体は資本
「ね、お話もうおわった?」
暗い雰囲気を壊すように軽快な声が聞こえる。
ゆっくりと近づく足音、傘が雨粒を流している。
「なんだよ、次から次へ」
ランドルは声の方に振り向く。
「マキナさん?」
「困ってそうなんで、助けにきました」
左右に揺れる左手をこちらに振っている。
呑気な様子で軽快に水溜まりを避けながら彼は現れた。
「人形屋」
僅かにドスの効いた声色からは怒りとわずかな困惑が感じられる。
「やぁ、ランドル。ボスはお元気?」
旧友への挨拶のような、内側に踏み行った態度からは親しさすら感じる。
それに反してランドルの態度は眉間を寄せ、警戒を表している。
「てめぇ、何のようだ」
「何の用って、その子、僕のつれなんだけど、返してもらえないかな?」
ランドルが目を僅かに開く、その後、ニヤリと口元を歪めた。
「いいぜ」
「良かった」
「ただし条件がある」
私の首筋にひたり、相手はナイフを持っている、その腕を横に押し引く、もしくは、喉にナイフを突き出す、それだけで首筋から血が溢れ、命を絶てる。
先ほどから感じていた恐怖が何倍にも重なり、のし掛かる。
血液が冷えあがり、喉が渇く、ゴクンと喉下を震わせ、絶望を味わう。
吐きそうになる状況に、涙が溢れる。
「何のまねだい?」
マキナさんが怪訝な声色で訪ねる。
「こっちに戻ってこい、それならこの女は解放してやる」
「まだ僕が必要なわけ?」
「ああ、必要だとも、元奴隷、お前は特段上等だ、一人で100人分の仕事が出来る、分かるか?100人の人件費が浮く、立派な労働力だ。
さぁ決めろ、戻ってくるか、こないか」
二択に対してマキナさんは間髪入れずに応えを出した。
「戻らない」
「じゃあ仕方ないな」
肉を抉る鈍い痛みの後にナイフから血が飛び散った。
「あ」
首から血が吹き出て、瞬く間に意識が薄くなる。膝から崩れおち、全身が地面に貼り付く。
生きられない事を悟った。