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父の提案

 久留島類は瞠目した。


 なんでいることを知っているのだ。自分だって、今日初めて知ったのに。



「どうなんだ」



 父に促され、ドクドクいっている心臓を抑えつつ、訊ね返す。



「父さん、その情報はどこで仕入れたの?」



 自分から木ノ下に関する情報を探り入れるなんて、この人がするわけがない。それくらい、この人は木ノ下を忌避していた。



「そんなことはどうでもいい」



 父が一蹴する。じろっと睨めつけられた。迫力があるが、それほど怖くない。



「接触したのか、どうなんだ」



 さて、どう言うべきか。素直に言うべきか、それとも誤魔化すか。少し考えたあと、口を開く。



「間接的にっていったところかな?」



 半分嘘を言うことにした。今日初めて会話したのだが、そこは言わないでおこう。ややこしいことになるはずだ。


 父の眼光が鋭くなる。少し怒ったかもしれない。



「つまり、あっちはお前の存在を知っているということか」


「知っているというか、僕新入生代表だったし、知らないってことはないじゃない?」


「新入生代表だったのか」



 そこからか、と出かかった言葉を呑み込む。


 義理の母と姉には伝えたが、父には伝えていなかった。二人もわざわざ父に伝えなかったのだろう。二人とも父のことを家族というより、たまにしか帰ってこない同居人と思っている節がある。父が然程息子に興味がないことも知っているので、知らせなくても問題ないとも思っていたのだろう。



「まあ、そこはいい」



 それだけ言って話を戻された。



「木ノ下の子がいるのなら、今後について考えなければならない」


「そうだね」



 それは同感なので頷く。彼女がこちらに敵意を向けているので、下手に刺激しないほうがいい。


 母の自殺については、自分も少なからず原因があると、久留島類は認識している。あちらも久留島類に責任の一端があると考えているに違いない。そうではないと、あんな言葉が出るはすがない。



「手っ取り早く済む方法としてだな」



 父が手を組んで、重々しい口調で告げた。



「別の学校に行くことだな」



 久留島類は衝撃を受けた。それはつまり、転校ということで。


 動揺している息子に気づきもせず、父は続けて言った。



「短期間で学校を去るのは、世間のことを考えるとあまり良くない。ましてや新入生代表として全生徒の前に出たのならば、学年問わず多くの生徒がお前のことを覚えていることだろう。理由も表向き言えないことだ。そこは誤魔化せばいいが、好奇の目を向けられるだろうな」



 それはそうだ。誰に言えるものか。自殺した母の身内がいるから、学校に居づらいなどと。



「残った生徒たちの噂の的になるだろう。あることないことを憶測されるに違いない。それは腹立たしいが、背に腹は代えられない」



 父が重く溜め息をつく。久留島類は俯いた。

 冷静になっていくと確かに、と得心した。


 そちらのほうが手っ取り早い。学校が別になったら、鉢合わせることもなくなる。こちらが気遣うこともなく、伸び伸びと廊下を歩くことができる。彼女にしてもそのほうがいいだろう。忌み嫌う相手と顔を見ることがなくなるから。


 けれど。

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