久留島親子について①
ああ、苛々する。
意識のない咲夜の顔を思い出すたびに、心が静かに沸いてしまい、顔に出てしまう。
暦は険しい顔で一人、通学路を歩いていた。その足取りは速く、そして一歩一歩が地面に食い込んでしまうような重く、力強い。
いつも隣にいる咲夜は、入院して今日はいない。今日は念のため検査をするらしい。異常がなかったら、今日でも退院して明日から登校すると咲夜の母が言っていた。
電話越しで聞いた咲夜の母の声は、焦燥していなかった。むしろ安堵していたように思う。命に別状がないかどうかは、今日の検査で分かる。きっと、命に別状はないだろう。
その場にいた錦が言っていた。久留島類の告白現場を見た咲夜が、頭を押さえて倒れてしまったのだと。
(あれは、記憶を失う前の咲夜と会ったことがある……)
それだけなら、まだいい。けれど、久留島類と接触すると頭痛がした咲夜を見ると、どうもそれだけではない。
(咲夜が倒れたのは、あれのせいよ!)
二人の間に何があったのか知らない。けれど、何かがあったのは間違いない。咲夜の母が言ったことがある。記憶を失った直後の咲夜は、両親を見ても頭痛がしなかった、と。
つまり、両親との記憶以上に、刺激的な記憶が久留島類との間にあったということで。
(やっぱり、あれは疫病神よ)
叔母を死なせた男の息子で、少なからず叔母を自殺に追い込んだ一端があるはずだ。そのうえ、咲夜を苦しませている。
叔母を不幸にしてくせに、咲夜も不幸にしようとしている。そんな気がしてならない。そこに彼の悪意はないとは思う。わざとやっていない、ただ面白がっている。それがなお、質が悪い。
(やっぱりあの男の息子ね。人の気持ちと命をなんだと思っているのかしら)
風の噂で聞いたことがある。あの男が再婚したと。
叔母のことがあったのに、再婚。あの男にとって、叔母はその程度の命だったらしい。
(それに、番が面倒くさいって言っていたらしいし)
運命の番なのよ、と叔母が言っていた。運命の番だったはずの男は、叔母を捨てた。あの男にとって運命の番は、面倒くさいものでどうでもよかったものだった。
その血は、しっかりと息子に引き継いでしまったようだ。あれには叔母の血が入っていないように思えてくる。
暦はβなので、番のことはよく分からない。知識として知っているが、αとΩが番に対して、どのような感情を抱くのか。ただの愛情か恋慕か、はたまた執着なのか。正直言って、想像ができない。
だが、少なくてもαである瓜谷は番に対して面倒くさいとは思っていない。運命の番にしろ、ただの番にしろ、自分が面倒を見ると決めたら最後まで見るし大切にするつもりだ、と語っていた。
まるでペットに対する言い方にも聞こえるが、とても真摯な態度だったし、あの男と比べたらとても良い答えだ。
番が面倒くさいという発言は、叔母のことがあっての発言かもしれない。けれど、つまり叔母が面倒くさかったと思っていたとも取れる発言だ。
(薔子おばさんが死んだのに、遺体を見ているはずなのに、面倒くさい? あれにとっても、薔子おばさんの命はその程度のものだったってことよね、つまりは)
叔母のことを引き摺っていたのなら、まだ許せた。けれど、自殺した叔母のことを忘れてのうのうと過ごしている。許し難く、憎々しい。
叔母にあんなことを言わせるほど追い詰めて、最悪の選択をさせたっていうのに。
「あ、こよみーん!」




