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何が最善か

「それは…………少し、考えさせて」



 気付けば、そんな言葉を口にしていた。

 俯いた顔を少し上げると、父が訝しげに自分を見ていた。



「なんでだ? 親しい奴が出来たのか?」


「違うよ。ただ……」



 どう誤魔化すか考えてから、言葉を紡ぐ。



「たしかにその方が手っ取り早いよ。けど、そうなると県外で、しかも寮がある学校に行くことになるでしょ?」



 近くの高校となると、それこそ噂の的になる。彼女やその家族ともばったりと会う可能性だってある。そうなると、県外でしかも寮付きの高校に通うことになるだろう。


 一人暮らしをする選択もあるが、久留島類は生活力が皆無だ。きっとそのことで姉が心配し、一人暮らしをすることに反対するだろう。



「そうだな」



 父が肯定する。この人の場合、心配というより、生活が乱れて自分に迷惑を掛けないよう学校の管理下にある寮に行かせたいのだろう。



「寮って二人部屋の場合もあるよね? 僕がルームメイトと仲良くなれると思う? ていうか、他人と同じ部屋になるのは堪えるよ」


「ふむ。それもそうだな」



 父はそれでとりあえず納得してくれたらしい。こういうところは、父と似たような感覚なので分かってくれたのだろう。



「そうだな。急すぎる話だ。考える猶予を与える」


「ありがとう」


「ただ、夏休みに入る前に決めておけ。転校するのなら、夏休みの間に準備をして二学期が始まる日から通ったほうがいい」



 久留島類は言葉なく頷く。

 編入試験のことは心配ないだろう。αだから試験をパスできる。



「学校はこちらで探しておく。一人部屋がある寮なら問題ないのだろう」


「まあ、うん、そうだけど、探してくれるの?」



 転校は未定なのに、探してくれるだなんて、この人にしては珍しい。



「その分決断を早くしろ」



 ああ、そういうことか、と納得する。

 でもきっとこの人の中では決定事項なんだな、と感じた。



「話は終わりだ。部屋に戻るといい」


「はーい」



 ソファーから立ち上がり、そそくさに自分の部屋に戻った。


 部屋に入り、制服のままベッドに横たわる。本当は着替えたほうが皺にならないから良いけれど、着替えるほどの体力が残っていなかった。


 肺に溜まった空気を一気に吐き出す。軽くなった胸が、また重くなるのを感じた。



(転校、か)



 心の中で呟くと、胸がさらに重くなった。


 分かっている。転校が最善の選択だと。けれど。



(転校したら、咲夜くんに会えなくなるんだよなぁ)



 もう、関わるつもりはなかった。咲夜があの時のことを思い出してしまったら、母のように命を絶つかもしれない。


 本当は話したいし、もっと一緒にいたい。けれど、死んでほしくない。だから、自分から離れるしかない。


 けれど、姿くらいは見たかった。



(転校したほうが、咲夜くんにとってもいいよね)



 自分の姿を見ないほうが、きっと思い出さない。物理的に離れるのが、暦にとっても咲夜にとっても最善だ。


 分かっているのに、胸が痛む。


 咲夜のためのことを思うと、それが一番だ。あんなことを言ってしまった以上、自分には彼の隣にいる資格がない。



(それに、僕がいなくても咲夜くんは大丈夫だ)



 咲夜には暦がいて、名前の知らない彼がいる。自分がいなくても、番にならなくても、問題ないだろう。


 きっと、彼の居場所はここじゃなくて、他の場所で。自分よりも咲夜のことを大事してくれる人が現れて。


 そのほうが、きっといい。たとえ、自分が咲夜の運命の番だったとしても、幸せにしてあげることなんてできない。


 そう、自分の両親のように。

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