表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

偽物の僕が偽物の君を本物に戻すまで

作者: 有瀬ひつじ

 魔女は言った。

「やめてあげてもいいのよ。お前がそこであたくしに跪き許しを乞うならね。できるかしら、プライドの高いお前に? たかがその小娘一人のために」

 僕には出来なかった。

 プライドか。否定はしない。僕は魔女に勝てる自信があった。負ける気なんて微塵もなかった。僕は敢えて戦いを挑んだ。

 だから。

 夢にも思わなかった。

 負けるなんて。

 逃げるなんて。

 魔女は笑った。

「あたくしの計算に間違いはないのよ。お前だってただの駒に過ぎない。逃げても無駄だと解っているでしょう。あたくしの可愛いお人形さん」

 僕は必死にその場を逃げ出した。

 森の中を走る。

 小さな少女を抱えて。



 僕の人生はずっと灰色だったのに、君に出会って眩しいほどに色鮮やかになった。

 魔女に造り出された僕は、魔女の言うことにただ従うだけの下僕だったのに、君に出会って自我が芽生えた。

 君の美しい金髪と青い瞳が頭から離れなくなって、僕は魔女の呪縛から解放されたくなった。

 僕は、魔女から自立することにした。

「できるものならやってごらんなさい。あたくしに逆らえる者などいないのよ」

 魔女がパチンと指を鳴らすと、突然目の前に人間が現れた。

「ルアン!」

 名を呼ぶと、ルアンは僕を見た。僕が愛した君は、囚われの身になりながらも、僕の身を案じてくれる。

「グレイ。心配ないわ」

 ルアンは微笑んだ。

「よく笑えること。お前の所為で、目の前で家族を奪われたというのに」

 魔女の言葉に怒りが沸き起こった。魔女は自分の思い通りにならないものは何でも壊す。造り出した下僕たちを使って、壊させる。僕もかつてはその一人だった。

「そうねえ、お前があたくしに謝るまで、少しずつこの小娘の若さをいただこうかしら。さあ、今謝るなら許してあげてもいいわよ?」



 隠れている馬車の荷台。腕の中で、少女が目を覚ました。

 不思議そうに僕を見上げている。

 僕は赤い髪と赤い瞳を捨て、少女と同じ金髪と碧眼を造り出し、自分の姿を変えた。

「グレイ」

 君の声が聞こえた気がした。美しい声がその名を呼ぶことは、もうない。

「僕はブルースだよ、君はグリン」

「ぶうー? ぐい?」

「そう。上手だね」

 もう彼女はルアンではない。二十年分の命を吸い取られ、幼くなってしまった少女、グリンは大きな青い瞳を輝かせて微笑んだ。

 決意がようやく固まった。

 僕が必ず君を元の姿に戻す。君を守る。


 君は生きている。今はそれでいい。

続きを長編で書こうと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ