聞き込み
「ほうほう。告白されている久留島くんを見て、さっくんが倒れたと」
「ハイ、ソウデス」
うむ、と呟いて、魅瑠は腕を組む。
咲夜が倒れて入院したと、暦から聞いた。だが、なんで倒れたのか教えてもらっていなかった。命に別状はないと言っていたが、暦の顔は険しかった。
何故、険しい顔をしたのだろうか。そこが引っかかった。
命に別状がないのに、どうして気が食わないような顔をしているのか。
瓜谷と話したが、瓜谷はとりあえず話してくれるまで待つそうだ。だが、魅瑠は暦本人に聞くつもりはないが、待つつもりはなかった。
気になったので、部活がまた休みになったことをこれ幸いとし放課後、最近咲夜と仲良しな錦を捕まえて話を聞いた。場所は旧部室棟の裏だ。ここなら、誰も聞かれることはないし、暦も来ない。
最初は渋っていたが、グローブをちらつかせると顔を引き攣らせながらも教えてくれた。
「そのこと、こよみんには話したの?」
「こよみん……もしかして、木ノ下さんのこと? なら話したけど」
「なるほどなるほど」
得心がいった。暦は久留島類に対して、あまり良い感情を抱いていない。だから、あんなに気に食わない顔をしていたのか。
「ねぇねぇ。なんでさっくんは、久留島くんの告白現場を見て倒れたの~?」
「さあ? すごく頭が痛かったみたいだけど」
錦もよく分かっていないのか、とても不思議そうな顔をして首を捻る。
「つまり、久留島くんの告白現場を見て、すごい頭痛がして倒れたってこと~?」
「だと、思う。あ、そういえば」
「なになに?」
「検査、しなかったなぁって」
「どういうこと?」
「なんか倒れたら、なんかこう、仰々しい機械で検査するだろ? 多分」
「そうだねぇ」
昔、救急車に運ばれたことがある魅瑠は錦の疑問に頷いた。
そのときも検査で、MRIに通された。あのときは意識があったのに、MRIに通された。それなのに、咲夜は意識がないほど重症だったにも関わらず、通されていない。
MRIとはそういう制限があるのだろうか、と疑問符を浮かべていると錦が続けて言った。
「あと、なんか丹羽が通っているらしい病院に運ばれた」
「さっくん、通院していたの~?」
「らしい。その病院が心療内科と産婦人科、あと脳外科の個人病院で」
「脳外科なら、不思議でもないでしょ~?」
「けど、出てきたの、心療内科兼産婦人科の先生みたいだった」
「脳外科の先生じゃなくて?」
「脳外科の先生も出てきたけど、後だった」
「ほうほう」
つまり、咲夜は産婦人科か心療内科のほうに通っていたのだろうか。産婦人科に通うことは、咲夜はΩなので不思議ではない。だから、どちらも可能性がある。
(そういえば、さっくんから生理の話をしたことないような)
二ヶ月ほど一緒にいるが、彼が生理痛を訴えることはなかった。重い人がいれば軽い人もいる。自分は軽いほうだったから、咲夜はもっと軽いほうだと思っていた。
そういえば、痛み止めをあげたとき微妙な顔をしていたような。
(なーんか引っ掛かるなぁ)
喉に痰が詰まったように、なんか落ち着かない気分だ。
そのとき、スマホが鳴った。
「あ、ごめーん。ちょっと確認するねぇ」
「どうぞどうぞ」
スマホをポケットから取り出して、画面を確認する。着信ではメッセージが着た音だったので、音自体はすぐに止んだ。
画面には梅田の文字があった。
【協力してほしい案件が出来た。すぐ帰ってこい】
魅瑠は怪訝な顔をした。
珍しい。咲夜ほどでもないが、あまり人に頼らない梅田が協力してほしいだなんて。
(うーむ。それくらい厄介な案件ってことかな?)
梅田が帰ってこい、ということは梅田はもう家に帰っているということなのだろう。
梅田は足腰が弱い、病弱な母親の面倒を見たいから、という理由を盾にして部活の顧問にはなっていないので放課後は比較的時間が空いている。
ずるいと少しばかり思うが、事実なのでこの件に関して文句は言ったことがない。シングルマザーで父親がいなくて、母親を支えるのは息子の梅田しかいないので学校側も強く文句が言えないらしい。
世の中の学校はブラックだの騒がれているのに、この高校は優しいと思う。
「急用ができたから、帰るねぇ。いろいろと教えてくれてありがとう!」
「ああ、うん。ドウイタシマシテ」
錦は片言で答えたが、理由は分かっているので突っ込まない。
「あ、そうだ~。ちょっと手を出してぇ」
「うん?」
疑問符を浮かべながら、錦が手を出す。魅瑠はその手をとって、ポケットに入れてあったマジックを取り出した。
「あ、あの、佐藤さん? なんですか、そのペン」
「あ、油性じゃなくて水性だから、後で落としてね!」
「よかった、けど、そういう意味じゃ」
錦の言葉を遮るように、魅瑠が手のひらになにか書き始める。一分も経たないうちに魅瑠は錦の手を解放した。
「あの~……これ、ラインのIDに見えるけど」
「魅瑠のラインのID~! さっくんのことについて何か分かったら、よろしくねぇ! あ、なにか変わったことがあってもよろしく!」
そう言い残し、魅瑠は走り去っていった。意外にも速い足に呆然と見送ったあと、錦はラインのIDを見下ろす。
「なんていうか……丹羽の周りの女子って、わりと過保護が多いのな……」
暦もそうだが、まさか可愛い薔薇には毒があると陰で比喩されている魅瑠もその類いだったとは。
「丹羽も癖のある女子に囲まれて、ちょっと大変だなぁ」
普通なら美少女の二人に囲まれて、嫉妬するかもしれない。けれど、羨ましくないのは、多分、ハーレムとかではなくて弟を心配している姉みたいな感じだからだろうな。
受取人仲間である丹羽を思い、錦は盛大に溜め息をついた。




