その4: 救世の巨人…て、なんぞや…?
ここは東京某所マンション最上階…
2人の男どもが、楽しく呑んでいた。
ソファーの前のローテーブルには、ワインの瓶と、グラスと、チーズ、ナッツ等のツマミが乗っていた。
なにげない世間話にひとしきり花を咲かせ、年代物のシャトー・ラトゥールを半分ほど開けた所で、親友殿はさて、と切り出した。
「大事な用があるんだろう?」
親友殿はニヤリと笑った。全く食えない奴だ。彼はこの場において自身が最重要人物であることが分かっているのだ。
とはいえ、霧江冬吾は彼との付き合いも長い。この横柄さは寧ろ彼のチャームポイントだ、と霧江は思っている。
「そうだ。この…」
と、彼は例の赤い本を取り出し、
「こいつを読むのを、手伝ってほしい。」
親友殿…阿田巻三春はニンマリとした。
「気になるよな?…そう、中世の、何やら魔術っぽい内容の本だもんな。」
霧江は驚き、
「そんな本だったのか?!」
三春は、得意げな笑みを浮かべた。
「今日、お前が俺に上等なワインを飲ませたのは極めて素晴らしい判断だ。天啓というものは、しばしば少量のアルコールとともにもたらされる。」
ワインの瓶半分が少量というのかは疑問ではある。もっとも霧江もご相伴にあずかったから、実際に三春が飲んだ量は、瓶半分よりは少ないが。
三春はワインをを一口、くぴっ、と飲んだ。
「タイトルは…ええっと…『よくわかる召喚術〜救世の巨人を呼び出そう〜』みたいな〜?(笑)」
「はぁぁぁぁぁ?!」
霧江は大振りのワイングラスをクルクル回しながら三春の解説を聞いていたのだが、驚いた拍子に赤い飛沫が、ちょっと飛び散ってしまった。
「えっと…そういうタイトルだったのかい?」
アルカンターラのソファに垂れた水滴を慌てておしぼりで拭きながら、霧江が訊いた。
三春は、分厚いオランダ語の辞書をローテーブルに置いた。
「そうとしか訳せないんだから、どうもこうもない。こいつに直訳が載ってないのが悪い。」
と、三春はオランダ語の辞書をポンポンと叩いた。
「文句は辞書の著者に言ってくれ。」
「は、はあ…」
「お前の推測通り、表紙の文字はオランダ語だったよ。ただしちょっと昔の言葉だったので調べる必要があった。近頃は本当に便利だな。外国語の古語がネットで調べられるんだぜ。ほら…」
三春はちょいちょいと検索して、霧江にスマートフォンを手渡した。霧江は画面を覗き込んだ。
『選ばれし小人のための、救世の巨人召喚術』
「…なんだこりゃ?」
余りに突拍子もない題名に、霧江はまたしても訊いた。
「なんかの物語とかの類いじゃないのか?」
三春は、ローテーブルのナッツとチーズをまとめて口に放り込んだ。
「んぐんぐ…それを確認…ごくん…する為に……くぴっ…ぷはぁ…本の全容を見る必要がある」
「食うか喋るかどっちかにしろ。」
「すまんすまん。正直、お前のいう通り、何ページか写メで送ってもらえばよかったよ。でもほら、この…表紙の雰囲気とか、色褪せた金文字の様子とか、これはまさしく怪しい本に違いない。…ちょっと失敬、」
三春は赤い本を手に取ると、最初のページをめくった。
「あれ?…おお。中身は、ちゃんと現代でも読める活字…古語じゃないオランダ語だ。古語だったのはタイトルだけみたいだ。ふむふむ…」
三春は赤い本を左手に開いて持ち、右手で分厚い辞書をぱらぱらめくった。
「オランダ語はなぁ…あまり良い電子辞書がなくって、結局、辞書が紙なんだよなぁ。」
そうか…とうなずく、霧江。
「それで、訳すのに、どんぐらいの期間かかりそうだい、三春?」
「んー、そうだなぁ。ガチでやるとすると、1カ月だけど、俺も一日中、コイツと向き合うわけにもいかない… 1つ理解して欲しいのは、俺はあくまで作曲家で、お前のような言葉の専門家じゃないんだ…ならば、」
「ならば?」
「…3カ月ぐらいじゃね?」
三春は、さらっと言ってのけた。
「さ、3…ヵ…月…」
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました☆
赤い本…その正体は、魔術書?
謎が謎を呼んで、どんどん続きます〜☆
追記: なんか、書けば書くほど霧江くんがイヤミな奴になってゆく…こりゃ平井くんに嫌われるわけだわwww