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時計仕掛けのエンドロール  作者: みたらし団子
12/15

マスターは営業を忘れない

寂れた風景は冷めたビールの味がする。

八百屋の商品棚の横で女はバッグの中で熟成した黄色をモグつく、背中には閉店の文字。


隣の白い肌を真夏の太陽が炙る、持たされたスーツケースが重そうだ。


「バナナの皮は最高にハイな気分になれるって噂知ってる?」


「何だって?」


「だからさ、薬を決めるより気持ちいいんじゃないかって話さ」


「…モンキーになっちまったのかい?マスター」


「バカ、モンキーはああ見えて頭がいいのさ、面はしらないけど」


「それで、どこへ向かうのかな?」


「どこさね。いや、分かってるんだ、そう手紙を見よう」


鞄の一番大事な部分に触れ、そこにある葉巻を取り出す。

サイドポケットからはしわくちゃになった手紙が出てきた。


「イーストレッジにて待つ」


「そこは…遠いね」


「近くに町がある、コーンスターチ」


「8日はかかる」


「荷造りを済まそう、足りる?」


四次元ポケットから六角に刻まれたダイヤ、純金の指輪、他にもゴロゴロと出てきた。


「城が一晩借りられる、けど残念、ここにそんな物はない」


「困ったね、備蓄も後少しなんだ」


「スタークならなんとかなるかもしれない」


「誰?」


「問屋さ、奴隷商のね」


「貧相なものでも食べさせる気?」


「文句で腹は膨れないよ、少しは我慢を覚えてくれ、お嬢さん」


「黙れ、オタク」


◇◇◇


喫茶のカウンター、店内にはふくよかとは程遠い痩せきった見た目の老婆、排気口に糞が詰まった者共が今日の天気の話をしている、側に仕える子供は灰皿代わりらしい。


「マスター、珈琲くれない?とびきりハッピーなやつ」


「当店には酸味とコクのモカ、統一されたブラジル、上品な香りのマンデリなどがあり…」


「もういいよ。私に合うのはないの?」


「そうですね、キリマンジャロなどはいかがでしょう、きっと気に入ります」


「それにしよう」


カウンターから洗練された所作でカップが音を立てることなく運ばれてくる。


一口、どうも泥の味は分からない


「珈琲の味だ」


マスターは営業を忘れない。


「1人、子供が行方不明でして、お客様は何かご存知ありませんか?」


「死んだよ、雨に撃たれて」


「…………」


「大丈夫、きっと空で羽を生やして待っているから」


◇◇◇


石畳の上は吐瀉物ヘドロ一つ落ちていない。レンタルオフィスは南の位置にある、昔の名残から街は直通に整備されている、西から歩いて

数キロ、東の方向はいつも葉巻の煙が漂っている、かの有名なエリック・ケーンが建てた建造物も終末感が漂う、2階に上がって、赤色のカーペットを踏みしめると部屋が見えてくる、今にも折れてしまいそうな細身の身体、カラー剤に侵された黒髪は光沢を保ちランタンの光を反射している、男は新聞の文字を追うのを止め、丸机に眼鏡を、ついで目頭を押さえる、つり上がった瞳と薄く淡い唇、男は眠るようだ。


西から東に歩くのを止めて、南に戻る、真っ白なペイントが荒廃した風景に目立つ、アートセンターの中には一つのペンがある、ペンにはこう刻まれている『1994年、ボスニアは殺風景』


「惹かれてるのよ」


絵師が口を開いた。


「誰に?」


「石に」


「石ころに惹かれてるって?よしてよ」


「捨てたほうが、いい、じゃなきゃ死に急ぐよ」


「水晶体にでも映った?」


「そう、悪いものが見える」


「冗談にしてよ。これは私が持ってなくてはいけないもの」


「なら人形は棄ててはダメ」


「優しいあなたは好きよ。わかったわ」


天使と悪魔の像が蛇を美味しそうに頬張った。


◇◇◇



兎は豆が好きなのかウイスキーが好きなのか、分かるには店に通わなくてはならない、しかし店はこことは違うどこか、可憐なウェートレスが絆を育む街にある。


「どうして着いてくる事にしたの?」


「邪道に進むと蛇が出る、聞いてみる事にした、人形ぼくを作った理由を」


「物を作るのに楽をしたい以外の理由があるの?」


「人ではないのならその前提もなりたたない」


「そうね、魂を作るなんて芸当、人様には到底できそうにない」


「僕は、ただ知りたいんだ、自分を」


彼女の口はまだ閉じている。


「生きているだけで無意味な人生におさらばを、さ」


「私は逢いたい、大切な人に、まずはそれから」


二人は杯を交わす


「君を見殺しにしたこと、怒っているかい?」


「怒っている?一生恨む、あなたにはその力があったし、多分、子供を助ける力だってあった。

私は分からない、理不尽なこの町も、子供を大切に思う気持ちがあるのに見捨てる決意をしたあなたも」


「運命線が見えるよ、君のは見えなかった、だから殺した」


「やっぱりイカれてる」

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