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告白

 咲夜は目を見張り、母を見据えた。



「え、な、なんで?」



 その通りなのだが、いきなり言われて口がどもる。



「うーん、そうねぇ」



 少し考える素振りを見せてから、母は悪戯っぽく笑った。



「なんとなく?」


「なんとなくって」


「お母さんは、あーさんよりも鈍くはないもん。だから分かるの」


「なに、その極端な理由。それだったら、オレだって鋭いほうになる」



 たしかに父は鈍感だ。だが、あの父と比べるのは極端だと思う。鈍すぎる父が対象だと、ほとんどの人が鋭くなるのでは。



「言っておくけど、咲夜も鈍感だからね。あーさんと一緒くらい」


「いや、あそこまで鈍感じゃない」


「まあ、軍配としては咲夜が上がっているけれど、どっちもどっちよ~」



 そう言われたら不服だ。表情に出ていたのか、母がおかしそうに笑声を上げた。



「まあ、それは置いといて。咲夜の言いたいことって、あーさんに言いたいこと? それともお母さんに言いたいこと?」


「…………どっちとも」


「じゃ、先にお母さんが聞いちゃおうかなぁ。言ってみて」



 にこにこと笑う母に、少し怖じけつく。


 タイミングを計るのが馬鹿らしくなったのだが、いざ言おうとすると緊張してしまう。

 けど、引き返せない。母の笑顔の圧がじわじわ来ている。


 視線が泳いでしまう。けれど、言わなければ。


 意を決して、口を開いた。



「あの、さ」


「うん」


「その……」


「うん」



 母が相槌を打つ。声色は優しいが、何故だろう。逃げられないホールドに包まれていくような気がする。



「記憶が、その…………戻ったんだけど……」



 目を合わせないまま、告げる。


 沈黙が流れる。なにも反応がなくて、少し恐ろしくなった。それでも気になって、おそるおそる母の顔を見る。


 母は目を丸くして、口をあんぐりと開いて咲夜を凝視していた。


 すごく、びっくりしている。咲夜は予想以上の反応に固まった。てっきり大声上げて驚くか、嬉しそうにするか。なんとなく、どちらかと思った。



(まあ……うん。無理もない、のか)



 どうやったって欠片すら思い出せなくて、まあ思い出せなくてもいいんじゃない、と諦めていたというのに、急に思い出した、と言われたら驚くだろう。


 咲夜は多少の覚悟はあったものの、母には久留島類のことを一切話していない。母にとっては、前振りもない、突然の出来事だから、反応が遅れているの

かも。


 と、若干冷静になった頭で考えていると、あんぐりとした口を片手で覆った。今更隠しても、と思ったが突っ込まなかった。


 母は何も言ってこない。いい加減居心地が悪い。母が何か言うまで黙っておこうと思っていたが、こちらから声を掛けないと先に進まないだろうか。



「母さん……?」



 おそるおそる母を呼ぶ。



「てっきり……」


「え?」



 母が小さな声で呟く。



「経済的に厳しいかもしれないけど、どうしても犬が飼いたいっていう話だと思った」


「なんで!?」


「だって咲夜、犬大好きだし、隣のコーギーのこと、すごく可愛がっていた

し、犬の散歩してみたいって呟いていたし」


「言ったけど、命を預かる覚悟がないから無理だよ」


 犬だって猫だって、動物は皆病気に掛かることがある。病気に掛かって苦しむ姿は見たくないし、ずっと一緒にいた犬が死にいく様子を見守る覚悟がない。きっと、目を背けたくて逃げてしまう。それなのに、軽々しく飼いたいだなんて言えない。



「うん、咲夜らしいわね」


「もしそうだったら、なんて言うつもりだった?」


「朕かフレンチがいいって言うつもりだった。雑種もウェルカム」


「あ、オレよりもその気満々だった……でも、犬も猫も毛が抜けるから、父さんのアレルギーが」


「そんなに抜けない程度だったら大丈夫よ~。ポメラニアンとか無理だろうけど」


「あ、うん」



 思えば朕とフレンチブルドッグもそんなに毛が抜けない犬種だった。雑種は

親の遺伝にもよるので一概にいえないが、父のアレルギーのことはちゃんと考

えているらしい。

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