運命とは
(運命、か)
自分の気持ちを自覚してから、ずっと運命について考えている。
運命とはなんだろう。運命の番とは、いったいなんだろう。
運命なんてない。母は父を運命だと言った。父はきっとそうは思っていなくて。母のことを愛して結婚したとか、とても思えない。それくらい母に対して素っ気なかった。
もしかして、母のごり押しで結婚したのかもしれない。そう言われたほうがしっくり来る。それに、本当に運命の番というものがあるのなら、今も母は生きているかもしれないはずで。そもそも、母の運命の番は実は父ではなくて別の人だったかもしれない。
そうやって両親のことを考えて、次は咲夜のことを考える。
あのとき、咲夜は自分のことを運命の番だと告白した。あのときは咲夜が嘘をついていると思っていたし、母と父が離婚する直前のことだったから、運命なんて信じることができなかった。
けれど、咲夜を拒否したとき、咲夜は明らかに絶望していた。その顔が、母と重なって見えて。それが衝撃的で、呆気にとられた。気付いたときには、彼はこちらに一声掛けることなく逃げ出してしまった。
追いかけるなんてことしなかった。呆然と見送って、そのままにしてしまった。
そして、その数日後に母が自殺してしまった。
母が自殺したことで、気になっていたあの顔が輪にかけて気になるようになって。だから彼のクラスに行ったら、転校したと聞かされて。
あのとき感じたのは、モヤモヤと喪失感。そしてほんの安堵。彼の顔を見たら、どう反応していいか分からなくなるから、安堵したのだ。
まさか転校した理由が、事故で記憶を失ったから、とは思うはずもなく、ずっと彼のことが忘れられなかった。
(そもそも、いつ咲夜くんは事故ったんだろう)
あの日から自分が咲夜のクラスを訪れるまで約一ヶ月半あった。その間にいつ事故に遭ったのだろうか。
転校だなんて、すぐ決まらなかっただろう。咲夜も、明森小学校を見ると頭痛がして倒れてしまうから転校した、と言った。見たのは、退院した後のことだろう。
車に撥ねられて、記憶を失うほど強く頭を打ってしまったのだ。きっと数日間は目を覚まさなかったのだろう。傷を癒やして、転校の手続きとなると、時間もそれなりに掛かってしまうのではないだろうか。
そこまで考えて、はっと気付く。
逆算すると、ある可能性が高くなった。
(もしかして、咲夜くんはあの後すぐに事故に……?)
半月だと退院するには短すぎるし、あの日から数日後でも時間が合わない。そう、ギリギリ合う時間はやはりあの時の直後で。
気付いた瞬間、脱力してしまった。
(咲夜くんが事故に遭ったのは、僕のせいだったのか)
ショックを受けた咲夜が、周りの様子に気付かず車に撥ねられた。辻褄が合う気がしてならない。
「はっ」
小さく失笑して、顔を両手で覆う。
(最初から、烏滸がましかったんだ)
事故の原因が何食わぬ顔で話し掛ける時点で、間違っていたのだ。
(これが、運命だというのか)
母が自殺してしまったことも、咲夜を傷付けてしまったことも、運命だったというのだろうか。
運命の番とは、幸せにするものではない。世の中、幸せな運命の番もいるけれど、必ず幸せになるわけではない。それは同時に、互いを不幸にしてしまう可能性を孕んでいる。
きっと、それが答えだ。
自分は、咲夜を傷付くことしか出来ない。とても、彼を幸せにすることなんて出来そうにない。
だったら、潔く諦めたほうが、絶対にいい。




