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志津江と原因究明②

 咲夜は志津江を見る。志津江は得心した様子で頷いている。



「と、いうと?」


「運命の番に拒絶されたあなたは、本能的に生殖機能を停止したのよ」


「それは……」



 話が飛躍しているような気がして、困惑する。



「運命の番とか、運命の番が放つ匂いについては、まだ解明されていないことが多いわ。それは知っているわね?」


「はい」


「けれど、普通の番でも相手に捨てられたΩが変調を起こして子供が産めない体になった事例もある。普通の番でもそうなんだから、運命の番で起こっても不思議じゃないわ。前も言ったけれど、あなたは記憶喪失になっていた。でも、心は覚えていた。だから生理がこなかったのよ」


「そう、ですね」



 それでは、今まで悩んでいた原因は久留島類だったのか。


 重たい溜め息を吐いて、口を開く。



「つまり、思い出しても生理がくる日は二度とないというわけですね」


「その運命の番の子とは、今はどういう関係なの?」



 どういう関係か。返答に困る。


 友人ではない。それは確かだ。ただのクラスメイト、というには少し違和感がある。けれど、クラスメイト以外の関係を築いていなくて。



「クラスメイト、ですね」



 そうとしか答えられない。胸がギシッと痛んだ。



「それじゃ、そうかもね。原因が本当にそれなら」


「そう、ですか」



 咲夜は小さく息を吐いた。


 つまり、自分は病気ではないしろ、子供が産めない体になっているということで。


 ショックは受けていない。むしろ安堵した。


 運命の番に拒否されたとしても、運命の番と出会ってしまった後に他の人と番になって子供を産

め、と言われても出来そうにない。


 それなら一層のこと、産めない身体のほうが都合が良い。一人で生きなければならないが、そのほうがマシだ。



「これからのことだけど、どうする?」


「どうって……?」


「同じクラスなんでしょう? 顔を合わしたくないんじゃない?」


「それは……そう、ですね」



 今、どのような顔を彼の前でしていいか分からない。きっと、あの様子だとあちらから話し掛けてこないのだろう。


 けれど、今は姿を見るだけでも辛い。声を聞くのも辛い。


 声はヘッドホンを付けたら、授業中以外はどうにでもなる。けれど、姿だけは駄目だ。きっと、どう足掻いてもその姿を視界に捉え、存在を意識してしまう。



「診断書を書いて、保健室とか一人でなれるところで自習するの。そうすれば欠席扱いにはならないから、いいと思うんだけど」


「でも、母さんたちに話が」


「適当に作っておくわ。記憶が戻ったばかりで、精神が少しばかり不安定だから、複数人がいるところにいるよりも一人になれるところのほうが安定するとかなんとか。学校側も咲夜君が記憶喪失だってことは把握しているし、その辺りは任せなさい」



 志津江がふっと笑う。自信に溢れた笑みだった。きっと、上手く誤魔化せる根拠があるのだろう。

 その笑みを信じて、小さく頷く。



「では、お願いします。でも」


「でも?」


「……記憶が戻ったことは、まだ母さん達に言わないでください」


「どうして?」


「自分から、言いたいんです」



 志津江が軽く目を見張った。



「珍しいわね、咲夜君がそういうことを言うなんて」


「いや、志津江先生から聞かされると、なんか変に勘繰ってしまうんじゃないかって」


「あの二人、楽観的だから気にしないと思うけど」


「いや、そうなんですけど」



 特に母が楽観的で、あらそうですか、とあっさりと納得しそうだが。



「念には念をというか。それに」


「それに?」


「今まで心配かけたから、その……ちゃんと安心させたいというか」



 楽観的な両親が、記憶を失った咲夜にショックを受けて涙を流していた。今はどう思っているのか分からないが、あの頃は不安で仕方なかったかもしれない。だから、ずっと心配してくれた両親にはちゃんと自分から言って、安心させてやりたいのだ。



「そう、分かったわ」



 志津江が頷いた。



「それなら早めに言ってあげなさい」


「……はい」


「訊きたいことを訊けたから、そろそろお暇するわ。電気を消しとくから、ゆっくり休みなさい」



 腰を上げて踵を返した志津江に、声を掛ける。



「志津江先生」


「ん?」



 志津江が不思議そうな顔をして、振り返った。



「その……色々とありがとうございます」



 両親に話すべき内容もあった筈なのに、咲夜に合わせて内緒にしてくれている。申し訳ないけれど、それ以上に感謝していて、礼を言わないといけない気がした。



「いいのよ」



 志津江が軽く笑う。



「咲夜君の心のケアも仕事の一部ですからね」



 そう言い残し、志津江は電気を消してから病室を後にした。

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