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説明②

「他に説明することは……ないな。なにか質問はあるか?」


「あの、クーラーは使ってもいいですか?」



 今も蒸し暑くて、使いたいくらいだ。窓を開けて風を通そうとしても、扉を開けるわけにはいかないので、風通しが良くない。電気代の節約とか言われたりしないだろうか、と少し不安になったが、梅田は即答した。



「ばんばん使え。熱中症にならないように調整しろ。水分補給はこまめにやれ」


「は、はい」



 強い口調と真顔に若干引きながら、頷く。



「他に質問は?」


「今のところはとくに」


「それじゃ、説明はこの辺で。なにか質問があるときは、魅瑠経由で俺に連絡してくれ」


「分かりました」


「ああ、俺の机は駄目だが、他のところは弄っても別に問題ないから、勉強に使いたいんなら使ってもいいぞ」


「えーっと……ありがとうございます……?」



 使ってもいいぞ、と言われても勉強で使いそうなのは、地球儀と本棚の中に収納されている本くらいで、他は何なのか見当がつかない。筒のように丸めた大きな紙も、一体なんなのか。見るだけでは分からない。


 戸惑っていると、梅田が立ち上がった。



「そろそろ朝の会議の時間だから、出る」


「は、はい」


「昼休みは様子見にここに来るからな」


「分かりました」


「それじゃ、自習頑張れよ」



 そう言って、梅田は社会科準備室を出た。


 息を吐き捨てて、改めて社会科準備室をぐるりと見渡す。日当たりが悪いのと窓が小さいのが原因なのか、朝なのに薄暗い。



(明るいの、苦手だから別にいいけど)



 ゆっくりと立ち上がる。クーラーのリモコンが梅田の机の上に置かれているのを、さっそく発見してクーラーを付ける。


 とりあえず勉強をする環境は整った。涼しくなったら、勉強をしよう。


 窓を見やる。ここは三階だが、念のためカーテンを閉めたほうがいいだろうか。


 そう思い、窓辺に向かい、なんとなく見下ろす。位置的にグランド側に面しているので、グランドがよく見えた。朝のグランドは野球部やサッカー部、陸上部が各々練習しているが、グランドに練習している生徒は見当たらない。だが、制服を着て鞄を背負っている生徒がちらほらいた。



「もう朝練が終わった時間か……」



 ということは、魅瑠と瓜谷も朝練が終わったのだろうか。なんだかしばらくの間、二人に会っていないような気がする。


 無性に会いたい、という程でもないが、二人と話したかった。



(錦たちとも会いたいな……錦には迷惑と心配を掛けたこと、謝らないと)



 退院して家に帰ったあと、一応ラインで謝って、そんなことより大丈夫だったか、という返事を貰ったが、直接謝っておきたい。


 今日は部活あるかどうか訊いて、あったら放課後に行ってみよう。彼は部活に入っていないから、放課後になってもずっと学校にいることはないだろう。


 顔を合わしたくないのは、あちらも同じ。前のように、放課後に図書室にいることなんて、ない。


 胸に鋭い痛みが走る。どうして、こんなにも痛むのだろう。


 彼が自分に会いたくない。そう考えるだけで、胸が捩れ切れそうになるほど、痛くなるのか。



(だめだ)



 これ以上、掘り下げたら、戻れなくなる。運命の番だから、で片付けられなくなる。そんな気がする。


 心臓がバクバクと音を立てている。苦しくて、蹲った。



(考えるな、考えるな、考えるな)



 これ以上の地獄に堕ちたいのか。これ以上、自分を傷付けたいか。


 自分に言い聞かせながら、頭を振る。彼の姿を消したくて、何度も何度も振った。


 心臓が落ち着いたところで、改めて時計を見やる。



(そろそろ、アイツが登校してくる時間……かな)



 また考えてしまって、頭を抱える。


 会いたくないのに、彼のことばかり考えてしまう。


 追いかけても追いつけるわけがないのに、頭の中で彼の姿を追ってしまう。それが嫌でたまらない。


 まるで、彼を求めているみたいで、自分が惨めになる。求めても、運命の番だからといって彼が手を差し伸べてくれるわけがないのに。


 こんなにも彼のことを考えてしまうだなんて。こんなに彼を連想するくらいなら、素直に学校を休めばよかった。



(いや………………それでも意味がなかったんだろうな)



 家にいたところで、きっと彼のことを思い出しては今みたいになるだろう。病院でもそうだった。


 結局どこにいても、自分は彼の姿を追いかけようとする。自分の意思とは関係なく、本能がそうさせている。



(別にオレは、アイツを、求めているわけじゃ……ない)



 運命の番だからという以上の感情はない。


 ないほうが、ずっと楽に決まっている。


 けれど、そう思い込もうとする自分がいることに気付いてもいて、それが滑稽で、自嘲するしかなかった。

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