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協力者

 魅瑠は家に帰る前に、梅田の家に向かった。今日は家に誰もいない日なので、連絡しなくても問題はない。


 梅田の家は二階建ての一軒家で、三人暮らしである魅瑠の家よりも大きい。なんでも梅田の父親がαでけっこう稼いでいたらしく、その分だけ家も大きくしたらしい。とある理由で離婚し父親が出ていき、現在は母と二人暮らしをしている。


 梅田家の玄関に着くと、魅瑠はインターホンを鳴らして玄関の扉を開いた。普段は鍵を閉めているが、魅瑠が来ると分かっているときは鍵を開けているのだ。


 玄関を開けた途端、唐揚げの良い匂いが鼻腔を掠めた。



「こんにちはぁ! お邪魔しまーす!」



 大きな声で声を掛けると、リビングから「魅瑠ちゃん?」と、梅田の母の声がした。


 靴を脱いで並べてから、リビングに顔を出す。ソファーには梅田の母が寛いでいた。車椅子に乗るほどではないものの、杖がないと歩くのが大変な梅田の母の横には愛用の杖が掛けられていた。


 梅田の母はその杖に手を掛けようとしていて、魅瑠は止めた。



「おばさん、こんにちは~。立たなくていいよぉ。魅瑠がそっちに行くからぁ」


「ありがとう」



 柔和な微笑みを浮かべた梅田の母に、にっこりと笑い返す。梅田の母の向かいにあるソファーに座り、改めて梅田の母と向き合った。



「魅瑠ちゃん、久しぶりねぇ。最後に会ったの、テストの二週間前だったかしら?」


「そうだねぇ。おばさん、足の調子はどう?」


「今日は調子がいいの。だから久しぶりに、公園まで散歩したの」


「おお! 遠出したねぇ!」


「でしょ? しかも公園で撮影があって、見られてラッキーだったわ」


「へぇ。こんな地方に撮影しに来たんだぁ。誰か有名人いたぁ?」


「はっきりと見えなかったけど、ドラマっぽかったかしら?」


「おい、魅瑠」



 キッチンから梅田の声が聞こえて、そちらに視線を向けた。



「あ、慎にぃもこんにちはー! 今日は唐揚げ?」


「それとわかめの味噌汁と浅漬けだ。どうせおばさんたち、今日帰ってこないんだろ? ついでに飯食ってけ」


「わぁい! 慎にぃの唐揚げ、大好きー!」


「ほんと、慎介の唐揚げは美味しいよねぇ」



 梅田の母が同意しながら、くすくすと笑う。



「それはそうと、魅瑠ちゃん。慎介に用があって来たの?」


「ん~、そんなとこ!」


「魅瑠、もうすぐ出来るから、皿並べんの手伝え」


「はぁい」



 キッチンに常備してあるキッチン用の石鹸で手を洗い、食器棚に向かった。






「あ~! おいしかった!」


「お前、食い過ぎだ」


「運動部はそういうものだよぉ」


「今日は部活なかったくせに」



 梅田が呆れた口調で、コーヒーを飲む。魅瑠も淹れてもらったミルクコーヒーに口を付けた。


 夕食が終わり、魅瑠と梅田は梅田の部屋にいた。梅田は椅子に座り、魅瑠は床に敷いてあるクッションに腰を掛けている。



「それで、慎にぃ。協力してほしいことって?」


「まあ、シンプルに言うと、丹羽と久留島が近付かないように協力してくれ」


「う~ん、説明プリーズ!」



 それだけと理由が分からない。確かに元々、丹羽は久留島類と接触しないように気を付けていたが、先生を巻き込むほどでもなかった筈だ。



「詳しいことは言えないが……」



 梅田は少し考えてから口を開く。



「魅瑠は丹羽の過去のこと、どれくらい知っている?」


「え? そんなに詳しいことは……久留島君とは小学生の頃、同じ学校に通っていた時期があったらしい、くらいかなぁ?」


「それくらいか……」



 そう呟いて、悩ましげに梅田が唸り始めた。



「え? それとなんの関係があるの?」


「ちょっと待て。これは俺から言っていいことなのか、考える」


「複雑そうなのは分かったけど……え~……ほんと、なになに?」


「ほんと、ちょっと待て」



 うぅんと唸る梅田に、魅瑠は逆に不安になっていく。

 ここまで悩む梅田を魅瑠のは、滅多にない。余程、複雑な事情なのだろうか。



「じゃあ、うん。かなり省くけど、丹羽はちょっと記憶がなくてな」


「あ、え、そうなの? ていうか、記憶って?」


「小学生の頃の記憶がちょっとない。だからお前は関係ない」


「あ、うん、びっくりしたぁ」



 てっきり、頭痛で倒れる前の記憶が曖昧で、魅瑠に関しての記憶が少し無くなったのかと思って動揺してしまった。



「で、記憶を思い出したけど、久留島とものすごく気まずいことがあったことを思い出してしまったらしい。その影響で久留島と顔を合わせると、精神が不安定になりそうだから顔を合わせないようにしてくれ、とさっき学校に届いた診断書に添えてあった、俺宛の手紙に書かれていた」


「え、診断書届くの早くない?」


「今日退院して、明日から学校に通うらしい。だから急遽、病院のスタッフが届けに来てくれた」


「明後日は土曜日なんだから、金曜日くらい休めばいいのにぃ」


「丹羽はお前と違って真面目だし、成績を気にしているからな」


「それもそうか~」


「……お前は丹羽の爪の垢を煎じて飲め」



 梅田が呆れながら、盛大な溜め息をついて呟く。呟いた内容を無視して、魅瑠は疑問を口にした。



「でもでもぉ。どうして魅瑠に協力を? 他の先生たちと結託したほうが効率良くない?」


「かなり省いたが、あの二人にはすごく複雑な事情がある。大勢の先生たちにはおいそれ話せないくらい、複雑な事情だ。情報がどこから漏れるか分からないし、漏れたらかなり面倒くさいことになる」


「面倒くさいこと?」


「過激派の久留島類ファンたちが暴徒化する可能性大」


「あ~。それは確かに面倒くさいね~」



 とくに五組と二組が凄そうだ。他の学年にも過激派がいるかもしれないので、沈静化は難しいだろう。



「それが一つ」


「もう一つは?」


「たとえ漏れなくても、先生達が明らか様な態度を取ってしまえば、生徒達の間で噂になる。根も葉もない噂で、丹羽が傷付く恐れがある。もちろん久留島もだ。だが、俺一人だけなら噂になる可能性がぐんっと減る」


「ほうほう。でも一人だけだと、どうしても無理だからすぐ連絡ができるし、さっくんと友達で、しかも久留島君に興味が無い魅瑠に協力してほしい、というわけですなぁ?」


「そういうことだ。お前は口は堅いし、フォローが上手いから信頼できるしな」



 梅田がふっと笑う。その笑みを見た魅瑠も笑い。胸を張って、ぽんっと胸を叩いた。



「そういうことならお任せ~! こよみんにもあかりんにも言わないよ!」


「丹羽は木ノ下にも言わないと思うか?」


「絶対に言わないと思う~。こよみん、久留島君のこと憎んでいるみたいだから、久留島君に関することは言わないね~」



 記憶云々に関しての事情は、魅瑠よりも暦の方が分かっているだろう。けれど、咲夜が思い出した記憶の内容を暦に言わないに決まっている。


 暦の負担になることは言いたくないのも理由の一つだが、自分のせいで久留島類がこれ以上暦に睨まれることになるのを嫌がっているようにも見えた。


 だから、咲夜は暦に絶対に言わない。



「木ノ下が久留島のことを憎んでいる……? 大嫌いじゃなくてか?」

「口では言ったことがないけど、まるで親の仇かっていうくらい睨んでいるのを見たことあるから、そうだと思うよ~」


「それじゃ、木ノ下に協力を仰ぐのは無理だな」


「そうだねぇ。ま、事情を知らなくても近づけさせないと思うけど」



 どちらにしろ、暦が過保護なのは違いない。



「すまない。ありがとうな」


「いいって~。友達のためだもん」



 でも、咲夜のためだけではないけれど。


 その言葉をコーヒーミルクと共に飲み込んで、梅田ににっこりと満面の笑みを浮かべた。



「あ、報酬は慎にぃのクリームパフェがいいなぁ! 苺入りで!」


「お前……ほんと、ちゃっかりしているな……苺は季節外れだから却下だ」

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