志津江と原因究明①
母が帰って、志津江が咲夜の元に訪れたのは、ちょうど二十二時だった。
本当は消灯時間だったのだが、父が朝一番に来て検査に付き合うことになったので、話すなら今しかない。だから特別に、咲夜の部屋だけ消灯時間を遅らせてもらった。
志津江は椅子に腰掛けて、足を組んだ。きっと長期戦になると思ったのだろう。咲夜はベッドの上だったが、頭痛も大分引いてきたので上半身を起こしていた。
「で、実のところ何があったの?」
「えーっと……」
どう説明したら、いいだろうか。本当は話したくないけれど、どこまで誤魔化せばいいか。
話すことを整理していると、静江が遮った。
「ありのまま、本当のことを話して。隠し事はやめなさい」
あまりも厳しい口調だったので、驚いて志津恵を見る。志津恵は真顔で、続けて言った。
「私の仕事は、あなたの治療とカウンセリング。知らないことがあると、今後の治療に影響が出るわ」
「そんなものなんですか?」
「いい? 今回のことで、今後のあなたに影響が及ぶ。影響が表に出るのか今は分からないけれど、絶対にないとは言い切れないわ。あなたの隠したい事情を知ったほうが、それについて対処ができる。分からない、知らないは医者としていけないわ。私はそう思っている」
「……信用問題に関わる、から?」
「そうね。それもあるわ。けれど、これ以上原因不明のままにしておけない」
その言葉に、昨夜はハッとなる。
生理と精通が来ない理由がずっと分からないままで、心因性なのだろうとしか診断されていない。
志津恵は物事をハッキリしたいタイプだ。ずっと咲夜の抱えている問題の解決の糸口がハッキリせず、かなりモヤモヤしていたのだろうか。
そう考えると、申し訳なくて身が縮こまる。ずっと自分の問題に付き合ってくれた志津恵に対して、黙っておくのは失礼だ。
「………………両親に、詳しいことは言いませんか?」
「内容によるわ」
嘘でも言わないと、宣言しないのが彼女らしい。だから、信じることができた。
志津恵から視線を逸らし、少し整理してから口を開く。
「記憶が…………戻ったんです」
「あら、良かったじゃない」
心なしか弾んだ声色だった。
(よかった、か)
周りからしたらそうなのだろう。でも、実際はどうだろう。
思い出して良かったのだろうか。正直、よく分からない。
記憶を失った当初は思い出したかったのに、素直に喜べない。
「……浮かない顔ね」
志津江が静かな声で指摘する。咲夜は黙り込んで、窓の外を見やった。窓の外は当然暗く、空に飛行機の明かりだろうか。赤い光が点滅してした。
「少し……いや、まだ混乱しているというか」
「それは仕方ないわ。忘れていたものを一気に思い出したんだもの。焦らず、ゆっくり話して」
「…………はい」
志津江の言うとおり、咲夜は一つ一つ言葉を選びながら、できるだけ淡々と話すように心掛けて、思い出したことを話した。
前、言っていた同じクラスの男子生徒、久留島類との間に昔何があったのか。出来るだけ包み隠さず、話せたと思う。
「なるほどね」
全部話すと、志津江がそう小さく呟いた。
「やっぱり、生理とかこない理由は心因性なものだったのね」




