうせならドライフラワーにして加工してから売ってみた方がお金になるかもと提案したのだ。
以来、なつかれてはいたのだが──……
今日はまだリーンが来ないな、と思っていると先日の紳士がやってきた。
「レディ、ブルー・ローズはまだかな?」
口髭を蓄えたその紳士は言った。
手にしたドライフラワーと、赤茶けた髪を見せながら。
私を動かす為に、リーンが囚われたのだと、瞬時に理解した。
「……近々、入荷致します。少々、お待ち下さい……」
私は、お店の外に回り、一旦閉店にする。
暗殺業という裏稼業をするのに、極力他人と関わる事を避けてきた。
けれど、私を好きだと言ってくれた彼と、リーンだけは、必要以上に近い距離感だった。
だから、狙われた。
まだ10歳の、母親想いの優しい子が。
依頼主への怒りもあったが、それよりもリーンを巻き込んだ自分が許せなかった。
依頼を受ける代わりに、リーンは即時無事に帰宅させ、手を出さない事を約束させた。
リーンが家に到着したところをその男の馬車の中から確認した後、私は本当の依頼主の元へとそのまま案内された。
──そして彼やリーンとは挨拶も出来ずに、今私は、依頼主の代わりに暗殺者……処刑執行の時を待っている。
☆☆☆
依頼主曰く、私が殺されても、『シャドウ』を殺しても、どちらでも良いという。
私が殺された場合、依頼主が殺された事にしてしばらく身を隠すのだろう。
『シャドウ』を殺せば、ある意味依頼主は最高の名声を手に入れる事となる。
……それにしても、暑い。
緊張もあって、喉の渇きが酷かった。
外で全く喧騒がないという事は、まだ多少時間に余裕があるのだろうか。
私は、少しだけ水を飲もうと、ベッドサイドにある水さしを取る為に起き上がった。
布団をどけて、ベッドから足をおろす。
ちょろちょろちょろと、水さしからコップに水を入れていた時の事だった。
「──ねぇ、愛しい人。困った事があったら何でも言ってと、言ったのに。……大丈夫でしたか?遅くなってすみません」
「きゃ………っっっ!!」
後ろから、水さしを持った状態で抱きすくめられた。
混乱した頭で、何とかその腕から抜け出そうともがく。
(毒針は、枕の下………!!駄目だ、届かないわ)
届かないどころか、指の先しか動かせない。
しかし、次の瞬間私は少し冷静になった。
(……『シャドウ』ならば何故、私を殺さないの?何故、こんな……拘束?するだけなのかしら……)
それは、拘束というのには些か甘過ぎた。
『シャドウ』の実力があれば──背後にいた事に全く気付かなかった──私なんて、あっという間に切り捨てられただろう。
それをせずに……縛り紐すら用いず、後ろから強く抱き締められているこの状況が、理解出来ない。
それに……
「今日は大変だったね、お疲れ様でした。……あぁ、貴女に触れて……こうして抱き締めているなんて、夢みたいです。貴女の香りがしますね……」
耳を、優しい声がくすぐる。
……毎日聞いた、声。
私は、震える声で、尋ねた。
「………な、んで貴方が、こちらに………、オスターウォルド、さん……」
首だけ回して、本当に彼かどうかを確認しようとする。
けれども、相手が私の肩から首にかけて顔を埋めている為に、髪の毛しか見えなかった。
……彼と同じ、長めの黒い髪。
「お仕事でしたが、先程終わりました。貴女がいるから、張り切ってさっさと片付けてきました」
にこりと微笑むオスターウォルドさんは、公務員だった筈だ。
公務員が、こんな時間にお仕事はないだろう。
……まさか、オスターウォルドさんは、依頼主の娘と知り合いなのだろうか?
──夜中に、ノックなしで部屋に入ってこられる程の、仲?
「………アナベラさん。今、何を考えましたか?凄く勘違いしていませんか?」
「………勘違い、してませんっ………」
「なら良いですが」
「あの、私もオスターウォルドさんと同じく、お仕事中なので……ここは危険ですから、直ぐにこのお屋敷から逃げて下さい」
オスターウォルドさんは、私を拘束していた腕を緩め、今にも落としそうだった水さしを持ってくれた。腰に手をまわされたかと思えば、くるりと回転させられて、正面から見つめあう形となる。
後ろで水差しが置かれた音が、コトンとした。
黒服に身を固めたオスターウォルドさんが格好良くて、吐息がかかりそうな程に顔も近くて、そんな場合ではないのに胸が高鳴る。
「何故?ここはもう、危険ではないですよ?」
「あの……えっと……」
何と言えば良いのだろうか。『シャドウ』がやって来る、なんて話せない。
……あれ?
「あの、オスターウォルドさん。この部屋の前には、沢山の護衛の方がいた筈ですが……」
外にも警備が。
「眠ってもらっていますよ」
「……あの……??」
「もしかして、まだわかっていない?私は先程、こちらに住む女性を片付けてきました。……貴女との、楽しい時間を早く過ごしたくて」
オスターウォルドさんは、片手で私の腰をホールドしたまま、もう片方の手で私の手をそっと持ち上げると、その手の甲にキスを落とした。
「3年前、貴女と出会ってから、貴女が私の横に並べるまで堕ちてくるのをずっと見ていました。……もう、良いでしょう?アナベラさん。シャドウである私と、可愛い暗殺者の貴女。とてもお似合いだと思うのですが」
にこりとした微笑みは、いつもと変わらない。
変わらないのに………私はその瞳の奥に潜んでいる淀みを理解して、震えだした。
☆☆☆
私がオスターウォルドさんと出会ったのは、初仕事の終わった後だった。
3年前の、15歳の時。
私は、ターゲット行きつけの食堂に客として潜り込み、店員と護衛の隙をついて、飲み物の中に毒を入れて店を後にした。
自分の仕出かした事が恐ろしくて恐ろしくて、ターゲットが本当にその飲み物を口に含んだかどうか、死んだかどうかなんて見られなかった。
店を後にした、というより、その場から逃げ出したのだ。
逃げ出した私は、自宅近くの公園の水道で、ずっとずっと手を洗い続けていて……その時は自分の行動をあまり深く理解していなかったが、私は自分のした事を洗い流したかったのだと思う。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
その時声をかけてくれたのが、オスターウォルドさんだった。
「オスターウォルドさん……いつから、知って………」
声が震える。
身体の震えも止まらず、オスターウォルドさんから優しくベッドに座る様、促された。
背中をさすってくれる仕草は、その優しさは、初日に会った時と全く同じであるのに。
「いつから?最初からです。私はあの日、偶然あの店にいました。貴女が挙動不審だったのでのんびり観察していたのですが、おっかなびっくり毒を入れていたから微笑ましくて。貴女の後をつけて、声を掛けました」
「………」
声を失い、血の気が引いた。
「貴女の所属を調べあげて、ターゲットを確認しました。あそこの団体は本当に管理が杜撰ですよね。……それで毎回、きちんと貴女が任務を遂行出来たか、見届けていましたよ」
まるで、保護者の様に。子供の成長を喜ぶかの様に、彼は話す。
「3回目と、7回目は少し危なかったので手助けしてしまいましたが……それ以外はきちんと一人で頑張っていましたね」
3回目は、逃げた時に追いかけられた。
7回目は、逃げずにその場にいたが、容疑がかかって一度取り調べを受けた。
「………アナベラさん、大丈夫ですか?顔が真っ青ですが……少し、横になって下さい。ああ、これは危ないので退かしておきましょう」
オスターウォルドさんが、枕を持ち上げて難なく毒針をつまみ、ポイと何かの液体が入った瓶に入れた。
おかしな話だが、その時、本当に彼がシャドウだという事を実感した。
言われるがままに、横になる。
「貴女が殺した人数は、私には到底及びません。しかし、10人も殺せば私を否定する事も出来ない……なのでひとまず、何も言わずに貴女に告白をしてみました。貴女が私に惹かれているのはわかっていましたから」
「………っっ」
ぷい、とシャドウと反対に顔を背けたが、シャドウの手が目の前に置かれてドキリとする。
「けれども、貴女は私の告白を断った……」
シャドウは上半身を屈めて、私の鎖骨に口付けた。
チリリ、と口付けられたところが熱を持つ。
「……アナベラ、貴女は私がシャドウとわかっていながら、こうも容易く私にその細い首を見せるのですね……」
シャドウを見た者は、殺される。それは誰でも知っている事。
「私では、貴方に勝てません。貴方がやろうと思えば、私は1秒後には死んでいます」
「ええ、貴女は私に勝てない。でも、私には貴女を殺せない……」
横に向けていた顔を戻してシャドウを見ると、困った様な微笑を浮かべていた。
そんな顔、ずるい。
「暗殺者である事に負い目を感じた貴女は、私と付き合う事を拒んだ。私は、貴女の為にシャドウである事は伏せて何度かチャレンジしましたが……それでも、貴女が首を縦に振ることはなかった」
シャドウの顔が近付く。初めて見せる──情欲。
「ならば、逃げられないと思わせてでも、貴女を手に入れる事にします……私の愛しい人、アナベラ」
シャドウが私の眦をペロリと舐めた。
そこで初めて私は、自分が一筋の涙を溢していた事を知る。
そのまま夜着を脱がされそうになり、慌てて言った。
「こんな、こんなところで何を……っ!」
ここは他人の部屋だ。誰がいつ入ってくるとも限らない。
「この部屋の持ち主はもうこの世にいませんし……口髭を生やした男も始末しました。このベッドはスプリングがきいていてとても質が良さそうですし、ホテル替わりに使おうかと思いまして」
顔がカッと熱くなる。
「それに……ずっと、我慢していたのです。もう、待てません……」
シャドウの顔が再び近付き、今度は唇を塞がれた。
瞼が閉じて、長い睫毛が影を作る。
「んふ………っ、んん…………っっ」
口を離して息を求めようとしても、両手が頬に添えられていて、動かせない。
キスだけで、何も考えられなくなって、身体の力が抜けた。
「は、ぁ………」
やっと離れた唇が、名残を惜しむかのように優しく噛み、去っていく。
「……そんなに蕩けた顔で見られると、止まりませんね」
はぁ、はぁ、と私が息を整えている間に、シャドウは黒服を素早く脱ぎ捨て、横たわる私の上に股がった。
「……!!傷、が……」
シャドウの裸は、とても筋肉質で綺麗だったが……そこには、過去に負った傷がいくつも見てとれた。
「全て、私が未熟者だった時の……昔のものです。大丈夫ですよ」
シャドウは、思わず傷をなぞる様に触れてしまった私の手をとり、そのまま手のひらにキスを落とす。
「アナベラ、貴女の体も、私に見せて下さい」
「……」
そのままそっと夜着を捲られたが、今度は止められなかった。
「あぁ……綺麗です」
ぎし、とベッドが軋む。
シャドウの体力は果てしない。
その後、滅茶苦茶に抱かれ続けて。
──気付けば、私は自室のベッドの中にいた。
☆☆☆
「アナベラさん、こんばんは」
「……こんばん、は」
昨日の事は夢だったのかな?と思う程に、オスターウォルドさんはいつも通りだった。
「白い薔薇を、30本花束にして下さい」
「……はい、少々お待ち下さい」
初めて告白された日を思い出す。
「お待たせ致しました、こちらでよろしいでしょうか?」
「はい、おいくらですか?」
「ええと……」
お会計を済ませたオスターウォルドさんは、花束を私に渡しながら言った。
「アナベラさん、貴女が好きです……私と付き合って、下さいませんか?」
「……」
「アナベラさん」
オスターウォルドさんは、私の耳の傍で囁く。
「……貴女は、私には勝てません。私からは、逃げられない」
ば、と離れてオスターウォルドさんを見ると、いつもの微笑を浮かべている。
「アナベラさん、お返事を頂けませんか?」
私は、決めた。
「……はい、喜んで」
シャドウである貴方の横に立つと。
私と同じ、許されない罪を背負っている貴方と共に、ずっと──
数ある作品の中から発掘&お読み頂き、ありがとうございました。