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久留島親子について②

 突然聞こえてきた魅瑠の声に、ハッと我に返る。


 気が付いたら、もう校門の前に着いていた。つい考え込んで周りが見えていなかったことに反省しつつ、振り返る。


 魅瑠が手をぶんぶんと振りながら、駆け寄ってきた。



「おはよー! 今日は早いね!」



 朝練をする魅瑠と同じ時間に登校することは、確かに初めてだ。咲夜と一緒に登校するときは少し遅めで、こうして校門の前で魅瑠と瓜谷に出会うことなんてなかった。



「おはよう。ちょっと早く目が覚めちゃって、たまには早く学校に行って自習でもしようかなって」


「ところで、さっくん大丈夫だった~? 昨日、倒れたって聞いたけど」



 魅瑠が心配げに訊いてくる。


 そういえば、昨日はそれどころではなくて二人に咲夜が倒れたことを話していなかった、と気付く。

 救急車が来たので、ちょっとした騒ぎになったから、魅瑠の耳にも届いたのだろうか。



(騒ぎになったけど、放課後だったからそれほど人はいなかったけど……誰に聞いたのかな)



 少し不思議に思いながら、暦は応えた。



「昨日、わたしが帰ったあとに目を覚ましたって」


「目は覚ましたんだぁ! 脳は大丈夫だった?」


「それは今日、詳しい検査するって。けど、命に別状はないと思う」



 そこまで言って、眉を顰める。

 ああ、久留島類のことを思い出してしまった。



「こよみん、顔怖いよぉ」


「そう?」


「そうだよ~。やっぱりさっくんが心配?」


「うん、そう、だね」



 たしかに咲夜が心配だが、魅瑠が予想している心配ではない。魅瑠は脳に異常があるかどうかを心配していると思っているだろう。けれど、暦は別の心配をしている。


 曖昧な返答に、魅瑠は不思議そうに小首をかしげる。



「さっくん、けっこう頭痛がっていたけど、本当に大丈夫かなぁ?」


「大丈夫だと思う。原因は分かっているし」


「そうなの? 原因って?」



 黙り込む。原因は久留島類なのだが、そんなこと、咲夜が記憶喪失だということを知らない魅瑠に言えるわけがない。



「言いたくないんなら、無理に言わなくていいけどぉ」



 無言でいる暦に、やれやれと肩をすくめながら魅瑠は暦から視線を逸らした。



「ごめんね、言えなくて」


「別にいいよ~。魅瑠だって言いたくないことあるから、お互い様だって~。あ、せっかくだから途中まで一緒に行こうよ!」


「……いいよ」



 ボクシング部の練習場所と教室は大分離れているが、途中まで一緒だ。ここで別行動を取っても特に不都合があるということはない。



「それじゃ行こう!」


「そういえば、小明ちゃんはまだ来ていないのかな」


「来てると思うよ~。あかりんには、さっくんが倒れたこと伝えていないから、今行って伝えとく~?」


「いいよ、朝練の邪魔になりたくないし。教室に来たときに伝えたらいいから」


「そうだねぇ」



 暦よりも前に歩き出した魅瑠の後を付いていきながら、暦はこっそり溜め息をつく。


 優しい友達だ。言いたくないことを、無理に聞き出そうとはしない。少々心苦しいが、今はその優しさに甘えておこう。


 言いたくない、というより認めたくない、というのが正しいのかもしれない。言ったら、認めていることになりそうで反吐が出そうになる。


 久留島類のことで色々と乱れている咲夜だとか。久留島類のせいで、心が乱れかけている自分だとか。


 そんな久留島類と血が繋がっていることが、何よりも認めたくない。


 久留島類を中心にして、渦が巻き起こっている。


 今まで受け入れていられたこと、積み上げられたものが崩れていく。



(おばさんの死は受け入れられたけど、それとこれとは話が別よね)



 受け入れられるのと許すことは、あまりにも違いすぎる。


 結局のところ、暦は久留島類とその父親のことを許していないのだ。



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