検査
目覚めはとても微妙だった。色々とグルグル考えてしまって、目が冴えて仕方なかったので、サイドテーブルに置かれていたヘッドホンを付けて音楽を流しながら寝た。
音楽に集中すると、だんだんと瞼が重くなって、そのまま寝ることに成功したので一応は眠れた。が、気分は最悪だった。頭が重くて、身体の芯がずっしりと重かった。けれど、体調が悪くはなかったので、検査を受けることにした。
面会時間になると、すぐ父が来てくれた。父は咲夜に、おはよう、と言ったすぐ後に、昨日は来られなくてごめん、と謝ってきた。父は昨日は遠い場所での仕事だった。だから仕方ない、と返したのだが、それでも腑に落ちなかったようだ。
仕事が忙しくてあまり顔を合わせられないが、それでも自分に気を遣ってくれるくらいには愛されていることを知っている。だから、来られなくてもすごく心配してくれた。申し訳ないと思うけれど、嬉しいので気にしていないというのに。
「ていうか父さん。今日も仕事じゃなかったっけ?」
次の休みはたしか日曜日だったはずだ。
父が微笑む。
「咲夜が倒れたんだ。午前だけだけど、休ませてもらったよ。午後からは母さんが来てくれるから」
「母さんも仕事じゃ」
「息子の一大事だ。仕事なんてやってられないよ。本当は二人一緒に一日中休めたらよかったんだけど、最近ほんとう忙しくて。だから妥協して、交代することにしたんだ」
「そこまでしなくても……二人の仕事の邪魔にはなりたくないし」
「気にしなくてもいいんだよ。むしろこうでもしないと休ませてもらえないかね。こんな状況だけど、咲夜と話せて嬉しいんだ」
父の顔色を窺ったが、本当に嬉しそうだったから言葉を呑み込む。
たしかに父と母はこのところ忙しくて、休日返上なんてザラだった。とても家族で過ごせる時間なんてなかった。
半日だけとはいえ、貴重な休日を病院で使わせるのは申し訳なかったが、咲夜も父と過ごせて少し嬉しかったので、それ以上は何も言えなかった。
検査の順番を待っている間、色々と話したが、記憶が戻ったことをなかなか言い出せなかった。
何回も言おうとしたが、どの合間に入れたらいいか分からなくて、結局、検査が終わってしまい、昼になってしまった。
いい加減、話さないとと決意を新たにしたところで、母が来た。
「咲夜ー、元気にしていた?」
「検査で疲れた」
「あらら。検査って長いわよねぇ。結果は?」
「まだだよ。でも、今日中には結果出せるって」
咲夜の代わりに父が答えてくれた。
「何もなければいいけど……」
「先生が、大丈夫だろうけど念のための検査だって言っていたし、心配ないって」
「そうね~。それなら大丈夫ね」
のほほんとした口調の会話に、咲夜はなんだか肩の力が抜けてきた。いつもなら呆れるのに、何故か安心してしまった。
言うタイミングを計っているのが、馬鹿らしくなってきた。
「あーさん。そろそろ時間じゃない?」
母が病室に掛けられた時計に指を差す。
「あ、本当だ。来てほしくない時間ほど、早く感じちゃうなぁ」
「わかるわ~。正月休みもすぐ終わっちゃうの嫌よねぇ」
「わかるよ、それ」
重苦しい溜め息をつきながら、父がパイプ椅子から立ち上がる。
「それじゃ行くよ。ああ、嫌だなぁ、行きたくないなぁ」
「日曜日にゆっくりしましょうねぇ。わたしも休み取れたから」
「! それじゃ今度の日曜日は、どこか出掛けようか!」
父の顔が喜色に染まる。それを見た母はどこか嬉しげに笑った。
「そうねぇ。咲夜もいい?」
「いいよ」
本当は勉強をしたほうがいいが、家族の休日が被ることは滅多にない。最後に休日が被ったのは、三ヶ月前だった。三人でお出掛けとなると、去年になる。
口では言えないけれど、二人と過ごすのは嬉しいし、こんな機会は滅多にない。勉強をしたいからと、この機会をふいにしたくなかった。
「それじゃ、どこに行くか咲夜が決めてくれないかい?」
「二人が行きたいところでいいよ」
「ぼくたちは咲夜が行きたいところに行きたいんだ。ねー?」
「ねー」
くすくすと笑い合う両親に、咲夜は溜め息を吐いた。
こういう話になると、両親は譲らない。咲夜だって二人が行きたいところだったら何処でもいい。だが、咲夜が折れないとずっとこの話が続いてしまう。
「分かった。考えておくよ」
「決まりだな。それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「いっぱい稼いできてねぇ」
「あはは。頑張るよ」
笑い飛ばしながら、父が病室を出て行った。父が座っていたパイプ椅子に母が座る。
「そういえば、今は頭痛くないの?」
「痛くないよ」
久留島類のことを思い出しても、頭痛はしなくなった。その代わりに、胸が締め付けられて痛いけれど。
「そう。よかったわ」
一拍置いてから、母が口を開く。
「ねぇ、咲夜」
「なに?」
「なにか言いたいことがあるんじゃない?」




