ああ、タピオカはどんな時も美味しく感じる。
レッツふえたピ!
彼女と出会ったのは、三丁目商店街の秋祭りだった。三丁目商店街、そこは僕が住んでいる二丁目商店街と、敵対する地域。敵情視察がてらに紛れ込んだら…………、出会ってしまった。そして今……………、育った場所を捨てて暮している。
町に流れるコンクリートな川底、ぬるりとした水が流れる側にたつ、四丁目のボロアパートの2階の一室で僕達は暮している。
「何を作っているの?」
休日の朝、彼女が何かをせっせとこねている。出会った、恋した、燃え上がった彼女と僕、親の反対を押し切り駆け落ちをしたのだ。そして転がり込んだボロアパート。僕達の愛の巣。
前のぬるりとした川には、この地に住むタピオカマルガエルが、その濃い茶色の表皮をツヤツヤとさせて、ゲコゲコと鳴いている。透明なチューブに並ぶ卵がニュルりと水底に漂っている。
「うふふ、タピオカまんじゅう。目玉がタピオカ!」
「タピオカまんじゅう?」
何を言い出すのやら、彼女は『元祖タピオカドリンクハウス』そこのオーナーの一人娘だ。ちなみに僕は『本家タビオカドリンクバー』の跡取り息子。今街で評判のタピオカ戦争の当事者二人だ。そして対立するお互いの親の被害者でもある。
「カラメル色素の黒いタピオカが、ホント、カラフルは認めない」
「ふ、スイーツは見た目が勝負」
「スィーツではない、タピオカは飲み物だ、喉越しとか………見た目?美味しそうであればいいやんか!」
「ミルクティーに黒いタピオカ、こちらはフレッシュジュースにかわいいタピオカ、スィーツだろう」
三丁目の商店街会長の元祖タピオカドリンクハウスの経営者彼女の親、それに敵対する、二丁目本家タピオカドリンクバー、経営者並びに商店街会長の俺の親。この無意味な言い争いを何年も繰り広げた挙げ句、商店街上げての戦いになっている。
ゲコゲコ、ゲーコゲコタピオカマルガエルが鳴いている。ニュルリと卵が水底を動く。
「タピオカまんじゅうみたいなの!新商品!四丁目からタピオカ本舗、店を立ち上げるの。そして売り上げを伸ばし、利権をコッチに取る」
「はいいい?どういう事?それにまんじゅうって………何!」
「四丁目の川に住んでるカエルの卵、目玉をタピオカにして、タピオカまんじゅう、かわいい!」
「え気持ち悪!お前のタピオカって………カラメル色素だろう?せめて僕の天然色素のカラフルにした方が良くない?」
カラメルと乾燥タピオカを用意している彼女に、センスないよな、と何気なく言った一言が………ひとことが。
彼女との決別になってしまった。
ゲコゲコ、ゲーコゲコ タピオカマルガエルが鳴いている。ニュルリと卵が水底を這う。目玉がキョドキョド動く。
「はあー?タピオカの色は黒!カラメルね!あなたの家のタピオカ、後から出てきたのに文句つけないで!」
「はい?に何言ってんだよ、そっちが後だろ!そもそも真っ白なんだぜ!鹿のう○こみたいなものより、うちのが見た目がいーだろ」
「何!元祖にそんなこと言うの!信じられない!」
「ああん?本家に言いがかりつけんなよな!」
二人の愛の巣は淡くも消え去った、彼女は家に帰り、僕もまた家に帰った、お互い打倒本家!打倒元祖!と胸に誓って。
ゲコゲコ、ゲーコゲコタビオカマルガエルが鳴いている。ニュルニュル卵、しっぽがピコピコ蠢く外にチョロチョロ出てくる。
可愛さを追求する路線!インスタ映えを追求することにした本家タピオカドリンクバー!売り子も僕の好みでメイド服を導入し、ニッコリスマイルマニュアルも徹底した。
それを眺めて彼女は笑う。わざわざ男連れで、敵情視察に来た彼女が上から目線で話した。
「フ…………、えらいお高いタピオカやん、今は夏、しかし冬場はどうするねん、うちはホットにも出来るミルクティー、各種フレーバー紅茶そして今回導入したカフェオーレ、アイスも売上バッチリ!ふふふふん」
「は?冬場、クククク、ホットと言えばレモネード、甘酸っぱい青春の味の白い乳酸菌飲料を開発中さ!黒たまなんかに負けるものか!」
「ふ、白たま…………、開発中?間に合うの?フン!そんな事はどうでも良い、こっちは大手流通町のほっとステーションと手を組んだ事を伝えておく、ご紹介しますわ、ダーリンですの♡私達婚約しましたの、ホホホホ」
はぁあぁ?彼女が連れていた男は、街のあちこちにあるコンビニの統括マネージャーの孫ではなく、マネージャーそのものの爺さん。
「な、孫じゃないのか!」
「商品開発には金、これで元祖がこの世を席巻!」
「ふほぉ、ふほぉふほぉ!金は力なり」
ジジイが彼女の肩に手を置き、高笑いをしやがった!クソぉ!負けるなカラフルタピオカ!僕は僕は…………この展開をどう崩すか、必死に策を練る。
ゲコゲコ、ゲーコゲコタピオカマルガエルが鳴いている。ピコリ、ピコリと外に出るおたまじゃくし達。小さなカエルがスイスイ泳ぐ。
「親父!あの女、ほっとステーションのスケベジジイと手を組んだ!どうする?ああ………アイツいい身体してんだよ、くぅぅぅ!憎しジジイ」
未練がタラタラ残っている僕は、会長である父親に相談をした。というより泣きついたのだ………。親父は………何かじっと考えていた。そして…………
「決めた!父さんは再婚をする。なので今日からお前が社長だ!」
「はいいい?何突然、そりゃ母さん死んでから随分になるけど、こんな時に?一応息子だから聞くが相手は?」
「言えばお前は反対をする」
「あ?なんだよ、言ってみろよ」
かつての僕が目の前にいた。ガサゴソと『週間スィーツ、甘くてタプタプ』をデスクの引き出しから取り出すと…………あるページを広げた。
「この人だ」
「はあぁぁ?この女社長って!『元祖タピオカ』のオーナーじゃんか!絶対にダメ!親父もそういったろ」
「ああ言った。言った…………さらばだ!あとは任した!お前ならやれる、ご、ごめんさいー!」
親父は………去った、携帯がなる。彼女からだ。要件は分かる。母親がさらばだしたのだろう………。
僕は…………、社長室のゆったりとした椅子に、深々と腰を下ろす。置いてけぼりの週刊誌を手にとり、それを読む。親父と女社長と対談記事だ。笑顔の二人が握手をしているフォト、キラキラと輝く二人。それを見ていて思いついた。
「コレがきっかけか…………おっさん恋に落ちたか…………そうか、恋するタピオカ、黒たまには出来ないな、よし!この路線で行くぞ!」
会議をするぞ!と僕はパソコンを開き、商品開発部並びに上役達にメールを飛ばした。秘書が慌てて部屋に入ってきた。
「ああ、親父は………駆け落ちした。説明は僕から、それとレモネードのタピオカを持ってきてくれないか?喉が乾いてね」
はい、わ、わかりました。では坊っちゃまが今日から社長で?と聞いてくる彼にそうだよ、と答える。ひと呼吸の沈黙、大きく頷く優秀なるブレーンの彼。
あちこちに知らせねばなりません、飲み物をお運びした後に、抜かりなく運んでおきましょう、と一礼をし出ていった。
「おまたせしました」
直ぐにそれが運ばれてきた、彼は慌てつつも落ち着いた風を装い、再び部屋を出ていく。僕はプラスチックのカップのそれを眺める。
甘酸っぱいレモネードにカラフルなタピオカが沈んでいる。そうだな………フルーツの輪切りなんかを載せたらいいかも、夏場はかき氷もいいか。あれこれとこの先の展開を考えた。
ズズズ。ズズ、モグモグ………。うん、美味しい仄かに甘みが広がる。やっぱり飲み物ではない、食べ物だ。
僕はそれを目の前に掲げると誓う!
まかせとけ!僕は、僕は…………!リア充などには決して負けない!僕の全ては!君に捧げるのだ!
「カラフルタピオカ!君ならカエルの卵には見えない!」
ゲコゲコ、ゲーコゲコタビオカマルガエルが鳴いている。ニュルニュル卵、孵った孵った、四丁目の川の底、産まれたおたまは、手足化はえて、しっぽが縮まり、
今は立派なタピオカマルガエル、ゲーコゲコゲコ。
●お、わ、り●